君はつまらない
「君はつまらない」
想像を超えようとして、羽に力がないことを飛んでから思い知り、後悔の念を表情に浮かべて地に落ちる……君って、今そんな感じだよ。
夕日が翳る午後五時。学校帰りに友達とサッカーをする少年たち、公園の周りをぐるぐると歩き回る老人たち、ランニングしつつ私を気にする若者。
君たちは……つまらない。
電子レンジがピロリロリロリンと鳴った。中には昨日作った野菜と豚肉の炒め物が、食べてくれと言わんばかりに湯気を昇らせている。私は薄汚れたガラス越しに、その食物に念を飛ばした。君は……つまらない。
眠る。
起きる。
散歩に行く。
空を見て、太陽に向かって囁く。
帰る。
他人の嘔吐画像を検索し自慰をする。
風呂に入る酒を飲む二日酔いにならないように水を大量に飲む君は君は君はッ!
鏡に、演出とラストだけ面白くてストーリーの細かいところにハテナマークが浮かんでしまうB級映画のような、そんな存在が居た。
またあの呪詛を懲りずに囁く。唇に肺から出た息が当たり、不快と興奮を覚えた。
「由佳先輩~、うわっそのバッグかわいい~!」
「でしょお、八万もしたんだぁ」
「……え」
「……」
「うそ、すご!」
「……帰りさ、スタバ寄ってかない?」
「あ、はい。ゴンタブ飲みましょう」
「ゴンタブね、気になってたんだぁ」
君はつまらない。
小学生の時にプレイしたRPGを再プレイしたくなり、隣の和室から埃をかぶっていたソフトとゲーム機を引っ張り出す。スマホがツイッターの通知音を出したので、鉄拳を喰らわせる。
「ホアチャァ! ホアチャァ! ホアチャァ! ホアチャァ!」
爆笑。
おっと……録音していたんだった。登録者数1700人のユーチューブチャンネルに実況動画を零時丁度にアップして、一時間もしないで寂しい野郎共が高評価やらコメントやらするのを確認して、私はやはり呟いてしまった。
あのね?
貴方が私を生んだんじゃないの。え? なに、そうよ、貴方が私を生んだんじゃないのよさ。
私はね、あのね?
貴方とは違うの、とかどっかで聞いたセリフは吐きませんから。だって、私、キリストのあの言葉が好きなの。隣人を愛せって。それってさ、あのね、全てを愛せってことじゃあないのよさ。愛って何? いや、思いやりだよ。
私はね、私を抑圧したり、いじめたり、攻撃してくる存在に感謝しているの。だってぇ、私の為に悪者になってくれたんだよ? 愛を忘れやすい役柄よ。私はね、知ってるんだから。貴方は私の母親だけどさ、私をそうやって……。
君はつまらない。
君が、つまらない。
「待て! 早まるな!」
それは私の為に大きな声を出した。疲れるだろうに、ご苦労なことだ。
「そっちに行くな! まだ、早い」
え、だって、聞いてなかったのか。私がこの人生を通して、何度、口にしたと思っているの。
「まだ駄目だ!」
「君はつまらない」
自殺してから、あの世で出会った君は、そうやって私を止め続けた。でも君も、ここも、私が居た所も、やっぱりつまらなかったんだ。
私が次に生まれたのは、それはもう、酷い惑星だった。地球よりも圧政が過ぎており、もはや自由などなかった。ただ苦しむためだけに生まれたのかと、80年くらい悲しむ羽目になった。どうしてこうなっちゃうのかなぁ。
私が壊れちゃったから、次は休ませてやろうと、そこそこ楽しい惑星が次の住居だった。この時の人生は楽しかった。
そして思ったのだが、つまらないからといって、早まってはいけないなということだ。でもだって、つまらなかったから、変化や刺激を求めて、ヤバイ所に行きたくなるじゃないの。