【クラフト】なるスキルをもらって転生しました。

魔力確認

　俺の身体に魔力が通っているのは、当然自覚している。

　スキル【クラフト】も、魔力を消費して発動させているわけだしね。

　わかっていながらゴウジに「僕には魔力があるのか？」と問うたのだ。

「申し訳ありませんオウギ様。オウギ様が魔法を使えない理由というのはわかりかねます」

　ゴウジが恭しく頭を下げる。

「魔法の使えない僕にはわからないけど、普通の人なら、あの人は魔力をたくさん持っているとか、この人は魔力の質が良いとか、視て取れる訳ではない？」

「魔力を視る、というのは聞いたことがございません」

　ということは、俺――もしくはオウギくん――に与えられた特別なモ(・)ノ(・)ということか。

　転生者特典とかいうやつかもしれないし、オウギくんの魔法が使えない原因かもしれないし、病弱だった要因なのかもしれないし。

　それにしても俺には、有用なスキルがあって、スキルに付随するインベントリがあって、この世界でもレアだと思われる魔力を視る能力まであるのか。

　なんとも贅沢過ぎて、自惚れて調子に乗ってしまいそうな状態である。

　まあ現状は、凶暴な魔物、人間に攻撃されたら、せっかく転生した命も儚く散ってしまうくらいには弱い存在だ。

　有害要因に目を付けられないようにしつつ、スキルを使いこなせるようになって、自分の身を守れるようにならねば。

「私も魔力について詳しいわけではございませんが、オウギ様は魔力というものについて、どこまでご存知でしょうか？」

「魔法を使うための燃料、というくらいかなあ」

　俺の場合は現状、スキルを使うためのリソースでしかないが。

「はい。その認識で間違いございません。が、それとは別の使い方がございます」

「へええ。そうなんですか？　うーん……全然わからないので教えてください」

「かしこまりました。

　魔力のもう一つの使い方というのは、身体強化でございます」

「パワーアップする？」

「人によって得手不得手ございますが、攻撃力の強化や、防御力の強化、持久力や敏捷性を強化する方もおられます」

　魔力による筋力の補助、強化のような効果だろうか。

「魔力を変換して起こす事象を【魔法】と呼び、魔力にそのものを利用することを【魔術】と呼んでおります」

　俺の知る限りだと元の世界では、「魔法」と「魔術」という言葉を、そのように分けておらず、ほぼ同じような意味合いだったはずだ。

　おそらく、この世界では魔力の使い方で言葉を分ける必要が生まれ、それぞれに「魔法」「魔術」という言葉を当てはめたのだろう。

「魔力による身体強化は【魔術】の一つとされまして、魔法の使用を生業とする者や、戦闘を生業とする者にとって、必須の技術でございます」

「戦わなくても身体強化をするということ？」

「おっしゃる通りでございます。

　戦闘を行わない魔法使用者も、魔力による身体強化を行うべきとされております」

「殴り合いとかするわけじゃなくても？」

「はい。【魔術】というのは、自身が持つ魔力を認識し、意識し、操作する必要がございます。

　そしてそれによって魔力の量が増え、質が向上するとされております」

「なるほど。身体強化と共に魔力強化でもあるんですね」

「その通りでございます」

　俺の場合、スキルで魔力を使い切ることで魔力の量を増やしているが、どうやら一般的には自ら魔力を動かすものらしい。

「では、なぜ身体強化の話をしたのか、ですが――」

　ゴウジの話を遮って言う。

「それができるなら、僕の身体にも魔力があるということになるから？」

「はい」

　ゴウジが大きく肯く。

「自身の魔力を認識する必要がある【魔術】を行えるのであれば、オウギ様にも魔力があるということになります」

「それはどうやればいいの？」

「一般には魔法を使う中で、自身の魔力を認識するのですが、オウギ様の場合は――ご自身で色々お試しになられる他ないかもしれません」

　魔法を使えない人向けのノウハウなど無いということだろう。

「うーん……うん。試してみる」

　実際は魔力を認識しているので、試すまでもないのだが。

　この世界の人は魔力を視ることができるのか？　ということを知るための質問が、だいぶ横道にそれた感はあるが、魔力による身体強化は重要な話である。

　使用人の二人とゴウジとでは、纏う魔力の質(・)感(・)が違うのだが、その差は【魔術】による魔力の強化を行っているかどうかだろう。

　となると、魔力を意識的に強化している人とそうでない人を、俺なら見分けることが可能ということになる。

　それを判断基準の全てにするべきではないものの、ぱっと見で警戒に足る相手がわかるのはありがたい。

「それにしてもゴウ爺はすごいね」

「いえ、この程度の知識であればなにも」

「ううん。そっちじゃなくて」

「と、おっしゃりますと？」

「言葉選びがすごいなって。

　僕がわかる中で難しい言葉を選んで使ってるよね？　僕が言葉を覚えて使えるように」

「さすがオウギ様。おわかりになられましたか」

「ゴウ爺の本来の仕事じゃないんだろうけど、きっと教えるのも上手いんだろうね」

「恐縮でございます。

　言葉を教(・)え(・)る(・)機(・)会(・)が(・)増(・)え(・)て、慣れてきたのかもしれません」

　ゴウジはそう言うと、俺の前に一冊の本を開く。

「せっかくオウギ様にお褒めいただいたことでございますし、本日もしっかり勉学に励まれるよう、お手伝いさせていただきます」