掘り進む
次なるトンネルは、大岩から自宅――というか自室――に繋げて掘ることにした。
自室のベッドをインベントリに収納し、床板を剥ぎ、その下を掘っていく。
我が家に地下室があるかはわからないが、少なくともこの離れの真下には地下室が無くて良かった。
一本目のトンネルと同様に、自室の下を広く深めに掘った縦穴に向けて、大岩の縦穴から掘り進める。
方向の合わせ方やトンネルの掘り方も同様だ。
一本目のやり方をそのまま踏襲したことで、大岩から自室直下までのトンネルもあっさり繋がった。
その後、掘るスキルを強化、効率化するため、崖のほうのトンネルの先を、三十メートル四方ほどのスペース分掘り広げた。
柱も何も無い広い空間だが、天井をきちんと補強したので崩れてくることは無かった。
更にはいくつか外に繋がるように掘り、換気できる分だけ残して埋めて戻り、換気口を作った。
掘ったり天井や壁を補強したりを繰り返したことで、掘るスキルの魔力消費量が減り、一度に掘れる量が増え、トンネル崩壊を防ぐ作業速度も上がった。
となれば次はゲム山に向かうトンネルを掘る――と言いたいところだが、このまま直進するのは避けるつもりだ。
というのも、このまま真っ直ぐトンネルを掘るとなると、町の下を通ることになる。
謎の地下室にぶつかるかもしれないし、井戸にぶつかるかもしれない。
今は大丈夫でも将来何らかの影響が出るかもしれない。
要らない配慮かもしれないが、わずかでも不安要素がある以上、避けるべきだと判断した。
そこでまずは、西側の街道がある方にトンネルを掘り進め、街道を越えた先にある森の中に中継地点をつくり、そこからゲム山へのトンネルを掘る。
ここで一つ悩んでいるのが、中継地点への繋ぎ方だ。
今までは二地点の縦穴を繋ぐ形でトンネルを掘っていたが、今回はこちらから掘り進めて、手探りで警戒しながら向こうで外に繋げようかと考えている。
ここまでのやり方と若干変わることになるが、今後のことを考えるとこういうトンネルの繋ぎ方もやっておく必要があるはずだ。
地下に自分専用の道を作るというのは、人にも魔物にも警戒することなく行動範囲を広げられるということである。
今のうちにこういうやり方のノウハウを積んでおけば、いつか危険地帯を越えなければならなくなった時に、地下を迂回するという選択肢を作ることができる。
出口に人がいるかもしれない、魔物がいるかもしれない、海や湖や川にぶつかってしまうかもしれない。
危険性はたくさんあるが、やる価値はあるだろう。
水にぶつかる可能性でいえば、普通に地下を掘り進んでいるだけでもあるし、常に対策を考えておかなければならない事項でもあるか。
さて、新たなトンネルを掘る方針を固めたところで作業に向かう。
ベッドを収納し、床板を外し、自室の地下にある階段足場に乗り、ベッド床板を戻す。
大岩に一旦向かい、ここから南西に向かってトンネルを掘る。
向かう先の方向はいつものように棒と紐を使って決める。
大体の目的地を決めて、右手の親指を立てて腕を真っ直ぐ伸ばす。
これで距離が測れる――らしいが、俺にはやり方がわからないので無理。
ただポーズを取ってみただけだ。
距離は感覚で決めるしかない。
町から西側へ延びる街道は、それなりに道幅を確保してあるが、その向こうは森、さらに向こうは山になっており、こちらから街道を越えた先に出られればいい。
目測で二キロメートル進めば、街道の向こうの森か山の中に出るだろう。
という感じで地下に潜って掘っていく。
スキルで掘り、インベントリに詰め込み、周りを固め進む。
気持ちを作業モードに切り替えるために、ヘルメット代わりの「硬化」で固くした帽子をかぶり、ヘッドライト代わりの「光」を付与した水晶で明かりを確保する。
やはり、「光」『属性』を先に習得しておいて正解だった。
「火」を明かりにしていたら、不安要素だらけだ。
ガスが吹き出てきて引火して爆発とか、ギャグ時空ならススだらけの面白い見た目になるだけだが、ここで起きたら笑えない。
そんな「光」を頼りに掘り続ける。
二キロメートルほど進む予定をしているが、距離をどう測るか考えて、長さの基準となるものを作ることにした。
この世界の長さの単位は、元の世界の日本と同じメートルだ。
それは魔物解体書に書いてあった魔物の大きさが、メートルだったので間違いないだろう。
しかし、俺がこの世界の常識も世間も知らないからかもしれないが、ものさしやスケールのような、長さを測る道具はまだ見ていない。
見てないから無いとは決めつけられないが、正確に測る道具そのものが一般に流通しているのかも怪しい。
メートル原器みたいなものがこの世界にもあるのだろうか?
どこまできっちりと長さが定義されているか不明が、いずれにせよ入手するのは難しいだろう。
なので、勘と経験で一センチ、十センチ、一メートルの長さで木の棒をカットしたものを【クラフト】。
それを基にして、十メートル、百メートルの長さのヒモを【クラフト】。
あくまで感覚で作り出したが、一メートルで五ミリもズレてない自信はある。
確認しようがないけど。
ちなみに、建設現場に於ける最小単位はミリメートルだ。
一メートルと言うことはあるが、一センチとか十センチと言うことはほとんどなく、十ミリとか、百ミリ――もしくは単に百――と言うのが一般的だ。
日本での仕事に思いを馳せつつ、掘っては進み、掘っては進んで、百メートルヒモを置いて付けたしるしが二十になった。
【クラフト】試作品あれこれ。
木製自転車。羽無し扇風機で進む車。
スリングショット。
肌着。手袋。帽子。安全靴。
シャワー。保温機能付き湯船。
疲労回復機能付き掛け布団。
わら半紙。鉛筆。




