新たな目標
目標にしていた高い木を越えた位置で、真っ先に目に入ってきたのは、ここから方角でいうと南にある、縦に一本真っ直ぐな切り込みが入ったように見える高い山――「ゲム山」。
地形やその成立ちには全然詳しくないが、あの切れ込みに見える地形は、水の侵食によって削られていき、削られたことで水が流れ込みやすくなって川となり、川となったことでさらに削れていった結果生み出されたという感じだろうか。
地殻変動で別々だった陸地が衝突して隆起し、その継ぎ目でキレイに谷が形成された、なんて歴史があるかもしれないし、この世界の創造主が地形ツクールツールみたいなもので、山を配置した後で真っ直ぐ削り、深い谷を作っただけかもしれない。
巨大な竜の一撃で刻まれた痕だとか、古の英雄が剣を一振した痕だという伝説があると、この地域の地理について教わっている際にゴウ爺から聞いたこともあったか。
成立ちはどうあれ、圧倒される山の姿だ。
そこから視界を手前に引いてくると畑が広がり、さらに手前に町が見えてくる。
人々の暮らす家や町並みを見るのは初めて。
厳密にはオウギ君の記憶にあるので、この目で見たことが無いわけではないが、俺としては初見といっていいはず。
ちなみに、一番手前にある我が家までは、木の陰に隠れてさすがに見えなかった。
ゲム山の裂け目から川――「アル川」――が町に向かって流れ、町の手前で大きく東側に曲っている。
アル川が流れていく先は、鬱蒼とした森が広がっていて、未開、未探索の地となっているらしい。
こうして見回し、山や川や畑とともに見ると、街でも町でもなく、自然豊かな長閑な農村といった雰囲気だ。
改めて切れ目の入ったゲム山を見る。
あの山の向こうの向こうに王都があるらしい。
この世界の、この国の測量技術がどれほどかはわからないが、直線距離だとそんなに遠くないとされている。
しかし、この山々を越えるのはかなり厳しいらしく、真っ直ぐ王都に向かう、もしくは王都から真っ直ぐこちらへ来るのはほぼ不可能だという。
この町の周囲は、北に山、南にも山、東は大森林で、唯一西に人が通る道が延びている。
つまり、ここから別の地域に行くには、西側に一度抜ける必要があるということだ。
ここから王都へは、一度西に向かい、ぐるっと山々を迂回するルートが所要時間でいうと最短のようで、急いでも五日ほどかかるとのこと。
王都のある方角を眺めつつ、王都への道のりをなんとなく想像してみたが、王都に行きたいかと問われると、現状は全く行きたいとは思えなかった。
きっと無駄に人が多いだけだろうし、そんなところに転生者が行けば、ろくでもないトラブルに巻き込まれるのがオチだろう。
トラブル云々は実際に起きるかわからないが、今のところ行く価値も意味もないのは間違いない。
見えもしない、行けもしない王都には興味はないが、視界に入る裂けた山にはめちゃくちゃ興味がある。
今いるこの森や山の探索を完璧に終えたわけではないが、いつまでも似たような場所の探索でマンネリ化しつつあるのも事実だ。
ということで、新たな目標としてあの切れ目のある山――「ゲム山」に行き、探索をしようと思う。
もちろん誰にも見つかること無く――だ。
普通に行くのであれば、町を通り抜ける必要があるが、そのルートは無し。
誰にも見つかること無く町中を歩くなんて不可能だしね。
東側の大森林を進んでいけるよう、慎重にルートを開拓することなら可能だとは思うし、西側の街道を人目を警戒しながら進むということもできるとは思う。
しかし、そのルートも無しだ。
ゲム山で探索も目的ではあるが、山にたどり着くルートを作るのが俺の新たな目標としようと思う。
それがさらにその先の目標に繋がる予定だ。あくまで予定だけど。
「さてと」
そろそろ下りて帰るか。
外に出て体を動かし、澄み渡る空や、不思議な切れ目が入った山、緑広がる景色を見たことで、昨日の陰鬱とした気分はだいぶ晴れた。
新たな目標を設定したことだし、そのための準備に取りかかろう。
……まあ、明日からでいいか。
章立てしているわけでもなければ、する予定もするつもりも無いのですが、章立てしていたとしたら第一章の終わりといったところです。
次から実質第二章――なんですが、まだしばらくはソロファームの予定です。
書き始める前はこんなにぼっち状態が続くとは思っておらず……。
早く人とたくさん交流してもらいたくはあるのですが。
読んでくださった皆さまに感謝しながら続きを書いていきたいと思います。
では失礼いたします。




