トライアングルレッスン:U2
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」内の企画
”トライアングルレッスン:U2(ユニフォーム・パートⅡ)” へ参加投稿した一編です
ゆいこ:ねぇ、見て見て。可愛いでしょ~。
巫女装束を身につけたゆいこがクルリとターンして見せた。
たくみ:へぇ~、馬子にも衣装じゃん。それらしく見える。
ひろし:たくみ! ゆいこ、よく似合ってるよ。
二人にそれなりに褒められて、ゆいこは上機嫌になる。
ひろし:ところでゆいこ。奉納舞いは覚えたの?
訊かれて上機嫌だったゆいこがギクッとなった。
ゆいこ:だ、だ、だ、大丈夫!8割方覚えたから。
たくみ:8割って… 全然大丈夫じゃないじゃん。
ゆいこ:大丈夫だもん。一人で舞うわけじゃないし、一番前でもないし。
呆れたようにたくみが盛大にため息をついた。
この辺の地域では立春の日に18歳の女の子が神社に集められ
その中の数人が巫女装束で舞いを奉納することになっていた。
選ばれた、と言えば聞こえはいいが、要はくじで当たっただけのにわか巫女
どちらかと言うと、面倒くさいことを押しつけられたハズレ感があった。
更にゆいこにはもう1コ役目がこれもくじ引きで乗っかっていた。
たくみ:おれはむしろ、舞いより弓の方が心配。誰か怪我するんじゃね?
おれたちの方へ飛んできたらどうするよ?ひろし?
ゆいこ:失礼だし、不吉だなっ。大丈夫だってば。
強い弓じゃないからそんなに飛ばないし、矢の先が丸くなってる鏑矢だもん。
一応、こっちはかなり練習したし。
ゆいこがモゴモゴ言う。
ひろし:まぁ、怪我だけしなきゃいいよ。矢を放った後に反動逃すの忘れるなよ、ゆいこ。
ゆいこ:分かってる。任せておいて!
ゆいこは笑顔で親指を立てた。
結局、8割程度しか覚えていなかった奉納舞いをゆいこが舞うことはなかった。
何故なら…
ゆいこが弓をキリリと引き絞り矢を放つと、矢は鹿の鳴き声のような甲高い音を立てて
真っ直ぐ飛ぶと的を射貫いたから。
形だけで飛ぶはずがなかった矢。そして、音が鳴る構造を持たない鏑矢が鳴き
鋭い矢じりのない矢が的を射た。
「巫女姫の再来だ!」と社中が大騒ぎになってしまったのだ。
ゆいこ:私、何かすごい人らしいよ!
はしゃぐゆいこを前に、ひろしもたくみも二の句が継げないでいた。
ひろし&たくみ:おれたち、もしかして、神さまにゆいこを取られたんじゃ?
心の中でそう呟くと、二人は顔を見合わせたのだった。