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気になってしまいました

 ひゅーーー。


 レイちゃんが落下する。


 そして――。


 びよーーーーーーん。びよーーーん。びよん。


 ――ぶらーん。


 背中の辺りから上部に伸びるヒモで、つり下げられるレイちゃん。


 しばらくそのまま動かないレイちゃんを見て、これも楽しくなかったか? と思っていると、パタパタと羽を動かして飛び、レイちゃんは再び足場の上に。


 再び、ひゅーーーーっと落下していく。




 結局レイちゃんは、夕食の時間までバンジージャンプを続けていた。


 というか、そろそろ使用人が来てしまうという時間になって、バンジージャンプ装置をインベントリに回収して、強制終了させたのだが。

 

 バンジー装置を取り上げられて、レイちゃんは明らかにむっとしていた。


 仲良くなるための【クラフト】で、心の距離も近付いていっているはずだが、この強制終了のタイミングだけはちょっとヒビが入った気がする。


 それくらいにレイちゃんは、バンジージャンプを気に入ってくれたということで、それは良かったとしよう。


 ちなみにレイちゃんは、落下する感覚を楽しんでいる訳ではなく、びよんびよんと伸縮するヒモに引っ張られるのが楽しいようだ。


 夕飯を終え、使用人が食器を下げた直後、レイちゃんの目から出るパンジージャンプやらせろ光線に負け、バンジー装置をインベントリから取り出すことになった。


 そこからいつまで経っても飽きないレイちゃんと、さすがに眠くなってきた俺。


 バンジー装置をなんとか回収し、ちゃちゃっと入眠するために、【クラフト】を連発して魔力を使い果たし、魔力枯渇状態を作り出して意識を失った。


 翌朝早く、レイちゃんに叩き起こされる。


「朝食を運んでくる時間にはまた片付けるからな」


 釘を差しつつバンジー装置を設置し、レイちゃんに装着する。


 びよんびよんと伸縮するヒモに、楽しそうに振り回されるレイちゃんを眺めながらふと気付く。


 魔力枯渇状態で、寝るというより気絶したのに、こんなに朝早く叩き起こされたことが、まったく気にならないくらいにスッキリしていることに。


 こんな入眠の仕方は、今までにも幾度もしているが、不快感も気怠さも寝足りなさも感じない朝は初めてだ。


 おそらく、目の前にいるニコニコ顔で吊られている謎の存在の仕業だろう。


 レイちゃんは、体力や魔力を回復することができるのかもしれない。


 まあ、睡眠の質を向上させる乳酸菌飲料みたいなものを、身体から発しているのかもしれないが。


 その場合、レイ(0)ちゃんではなく、セン(1000)ちゃんと呼ばなきゃいけなくなるな。


 そんな風に、レイちゃんの能力についてとりとめもなく考えていると、気になる()()が浮かんできた。


 正直なところ、こんな()()思い浮かんだことが、我ながらあまりよろしくない気もするが、しかし、気になってしまったのだから仕方がない。


 さすがにこれは確かめる手段もないし、確かめるつもりもない。


 それでも、思い浮かんでしまうことは止められないし、思うだけなので許してほしい。


 延々と自らに対して言い訳をしてきたが、こんな()()を思いついてしまったことに、俺の中では罪悪感のようなものがセットで付いてきてしまっているのだ。


 無意味に引っ張ってきたが、何を気になってしまったかといえば、もし、レイちゃんを倒したとしたら、どんな『特性』が習得できるのか? ということだ。


 仮に激レアで使い勝手最高の『特性』が習得できるとして、レイちゃんと戦う選択肢はないが、頭の中に浮かんでしまったものは仕方ないだろう?


 スライムを倒したことで得たものなので、ある意味スライムの呪いかもしれない。


 まあ、戦ったとして勝てるかもわからないが。


 あんな可愛らしい見た目でめちゃくちゃ強い可能性もある。


 弱かったとしても戦わないけど。


 でもでもーそれでもー、気になるものは気になるっていうかー。気になっちゃうものは気になっちゃうしー。


 俺の脳内がおかしくなったところで、レイちゃんに声を掛ける。


「そろそろ一旦終わりね」


 いやいやレイちゃん。昨日からかなりの回数やってるでしょうに、そんな苦虫を五十匹くらい噛み潰したような顔しないでよ。


 レイちゃんと分け合いながら朝食をいただく。


 ご飯を食べながらも不満顔のレイちゃん。


 バンジー装置を取り上げられたこともあるが、前髪が目にかぶって邪魔で気になっているようでもある。


 いや、機嫌が悪いから前髪も気になるって感じなのかな?


 これで機嫌が直るかはわからないけど――


 インベントリから、昨日意識を失うまでアレコレと試行錯誤しながら【クラフト】した物の一つ、シュシュのような物を取り出す。


 着色もデザインもない、地味な布にゴム代わりの伸縮するヒモを通しただけのものだ。


「これでレイちゃんの前髪結んでいい?」


 レイちゃんがキョトンと首をかしげるが、拒否しているわけではなさそうだ。


「ちょっと前髪触るね」


 レイちゃんの前髪を束ねて、【クラフト】シュシュをくるくるっと巻く。


「おっけー」


 巻き上げ終わったことを合図すると、レイちゃんはぺたぺたという感じでおでこや前髪、シュシュを触って確認する。


 そしてまた食事に戻った。


 レイちゃんの表情を見ると、どうやらかなり機嫌を直してくれたようだった。

  

 



 ――二日後の朝。


 一緒にご飯を食べたり、ジュースを飲んだり、遊んだり、散歩したり、隣で寝たりと、仲を深めたレイちゃんが、神妙な面持ちで俺を見ていた。

 じーー


 (…………)


 じーーーー


 (………………)


 じいいいいぃぃぃぃ


「負けました」


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