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井戸端会議

 うちの庭にある井戸の近くで、使用人のおば――お姉様二人が話しているようだ。


 ちなみに、飲み水を得るために欠かせない井戸だが、この周辺には我が家に一つ、我が家のある町の中心部に一つあるようだ。


 その他生活に使う水は、近くを流れる川から引き込んだ水路があり、それを利用しているとのこと。


 そんな水事情はさておき、なんとなく井戸端会議の内容に聞き耳を立てる。


「アタシもトシだし、シンドイわ」


「ホント、トシは取りたくないものね。疲れが全然抜けていかないのよね」


「わかる! どんだけ寝ても疲れが取れないのよね。アタシの元気はどこへ消えたのかしらねえ」


 よくある世間話というか、愚痴というか。


 だが、こうやって話をして息抜きをする時間が大事なのかもしれない。


「元気といえば、オウギ様は随分とお元気になられたようで」

  

「たしかに、食事量も増えた……けど、朝真っ青な顔で起きるのは変わらないというか、むしろ増えたような?」


「朝が弱いのかしらね?」


 そんな低血圧みたいな話ではなく、魔力欠乏状態で寝る――というか意識を失う日々のせいだろうな。


「最近は寝込むことも無いし、オウギ様の体調は良くなっていそうね」


「元気になられているとして、それはそれでお可哀想ではあるわね」


「あの離れに閉じ込められたままでは、体調が良くなった甲斐がないわね」 


 こうして抜け出し聞き耳立てていて、申し訳なくなってきたかも。


「ホント、色々お可哀想よね。誕生日も祝ってもらえないようだし」


 たしかにオウギ君の記憶の中に、誕生日に関するものはなにも無い。


 この世界では誕生日を祝う習慣が無いものだと思っていたのだが、どうやら違ったのか。


「オウギ様の誕生日となると、どうしてもハミャ様を思い出されるでしょうし」


 ハミャ様? オウギ君の記憶には無い人物の名前である。


「数日ズレているとはいえ、オウギ様の誕生日はほぼハミャ様の命日ですものねえ」


 俺の現在の肉体である、オウギ君が産まれるのと同時期に亡くなった、ハミャ様という人物がよほど大事な人間だったということだろうか。


「オウギ様をお産みになられて間もなく、でしたからねえ」


 んんん? ええ?


「お体の弱かったハミャ様が、それこそ全身全霊を注いでオウギ様をご出産なされて……」


「あの日、旦那様は愛する奥様の一人を、奥様は大親友を、喪うことになって、屋敷の空気がとんでもなく重くなってわね」

 

 思い出すようにして言ってるのは、チヨゼの方か。


 いやしかし、そんなことよりもだ。


 オウギ君を産んだのは、オウギ君の記憶にあるホワネという母親だと思っていた人物ではなく、ハミャという人物ということか。


 そして、オウギ君の虚弱体質は、母親譲りだったらしい。


「あの時、ハミャ様が亡くなられた理由を、産まれたばかりのオウギ様に押し付けることで、旦那様と奥様は心の平穏を取り戻そうとされて、それで一時の救いになるなら良いかと思っていたんだけどねえ」


「あのタイミングで魔物の大量発生が起き始めて、旦那様のみならず奥様までお忙しくなってしまわれて」


「この地域どころか、国中が大騒ぎでしたからねえ」


「一時的に、旦那様たちとオウギ様の距離を置くことで、落ち着いていただけるのならとアタシも思ってたし、一緒に暮らしてればそのうち家族として打ち解けると思ってたのに、バタバタが続いて、今に至るまでギクシャクしたままとはねえ」


 つまり、オウギ君を産んだ代わりに、母上(産みの)は亡くなり、そのショックから父上と母上(育て?)が精神的にやられ、オウギ君に逆恨みしたもんだから、物理的に離したところ、魔物によって社会情勢が不安定になり、忙しさにかまけて関係性を修正できないまま今に至る――という感じか。


「そろそろ仕事に戻らないと」


「あら、そうね」


 そんな風に戻っていった使用人の二人をこっそり見送り、俺も自分の部屋へと窓から戻った。

読んでくださった皆様、ありがとうございます。

さらに、評価やブックマークをしてくださった皆様、大変感謝しております。

自分がやりたくて始めた書き物ではありますが、とても励みになっております。

改めてありがとうございます。

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