視えるモノ
周囲を見回した時、視界の端に飛び込んできて気になったのは、一本の野草だった。
一見どこにでも生えていそうな野草。
それが、光に包まれているというか、オーラが溢れているというか。
これは感覚としか言うより無いが、魔力が満ち溢れているような気がする。
改めて周囲を目を凝らして視ると、木の実など一部が、他より光っているように視える。
さらによくよく見ると、草や木など、どれもうっすらとオーラのようなものを纏っているように視えた。
俺の感覚が正しいとすれば、植物もみな魔力を保持しているが、その強弱に差がある。ということだろうか。
しかし、目を凝らしたら視えるようになったということは、今まで周囲に危険がないか目を配っていたはずが、実は全然足りていなかったということになるのかもしれない。
いやいやいや。そんなことはないはずだ。俺はちゃんとやっていたはずなのだ。
これは、俺の持つ魔力が増えてきたからこそ視えるようになっただけのことなのだ。そうに違いない。
他でもなく自分自身に無意味に言い訳しつつ、一際目に付く野草を、お手製の石のナイフで刈り取り、インベントリの中へと収納する。
インベントリの中に入れることで、この野草は「セージ」という名前で、食用も可能――食べられるというだけで、美味しいかどうかは別――ということがわかった。
「セージ」という植物は、元の世界にもあったのは知っているし、ゲームによっては薬草の一つとして登場することもあった。
とはいえ、今刈り取った「セージ」が、元の世界の「セージ」と同じものかは、植物の知識が無さすぎてわからない。
元の世界との比較はできないが、こいつがこの世界の「セージ」であり、おそらく魔力を溜め込んでいる植物ということである。
すべて予想でしかないが、この「セージ」は薬草の類だろう。
魔力をより多く蓄えているようなので、効果量としては大きいものになると思われるが、どんな効果があるのかはわからない。
インベントリの中に入れても、詳細までは教えてくれないし。
仮に良い効果を持つ薬草だったとしても、飲むのか塗るのか、無加工でいいのか、乾燥させるのか、すり潰すのか、煎るのか、煮出すのか。
結局「セージ」については何もわからないので、とりあえずインベントリの中で眠っててもらおう。
薬草そのものの効果はわからなくても、成果は得られた。
どんな植物にもどうやら魔力が流れている。中には魔力を多く溜め込む植物がある。木の実に魔力を溜め込む傾向がある。ということだ。
これがわかったことで、「クワの実」や「キイチゴの実」など、食べられる実を探し易くなった。
逆に、禍々しく、毒々しいオーラを纏う「スズランの実」など、けして口には入れないと思わせる、食用不可な植物もわかるようになった。
ところで、魔力――確証はないが、メンドイので魔力だと思うことにする――が視えるとわかったが、これはこの世界の誰もが視えるものなのか、俺――というかオウギくんか――が特別なのかが気になるところだ。
一般には魔力なんて視えないものだとすると、視える俺は何者だと騒ぎになりかねない。
それとなく老執事――ゴウジに確認するしかないか。
植物の持つ魔力が視えることを自覚したわけだが、当然植物以外にも適用される。
つまり、人間の持つ魔力も視ることができたのだ。
人間といっても、俺が顔を合わす人間は今のところ三人――使用人のかなーり年上のお姉さま二人とゴウジ――だけだが、その三人の持つ魔力も視ることができた。
人間が纏う魔力は、それが何を表すのかわからないが、色のようなものがそれぞれ違うように視える。
そして、それとは別に使用人の二人とゴウジとでは、あからさまな違いがあった。
使用人の二人が纏う魔力は、無秩序不規則で、身体から発散していっているように視えるが、ゴウジが纏う魔力は、身体から離さないために、その全身を巡らせているように視えた。
お勉強の日、そんなふうにゴウジを観察していた俺は、気になったことを訊くことにした。
「ねえゴウ爺、僕は魔法が使えないわけだけど、それって僕に魔力がないから? それとも別の理由がある?」




