プロローグ
E.Y.E.S--それは人類史上最大の革命となるはずだった。
隠された現実を暴き、異次元への扉を開き、そして理を超えた力を授ける「眼鏡」。
しかし、クリシュナがそれを偶然起動させてしまった瞬間、彼は想像を遥かに超えた巨大な陰謀へと巻き込まれていく--。
一方、兄のクリシュは誰にも言えない秘密を抱えていた。
彼の体内に宿る**紅の宝石**は、制御不能な力をもたらす。
かつての師でありながら今は体育教師として潜伏するゼンの助けを借りて、クリシュナは世界が「現実の戦争」によって崩壊する前に、真実を探し出さなければならない。
だが、その裏で「クイーン」、デズモン、そして謎の組織がE.Y.E.Sを狙っていた。
それは次元移動を支配し、史上最強の兵器を生み出すため--。
次元の境界が崩れ始めたとき、クリシュナは己の力を制御できるのか?
それとも、破滅へのゲームの駒に過ぎないのか--?
「やあ、みんな!その前に、まずは自己紹介させてくれ。俺の名前はクリシュナ!世界一イケメンな男さ!ハハハ......まあ、それはちょっと言い過ぎかもしれないけど、自分を褒めるのは自分しかいないだろ?」
「ってことで、少しだけ俺の人生について話そうと思う。パッと見は普通の高校生に見えるかもしれない。でも実は、俺には他の奴らにはない秘密があるんだ。」
「俺は小さい頃から一人で生きてきた。親父とお袋は俺がガキの頃に亡くなって、それ以来俺は孤児として育った。両親の記憶はほとんどない。夢の中にぼんやりと浮かぶことはあるけど、成長するにつれてその顔すらも霞んでいく......。」
「でもまあ、人生は続くもんだよな?答えのない疑問を抱えながら、俺は大人になった。俺の両親って一体何者だったんだ?俺の中の"違和感"は一体何なんだ? そして何より......俺の人生に欠けている"何か"って、一体何なんだ?」
フラッシュバック
激しい雨がシフォリアの街を叩きつけ、道には水たまりが広がっていく。灰色の空には雷が鳴り響き、時折、周囲のビルのガラスを眩しく照らした。
温かな幼稚園の教室内では、ベルの音が鳴り響く――授業が終わった合図だ。子どもたちは整列し始めるが、中には早く帰りたくてそわそわしている子もいる。外では、親たちが大きな傘を持ち、迎えに来ていた。
「みんな、ちゃんと並んでね。押さないように!」
先生の優しい声が響く。
子どもたちは素直に並びながら、楽しそうにくすくす笑っていた。お父さんやお母さんに会えるのが待ち遠しいのだ。
教室の隅、一人の少年が窓のそばでじっと立っていた。
クリシュナ。
曇ったガラスに小さな手をそっと添え、外をじっと見つめる。
でも――彼が探していた人の姿は、どこにもなかった。
雨の靄の向こうに、ぼんやりとした女性の影が見えた。姿はぼやけている。でも、クリシュナには分かった。いや、分かりすぎるほど、知っていた。
風になびく長い髪。優しく微笑む顔。
――お母さん。
クリシュナの目が大きく見開かれる。身体が震え、喉が詰まる。
「い...お母さん...?」
かすれた声が漏れる。
胸が締め付けられる。分かっている、そんなはずはない。もう、この世にはいないはずなのに。
なのに、どうして?
どうしてこんなにもはっきりと見えるの?
