春の訪れとともに
凍える冬が終わり、辺りをおおっていた雪はほとんど消え、草木が芽吹き始めた。
ちなみに、雪は大量に確保しておいてある。
おかげで習得にこそ至ってはいないが、「氷」の『属性』があることは確認できた。
それはさておき、真冬の期間を掘る作業に費やし、「ゲム山」までのトンネルを開通させることに成功していた。
開通先はゆるい傾斜のついた森の中。
この出入り口、離れる時はでかい岩をのせて隠すとして、もっと人目につかないところに出入り口を作りたいので、この周辺を探索して良い場所を選ぶことにしよう。
開通した今現在はまだ午前中なので、少し辺りを見て回ろうかと思う。
周辺に人や魔物のかげは見えないが、そもそも視界が開けているような場所ではないので、いくら魔力が視えるといってもそこまで頼りにならなさそうだ。
そしてここからあまりに離れると、普通に迷子になりそうでもある。
目印を設置しながら行動するにしても、慎重に動く必要があるだろうし、トンネル内の移動は何も考えなくていいとはいえ、家までの距離もあり時間はそんなに取れない。
今日のところは軽く散歩する程度にしておこう。
そう決めて目印を設置しつつ歩き回る。
見たことの無い種類の木や草を、伐採したり採集したりしつつ進む。
新たな冒険の始まりに実はテンションアゲアゲだったりしたが、こうして周囲を見回してみると、森の中の景色なんてたいして違いがなく、平常心に戻りつつある。
今日のところはあくまでお試し探索だし、周辺をちょっと見たところで帰るか――
「グルゥゥゥ」
は? え? なんのうめき声?
背後から聞こえた音に慌てて振り返る。
「ク、クマ?」
そこに居たのは巨大なクマ。
クマは今にもこちらを襲いかからんと、臨戦態勢で鋭い眼光を飛ばしてくる。
降って湧いた危機。
咄嗟に俺がした行動――それは、ここ数ヶ月ずっと行なってきた、「掘る」というものだった。
俺の前からクマの真下まで、五メートルほどの地面を「土掘り」のスキルで掘った。
咄嗟のことすぎて加減もなにもなく、四メートル程の深さで掘り、そこにあった土は全てインベントリへと収納した。
突然足場を失ったクマはそのまま落下していく。
落下ダメージで行動不能に陥ってくれないかと思ったが、どうやらほとんどダメージは無かったようだ。
だがそれでも、突然の事態にクマといえども戸惑っているようにも見える。
さてどうする。
おそらく呑気にあれこれ考えている時間は無い。
クマを放置して帰るか、インベントリに収納した土で生き埋めにするか、何らかの手段で倒すか。
このまま出てこれずに死んでくれるのならいいが、出てこられたら厄介だ。
明日以降の探索にも影響が出てきてしまう。
生き埋めにしても、逆に掘って出やすくなる可能性もある。
見た目はクマといっても、元の世界――日本のクマではなく、この世界の魔物だ。
想像以上の能力を持っているかもしれない。
こちらから積極的に攻撃を加えて倒すとしても、接近攻撃をしようものなら、反撃でこちらの命が危うくなる気しかしない。
倒すならば今のこの距離を保っての遠距離攻撃か。
攻撃手段だけならばある。
これ以上思考に割いてる時間はない。
やるか……? よし。やろう。
インベントリから武器を取り出す。
今回使うのは二又に分かれた枝に、「伸縮」を付与した紐を張り付けたスリングショット――いわゆるパチンコだ。
スリングショット自体は、「伸縮」を習得してすぐに【クラフト】してあって、何度か試射もしている。
試射の結果は、完璧に狙ったところに当てられる確率は一割も無く、範囲を広めに取っても、せいぜい三割といったところだろうか。
命中率の低さは数撃つことでカバーするとして、あのクマにダメージを与えられるくらいの威力が出せるかどうかという問題もある。
威力の問題は弾の方で解決しよう。
スリングショットに使う弾は、石を「研磨」して球体に【クラフト】したもの。
こいつは球体でありながら、「貫通」を『特性付与』できたのだ。
「貫通」を付与できるのは、基本的に尖ったものだけなのだが、俺が「弾」と認識しているからなのか、ほかの条件があるのかはまだ検証もなにもしていないが、理由はどうあれ「貫通」による威力アップが見込める。
これを暇な時に百個ほど【クラフト】してあったので、あとは乱射して当てるだけだ。
未だに、落下による混乱状態から抜け出せていない様子のクマに向かってスリングショットを構え、弾とともに紐を引き――一発目を放った。
あけました!
正月休みに書くぞと自らを追い詰めるために、年明け初日に投稿します。
あと三〜四話したら、大きく物語が動き出す予定なので、早く書き進めたいところです。
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
更に評価やブックマーク、リアクションなどしていただき、感謝の念に堪えません。
本年もよろしくお願い致します。




