ゲム山探索
クマを倒した翌日。
寝て起きてご飯食べてでメンタルリセット――とはいかなかった。
反省点もあれば命を奪ったという罪悪感もまだまだ残っている。
俺がしっかりと警戒していれば、クマとの遭遇を避けられ倒す必要もなかったんじゃないか? と。
まあ、今回避けられたとしてもいずれ出会って戦うことになっていたかもしれないし、戦闘は避けられないものだったのかもしれないが。
さて、こういう気分の時は――体を動かすしかないな!
だいぶ脳筋な解決策だなと思いながらもさっそく出発する。
インベントリ内で一際存在感を放っているクマさんは、一旦置いておく。
そのうち解体して、毛皮や肉などの部位毎に分けるつもりだ。
そういえば、新たに魔物を倒したことで習得できる『特性』が無いかと期待したが、何も無かった。
新たな魔物イコール新たな『特性』、みたいな図式になってしまうのは良くない気がするので、これはこれで良かったとしておこう。
そんな感じでインベントリ内を確認しつつトンネル内を進み、ゲム山の出入り口に到着。
慎重に周囲を確認しつつ外に出る。
警戒に警戒を重ねためちゃくちゃ慎重な動きになってしまうが、昨日の今日では当然のことだろう。
とりあえずこっちでのしばらくの目標は、トンネルから出やすい場所に新たに出入り口を作ることだ。
ここは下から上に出ていく感じにしかならず、周囲三百六十度警戒しなければならないので、出入り口としては非常に危険だと言わざるを得ない。
希望としては、スライムと戦闘した場所のような切り立った崖だろうか。
俺がイメージできていないだけで、より良い立地があるかもしれないし、結局のところ探索して都合の良さそうな場所を探すよりないか。
今日も目印を付けながら慎重に慎重に進んでいく。
しかし結局この日は、魔力を豊富に含む草を採集したくらいで探索を終えた。
ただ、体を動かしたことで精神的にはリフレッシュできたので、ある意味目的は果たせたと言えるかもしれない。
そこから数日かけて探索範囲を広げていった。
探索をしていて思うのが、「ゲム山スライム多っ!」だ。
ちょくちょくスライムが這いずっているのだ。
いや、うちの周辺が全然いないだけで、森や山なんてのはこれくらい魔物が生息しているのが普通なのかもしれない。
スライムとは戦う理由がなく、動きもノロノロとしているので、基本的には避けていく。
どうしても回避できない場合にだけ、竹槍で刺して水分を奪う、最初にスライムを倒したやり方で倒していった。
スライムは回避可能だが、戦闘不可避な魔物とも出会ってしまった。
それが、イノシシタイプの魔物だ。
アイツら、こっちを見つけたら一直線に猛スピードで走って来やがる。
『魔物解体書』に書いてあった情報はたしか、直進するととても早いのに急制動や方向転換もできるとのこと。
そういう刷り込みもあってか、単純に最近の行動を反映してか、初めてイノシシと対峙し、突進してきた時に俺がやったのは、地面を掘ることだった。
そしてそれが見事に刺さった。
イノシシにしてみれば、落とし穴のようなものである。
地面を蹴って加速しきったところで、突然その地面が消えてしまったら、急停止も方向転換も何も無い。
イノシシは俺がスキルで掘った穴の壁面にそのまま激突し、文字通り刺さったのだ。
そのまま動くことのなくなったイノシシは、俺のインベントリへと収納されていった。
壁に突き刺さった姿が滑稽過ぎて罪悪感は薄かったが、それでも命を奪ってしまったという感情は少なからずあった。
その後、二体目、三体目と倒していくうちに、そんな感覚も無くなっていったが。
慣れというのは良い部分もあり、悪い部分もあるなあ。
そんな感じで、イノシシを仕留めたり薬草を収獲したりしつつ、探索範囲を広げていく
そして深く幅の広い大きな谷に出た。
あの日遠くから眺めた時に、この山を二つに分けて見せていた要因である。
向こう側まで二十メートルはあるだろうか。
さらにめちゃめちゃ深くて、ここからだと底が見えない。
のぞき込めば見えるのかもしれないが、端に近付くことすら怖いレベルだ。
ただ、すぐ近くにトンネルの出入り口を設置するのにちょうど良さそうな地形があった。
木がまばらで視界が開けている中に、五メートルほど盛り上がり岩肌むき出しで切り立った崖が存在している。
向こうのスライムと戦闘した場所のように横穴を掘り、換気口や周囲を警戒、監視するのぞき穴みたいなものと、出入り口を設置しよう。
現状のゲム山の出入り口とここを繋ぐ方法も、最初にやった方法をそのまま踏襲する。
横穴を掘って出入り口を作り、縦穴を深く広く掘る。
目印になるものを高くかざして方向を合わせ、地下でトンネルを繋ぐ。
ここまで掘り続けた経験で、あっさりと完成した新しい出入り口から探索をすることにした初日。
周囲を警戒して問題がないことを確認して外に出ると、近くにポツンと生えている木に何かが飛んできて、葉や枝に突っ込んだような音がした。
そして、一瞬の間の後に降ってきた。
「えええ?」
俺の口から思わず声が漏れる。
降ってきたのは、俺――オウギ君と年齢的に変わらなさそうな女の子だった。
それにしても、森の中で突然クマと出会うなんていう、童謡みたいな事態に遭遇して動揺してしまったわけだ。
いや、こんな今時おっさんでも言わないようなダジャレを考えている自分にガッカリしつつ、このクマやイノシシの処理をしてみる。
インベントリの中で、皮と肉と内臓とに分ける。
骨付き肉が欲しい人が居たら申し訳ないが、肉と骨も別々にする。
これほどの巨躯をもつクマを解体するのは、おそらくとても苦労する作業だと思われるが、そこはこのチートスキルである【クラフト】――そしてインベントリである。知識など何も無い俺にでも解体できた。
血抜きとか、内臓を傷付けないようにするとか、皮をキレイに剥ぐとか、経験が必要となる作業も、お茶の子さいさい、朝飯前、屁の河童である。
イノシシも同様に解体していくと、新たなる『特性』、「解体」が発現した。
クマ一体、イノシシ三体では習得には至らずではあったが。
肉は焼いていただいてみたが、塩、胡椒、ソースなどの味付けが欲しくなってしまった。
皮はどうしたものだろうか。
たしかこういう皮って、なめす必要があるんだよな?
オンラインゲームで木か茶葉と皮と闇のナントカで合成した記憶がある。
茶葉とか木に含まれるナニカと皮のナニカが化学反応して、イイ感じになるとかそういうことなんだと思うが、全然知識が無いので、詳しそうな人を探して教えてもらうか、皮を長持ちさせるような『特性』を探すかだな。
「保護」とか「防腐」とかね。
なんにしても、魔物と突発的に出会ってしまうような、不安全行動要注意ってところだなあ。