突然、肩に小さな手がぽんっと触れた。
「クリシュナ?」
はっとして振り向く。鼓動はまだ速い。
目の前には、前髪をそろえたショートカットの女の子が立っていた。少し不安そうな表情を浮かべている。
「...なんで驚かせるんだよ。」
クリシュナは少しムッとした声で言った。
さっきまでの動揺が残っていたせいか、つい不機嫌そうな口調になってしまう。
「ごめん...驚かせるつもりはなかったの。」
女の子――リラ は少し俯くと、小さな手を差し出した。
「これ、クリシュナのだよ。」
クリシュナは目を瞬かせ、リラの手元を見る。
そこにあったのは、小さな星型のキーホルダー。
「あ...これ...」
クリシュナはそっと受け取り、ぎゅっと握りしめる。
そして、ほんの少しだけ微笑んだ。
「...ありがとう。」
リラは静かに頷くと、柔らかく微笑んだ。
「どういたしまして、クリシュナ。」
その時、遠くから優しい女性の声が響く。
「リラちゃん、おうちに帰るわよー!」
リラはその声のする方を振り向いた。
「ママ!」
そう叫んで、小走りで門の前に立つ女性の元へと向かおうとした。
しかし、リラが完全に行ってしまう前に、クリシュナが突然声を上げた。
「リラ!!」
少女は振り返り、困惑した表情を浮かべる。
「手を出して!」クリシュナが言った。
リラは眉をひそめる。「え? なんで?」
クリシュナは答えを待たず、リラの手をぎゅっと握ると、彼女の手のひらにそっと星型のキーホルダーを戻した。
「これはもう君のものだ。」
クリシュナは確信に満ちた声でそう言った。
「君のヒーローからのプレゼントだと思って! 君が最初に助けてもらった証さ! ははは!」
リラの瞳が輝いた。クリシュナの言葉に心が温かくなり、感動が胸に広がる。
彼女はそのキーホルダーをぎゅっと握りしめ、満面の笑みを浮かべた。
「うん、うん! ありがとうね、クリシュナ。」
遠くから、母親の声が再び響く。
「さあ、帰りましょ、リラ。」
「はーい、ママ!」
リラは去る前にもう一度クリシュナを振り返り、小さな手を元気よく振った。
「クリシュナ、先に帰るね! バイバーイ!」
クリシュナはただじっと立ったまま、リラの小さな背中が遠ざかるのを見つめていた。
雨はまだ激しく降り続いていた。さっきまでそこにいた母親の姿は、もうどこにも見えない。
だけど──
理由はわからないが、クリシュナの胸の奥がほんの少しだけ温かくなった気がした。
***
生徒たちが次々と保護者と共に帰宅していく中、教室の机にぽつんと座り続けているのはクリシュナだけだった。
窓の外をぼんやりと見つめながら、降り続ける雨粒が校庭を濡らしていく様子をただ眺めている。
教師は机の上の本を片付けながら、ちらりとクリシュナに目を向け、小さくため息をついた。
静かに彼のそばへと歩み寄ると、そっと頭を撫でながら優しく尋ねた。
「どうしたの? 迎えの人は?」
クリシュナは黙ったまま、机の上で拳を握りしめる。まるで胸の中にある何かを必死に押しとどめているかのように。
教師は膝をつき、彼と同じ目線の高さで再び問いかけた。
「先生と一緒に帰る?」
クリシュナは唾を飲み込む。
窓の外では雨脚が強まり、辺りはますます静寂に包まれていく。
彼がまだ答えを出せずにいると、廊下の向こうから急ぎ足の靴音が聞こえてきた。
次の瞬間、息を切らした中年の男性が教室の入り口に姿を現した。
「すみません、先生。」
その声は低く、それでいて温かみがあった。
クリシュナが振り向くと、目を輝かせた。
その姿をすぐに認識したのだ。
「クリシュナ、さあ、帰ろう。」
そう呼びかけたのは—タカシマだった。
先生は彼の到着に微笑み、「ああ、クリシュナのお父さんですね?」と尋ねた。
タカシマは小さく笑った。「はい、その通りです。」
