レイちゃんの置き土産
インベントリの中で見たのは、『特性』の「治癒」「回復」「浄化」、そして『属性』の「癒」だった。
まず間違いなくレイちゃんとの親愛度が高まった結果だろう。
絆の結晶、みたいなものだ。
レイちゃんを倒したらどんな『特性』が手に入るんだろう? なんて考えが頭によぎったこともあったが、倒す必要なんてそもそも無かったということか。
スライムの呪いはいとも簡単に解呪されてしまったというわけだ。
まあ、戦って習得する『特性』と、仲良くなって習得する『特性』とでは、違うものになるかもしれないが。
さて、注目すべき点は、「治癒」「回復」「浄化」と三つもある『特性』――ではなく、「癒」なる『属性』だろう。
俺はあの神さまが言っていた「四大精霊」という言葉から、『属性』というのは「火」「水」「風」「土」の四つしかないものと思い込んでいた。
オウギ君の記憶にも、俺がこの世界に来て触れたものにも、四つの『属性』しかなかった。
ここで新たに「癒」という『属性』があることを知ったことで、他にもまだまだたくさん『属性』があるのではないかと推測できるようになったわけだ。
ありそうなのが、「雷」「氷」「光」「闇」あたりだろうか。「聖」なんて『属性』もありそうだ。
特に気になるのは「光」『属性』だ。
もし、これが存在して習得できたのならば、この世界の暗すぎる夜に文字通り光明が見えてくる。
とはいえ、どうやって「光」を『属性』として習得するかはわからないが。
太陽光を上手く利用することで習得できれぱいいが、そもそも上手く利用する手段が現状無い。
鏡やレンズを【クラフト】できればいいんだけどなあ。
未知なる『属性』への期待はこの辺にしておいて、今回習得したものについても考えてみる。
『属性』「癒」と『特性』「回復」。
この二つの違いがあるのかわからないが、どちらも飲料水に付与するだけで、ポーションのようなものになると思われる。
他の『特性』と同じであれば、使えば使うほど効果が高くなっていくはずなので、特殊な素材などに頼ることなく、ただの水をとんでもない効力のポーションに生まれ変わらせられるかもしれない。
将来的に、やろうと思えば「すごいポーション」――ネーミングセンスゼロ――で大儲けなんてことも可能か。
まあ、仮に「すごいポーション」が作れるようになったとして、販売ルートなどの伝手もなにもない上に、それを構築できたところで、作成者の俺が目立つような展開は避けられないだろう。
となると、可能ではあってもあまりやりたくない展開か。
ポーションでのお金稼ぎはともかく、自己治癒のためにも、「治癒」を【クラフト】で使いまくって、効果を少しでも強化しておきたい。
やれることとやりたいことがまた増えてしまった。
「治癒」に関して言えば、「治癒」スキルを【クラフト】して使ってみたいというのもあるし。
「回復」と「浄化」も色々試してみたい。
「回復」は疲労回復とか、魔力回復とかできるようになるのだろうか?
視力回復とか、欠損部位回復なんてことまでできてしまったら、【クラフト】「インベントリ」に並ぶチート能力となってしまう。
「浄化」のほうは、消毒や殺菌のような効果だろうか。
病気への対抗策になるかもしれないし、飲水として適さない水を、飲用可能に変えられるかもしれない。
『特性』の使い方に思いを馳せつつ、早速だけど一つ試してみようかな。
「治癒」をスキル化するために【クラフト】してみる。
スキル名は「キズなおし」としておく。
次にインベントリの中から刃物を取り出して――左手の親指でいいか――傷を付ける。
「痛って」
自らわざとやったことでも痛いものは痛い。
今【クラフト】したての「キズなおし」を発動!
「うへぇえ」
傷は痕も残さずキレイに治った。
しかし、その代償にとてつもない量の魔力が失われた感覚に襲われる。
無茶苦茶とも言える方法で増やしてきた魔力の、その大半――おそらく七割ほど――が一瞬で失われた。
裂けた皮膚を元通りに戻すという、それこそ魔法のような効果とはいえ、この魔力消費量はあまりにも多すぎる。
いくら習得したばかりの『特性』とはいえ、これではうまく活用するのは難しい。
しかし、なぜこんなにも魔力を消費するのか。
うーむ。
スキル「キズなおし」を【クラフト】した際の魔力消費は、他のスキルを【クラフト】した時と変わらなかったんだが。
試しに今度は、「治癒」を水に付与して【クラフト】してみる。
やはり、【クラフト】だけなら魔力の大量消費は起こらなさそうだ。
さて、この【クラフト】した「ポーションもどき」な水は、飲めばいいのか、キズ口にかければいいのか?
とにかく試してみるしかないか。
レイちゃんについて。
オウギ君の物語に再び登場するか不明なので、ここに記しておこうと思う。
現時点でのオウギ君には、知る由もない情報である。
いつかオウギ君も知る時がきたら、「オウギ君は今さら知ったのね。その情報はすでに知っていたよ」と優越感に浸ってほしい。
まず、レイちゃんは「癒」の精霊である。
この世界にある、傷、病、呪、疲労、ストレスなどを癒そうとする力、そこから生まれた。
レイちゃんは普通の人の目に映ることはない。
だが、まれにレイちゃんの姿を捉えられる人間もいた。
こちらの世界で、霊感が強いだとか、視える人だとかいわれるような人間だ。
しかし、そんな彼、彼女らでも、しっかりと、くっきりはっきりとその姿が見えるわけではない。
なんとなく存在を感じたり、不意に見えたりする程度で、姿形を認識し、あまつさえコミュニケーションまで取れるのは、オウギ君くらいのものだったようだ。
そんな「癒」の精霊であるレイちゃんは、身体のいずれかにハンデを背負っている子や、生まれつき体質が弱い子のもとへと向かって飛び回る。
彼女が、どうやってソレを探知して、ソコへ向かうのかはついぞわからなかったが。
さて、そんなレイちゃんだが、基本的には気まぐれで奔放としかとれない行動をしている。
目的の人物のもとへと一直線で向かうわけではなく、フラフラとあっち行きこっち行きしながら進んでいく。
それがレイちゃんの性格によるものなのか、「癒」の精霊の性質によるものなのか、探知能力によるものなのかもわからずじまいだった。
無事、目的の人物にたどり着き、肉体的な不全や体質などを癒やした際、その場に視える人がいると、女神や天使がそこにいたと崇められる。
女神が現れ病弱の子がすっかり元気になった。
目が見えなかった子が、天使によって見えるようになった。
そんな伝説や逸話が各地に残っている。
しかし、彼女は目当ての人物のもとへわき目も振らず進むわけではない。
寄り道もすれば立ち止まりもする。
つまり、たどり着く前に目当ての人物が亡くなってしまうこともある。
転生者の人格となる前のオウギ君もその一人だ。
オウギ君は間に合わなかった事例なのだ。
たどり着いたが間に合わなかった場に、視える人物がいることもある。
そのせいで、死神として恐れられている地域もあった。
彼女は生命を刈り取りに来る存在だと。
様々な伝説や逸話を残し、人々に崇拝や畏怖の念を抱かせる。
当のレイちゃんは、人々からの評判などどこ吹く風で、今日もふらふらと飛び回っている。




