さらに掘り掘り
大岩から南西に二キロメートルほど掘り進んだところで、ここからちょっとずつ上に向かう。
ここまで来た直線上に掘っていこうかと思ったが、九十度左に向かって少しずつ上に上がっていくことにした。
ここからでは地上の様子はわからないが、おそらくこの辺りから登り傾斜になっているはずで、まっすぐ進むと背中側で外と繋がる形になる。
そこから外に出ようとすると、色々と面倒そうなので避けたい。
ということで左に曲がったわけだ。
そこから少し進んだところで、木の根が増えてきた。
ということは、地上に近付いていて、なおかつこの辺が池など水の底ではないと考えていいだろう。
木の根の張り方を見て、木と木の間を狙って掘っていく。
木の根の太さから、そろそろ外に出るだろうというところから少しずつ慎重に掘ると、三十センチほどの穴があき、光と冷たい空気が入り込んできた。
外はもうすっかり冬の空気だ。
時間をかけてここまで進めてきたので、トンネルを掘って向こうの山まで行くぞと決めたあの時から、だいぶ気温が下がっている。
換気を心がけているとはいえ、掘り進めているトンネルの中では気温の低さは感じにくいが、外の空気に触れればその寒さを実感する。
外に繋がった穴を慎重に広げ、周囲を確認する。
進行方向を見て左側が下っている急斜面に出たようで、確認できる範囲に人や魔物などの生物の気配は無さそう。
下草は枯れ、木の葉は落ち、針葉樹や常緑樹の緑色がわずかに残っているくらいだ。
穴を広げれば外に出ることも可能だが、足を滑らせたら斜面を転げ落ちることになる。
斜面の下までそんなに距離があるようには見えないが、それでも落ちたらここに戻ってくるのもちょっと面倒そうか。
とはいえ、現在地と目的地との位置関係は把握しておきたい。
上を広めにあけて、階段足場を積み上げるか。
幸い、ここの真上に木の枝はかかってなさそうだし。
とりあえず一段目を設置して上り、周囲を確認。
安全確認ヨシ!
二段、三段と階段足場を積み上げ、周囲を見回しながら上っていく。
周辺の木の高さを越えたところまで上り、目的地である「ゲム山」を視界に捉える。
地上に出るために九十度曲がって進んできたが、どうやらこのまま真っ直ぐ進むとゲム山の麓にたどり着きそうだ。
距離としてはだいたい――五キロといったところだろうか。
ここまで進んできた距離の倍はありそう。
目的地を確認したところで、階段足場を回収しながら下りる。
全て回収し終えた後で、広げた穴を埋めていく。
現状ここから出入りする予定はないし、雨水が流れ込んでこないように、庇を作るようにして天井になる部分を埋め、換気できる程度に隙間を残して石で埋めた。
折れ曲がったところまで戻り、大岩からの直線上に数メートル進み、そこからまた九十度左に曲って掘り進める。
この地域は冬になると雪が積もるようだし、春になるまでにゲム山までのトンネルが掘れればいいなと思っている。
さて、改めてゲム山に向かって掘り進めているが、現時点ではまだ、鉱石や石炭、岩塩などの利用価値の高そうなものは出てきていない。
簡単に出てくるものでは無いかもしれないが、転生者ボーナスでポンポンとわいて出てきてもいいのになとも思う。
そんな感じで、貴重な素材を手に入れることもなく、この冬の間に掘り切りたいと思いながら作業を続ける。
ところで、完成予定の春といえば、この世界に転生して一年になる季節である。
つまり、半年以上誰にもバレることなく一人作業をしてきたということだ。
しかし、本当に誰にもバレていないのか?
正直、最近ゴウ爺と話していると、言葉の端々から俺がこうして出歩いていることに気付いているという雰囲気が感じられるのだ。
気のせいかもしれない――いや、あれは気付いてそうなんだよなあ。
確証というか、確固たるエピソードがあるわけではないんだが。
ただ、気付いているという前提に立って考えてみると、それはそれでおかしなこともある。
まず子供が好き勝手出歩いていることを許していいのか?
それも、ついこないだまで床に伏せっていたような子供を――である。
離れに隔離して放置するのも、ほっつき歩くのを放置するのも同じなのかもしれないが。
そして、それを知っているのはゴウ爺だけなのか? はたまた、父上も把握しているのか?
ゴウ爺で止まっているのであれば、何故伝えないのか?
まあ結局のところ、こうして考えていても答えは出ない問題か。
とりあえず、朝食と夕食、ゴウ爺による勉強の時間に部屋に居れば良いということにしておこう。
今はとにかく、トンネルを掘り進めるのが第一だな。
たまにはスキルじゃなくて、道具を使って自力で掘るか。
体力づくりもかねて、スコップやつるはしを【クラフト】して掘ってみる。
穴掘り修行だ。
さらにやりたいこともある。
魔力による肉体強化を「魔術」とこの世界では呼ぶらしいが、その「魔術」の応用だ。
まあ、そんなことをやっていたマンガがあったので、この世界でもできるんじゃないか? って実験である。
たしか「周」だったはず。
この肉体を強化している魔力で、つるはしも一緒に強化……できない。
魔力にそんな使い方は許されていないのか、俺の能力不足か。
仕方無い。普通に掘ろう。