先生はうなずき、「では、私はこれで。失礼しますね。」と言って去っていった。
「クリシュナのことを見てくださって、ありがとうございます。」
タカシマは丁寧にそう言った。
先生が去った後、タカシマはクリシュナに近づき、膝をついた。
「ごめんな、クリシュナ。迎えに来るのが少し遅くなっちゃった。」
申し訳なさそうな声で言う。
「でも、外にお前の兄貴が待ってるぞ。」
クリシュナの目がぱっと大きくなった。
そして、一瞬の迷いもなく椅子から飛び降り、教室を飛び出した。
「クリシュ?!お前も来たのか?!」
興奮した顔で叫ぶ。
外では、一人の少年が壁にもたれ、ポケットに手を突っ込んでいた。
クリシュナの姿を見ると、ニヤリと笑った。
「へへ、タカシマ叔父さんが連れてきてくれたんだよ。」
クリシュは気楽に答えた。
クリシュナはピョンと跳ねるように近づく。
「クリシュ!昨日のゲームの続きをやろうぜ!俺、いつも勝ってるし!」
そう言って、得意げに笑った。
クリシュは鼻で笑う。「たまたま一回負けただけだろ、クリシュナ。」
「一回でも俺の勝ちには変わりないぜ!お前、弱すぎ!」
腕を組んで、ふんっと胸を張るクリシュナ。
クリシュは目を細めると、突然—ドンッ!—とクリシュナを思い切り抱き寄せた。
その勢いでクリシュナはよろめいた。
「うわっ?!痛ぇよ!」
クリシュナは顔をしかめる。
クリシュは大笑いしながら、クリシュナの頭をガシガシと撫でた。
「ハハハ、さあ、帰るぞ、弟よ!」
「いってぇ!」
クリシュナは抗議するようにクリシュの腹を軽く拳で叩く。
「ハハハ!」
二人は無邪気に笑い合った。
しかし、帰る前にクリシュナはふと足を止めた。
雨に濡れた校庭の中央へと歩み出る。
空を見上げ、そっと目を閉じた。
雨粒が顔に落ちてくる感覚を、静かに楽しむように。
数秒後、彼はくるりと振り返り、クリシュをまっすぐに見た。
瞳には、挑戦的な光が宿っていた。
「なぁ、クリシュ!!」
突然、大声で叫ぶ。
クリシュは眉をひそめた。「なんだよ?」
クリシュナは拳を突き上げ、ニヤリと笑った。
「先に家に着いたほうが勝ちだ!負けたやつは敗者決定な!」
クリシュの目が鋭く細まる。
「はぁ?!お前みたいなガキに負けるわけねぇだろ!」
「なら、勝てるって証明してみろよ!!」
クリシュナはすぐさま走り出した。
「クリシュナー!!」
クリシュは悔しそうに叫ぶと、すぐに彼を追いかけた。
クリシュナは笑いながら、勢いよく水たまりを飛び越える。
服が雨に濡れるのも気にしない。
それを見ていたタカシマは、静かにため息をついた。
しかし、口元には小さな微笑みが浮かんでいた。
ベンチに置かれたクリシュナのカバンを拾い上げ、二人の後をゆっくりと歩き出す。
激しく降る雨の中、二人の兄弟は無邪気に駆ける。
何の心配も、恐れもない。ただ、笑い合う。
それが、子供らしい、純粋な時間だった。
——けれど、彼らはまだ知らない。
この穏やかな日々が、嵐の前の静けさにすぎないことを。
~~~~~~~
「いいか、みんな!家族がそばにいるうちに、ちゃんと大切にしろよ?お前らみたいに恵まれてるやつばっかじゃねぇんだ。俺?俺はただ、俺の命の恩人――タカシマおじさんに感謝するしかない。あの人がいなかったら、今頃俺は路上で物乞いするか、チンピラになってたかもしれねぇからな。」
「それと、もう一つ...俺には双子の兄弟がいる。名前はクリシュ。でも正直、俺たちが本当に双子なのか、未だに疑ってる。だって、あいつの顔を見るたびに、急に俺の人生に割り込んできた知らねぇ他人みたいな気がするんだよな。タカシマおじさん曰く、俺たちは生まれた時間がたったの一時間違うだけらしい。一時間だぞ?たったの!それなのに俺はあいつを兄貴として敬えって言われるんだぜ?敬え、だと!?まるで俺より何百年も前に生まれた大先輩かのように。いやもう、時代錯誤すぎるだろ、それ!」
「でさぁ、そのクリシュってやつ...マジで"俺様クール男子"のフルセットなんだよ。頭いい?うん。人気者?うん。先生に可愛がられてる?そりゃもう。だけど俺からすれば?別に普通じゃね?なんでみんなあいつに憧れてんのか、全っ然わかんねぇ。つーか、あいつと少しでも長く関わればわかるよ。マジでウザいから。カッコつけるし、ヒーロー気取りだし、自分がイケてるとでも思ってるし。もうさ、たまに髪引っ張りたくなるんだけど...まぁ、下手したら俺、家族名簿から消されるかもしれねぇし、我慢するしかないよな。」
「...あ、そうそう!大事な人と言えば、もう一人いるんだ。スラダっていう子なんだけどな。『クリシュナ、その子、お前の彼女?』って聞かれたら?ハハハ...まぁ、どう思うかはお前らに任せるよ。でもな、一つだけ言っとく。俺のタイプど真ん中だ!可愛いし、優しいし、面白いし。もう、兄貴として敬えとか言われるムカつきも全部吹っ飛ぶくらい、最高の子なんだよ!」
「はぁ!?なに自信満々になってんのよ、クリシュナ!?」
スラダは目をむいて叫んだ。
「ごめんね、みんな!こいつ、彼氏とかじゃないから!ただの夢ばっか見てるウザいガキだし!」
クリシュナはポカンとした顔で反応する。
「え、でも前にお前、オレのこと――」
「はぁ!?黙れって言ってんの!!」
スラダが大声で遮ると、クリシュナは苦笑いを浮かべた。
そんなやり取りを見ていたハマダは、大爆笑していた。
「もうもう、お前ら子供かよ!飴でも取り合ってんのか?ほら、みんなに自己紹介しに来たんだろ?カッコいい&カワイイみんなと仲良くならなきゃな?」
「お、そっかそっか...じゃあ...」
クリシュナはニヤリとイタズラっぽく笑うと、スラダの方へ視線を向けた。
「では皆さん、ご紹介しましょう!こちら、美しきお姫様で~す☆」
そう言いながら、彼はウインクを飛ばす。
「いっ...!!もう!!ムカつく!」
スラダは顔を赤くして、ぷんすか怒りながらその場を去ってしまった。
濱田は首を横に振った。「ほらな、お前さぁ...。一日ぐらい、あいつを怒らせずに過ごせないのか?」
クリシュナはケラケラと笑った。「へへへ...ブロ、俺のせいじゃねーよ。アイツが短気すぎるんだって!」
そう言いながら、彼は画面に向き直った。
「さて、みんな! 今日は特別にちょっとだけネタバレしちゃおうかな~。俺の話を最後まで聞いてくれたお礼ってことで! ただし...これ聞いたら、もっと気になっちゃっても文句言うなよ?」
クリシュナは気楽に寄りかかりながら、ニヤリと笑った。
「実はな、俺の叔父さんってただの人じゃねぇんだよ。武術の達人で、自分の道場まで持ってるくらいの人だぜ? だから俺もクリシュも、子供の頃からガッツリ鍛えられてたわけよ。でもな、俺がマジでキレたのは――
9歳の時にいきなり岩登りさせられたことだ!!!」
クリシュナは胸を押さえながら、頭を振った。
「おいおい、マジかよ!? 9歳のガキが山登りとか...まるで修行帰りの忍者じゃん!? 落ちたら、俺ニュースでバズってたかもな!」
彼はクスクスと笑い、腕を組んだ。
「でもな...どんだけぶっ飛んだ特訓だったとしても、俺は叔父さんから本当にたくさんのことを学んだ。もしアイツがいなかったら...俺は今の俺じゃなかったかもしれない。」
クリシュナは立ち上がると、服の襟を整えた。
「よし、今日のところはここまで! この先の俺の物語は――世界一イケメンな作者、アー・アリにお任せだ! だからみんな、チャンネルはそのままで! じゃあな、また次回! チャオ~!」
クリシュナはカメラに指をさしながら、イタズラっぽくニヤリと笑った。
そして、画面がフェードアウトしていく――。
つづく...。




