第六話:状況整理
「うぅ、食いすぎた」
フィルは屋敷内を歩き回っていた。
「確かトイレはこの辺だったか」
そうやって暗闇の中をウロウロしていると、一筋の光が廊下の角に漏れているのに気がついた。
「ん〜、誰か起きているのか?」
その光に近づいて行くと、
”ドンッ”
”ドタドタドタ、バンッ”
何か暴れまわっている音がする
”そこは確か...”
本能的に足は動き出していた、部屋の扉を開ける。
そこには信じがたい光景があった。
「ゼ...ノン...?」
伸びたの手の先はヘリナの首に回っており、彼女の身体を浮かせていた。彼女の顔は青ざめており、もうかなりの時間締められているのが見て取れる。
「ヘリナ!」
フィルはできる限りの高速で彼の間合いへ近づいた。
しかし、彼はそれをヘリナを持ちながら悠々と躱し、懐からナイフを取り出し、刺した。その勢いのまま窓の外に投げ捨てる。
やられまいと彼は目一杯身体を広げ、窓枠に張り付いた。
「ぐぬぅっ」
”バインウィップ”
次の瞬間、フィルには見えなかったかもしれない。極細の紫の糸が身体を貫き、フィルは意識を手放した。
それから何時間たったであろうか。
フィルは目の前の惨状を愕然と眺めていた。
「国家反逆、誘拐、殺人、恐喝、神器破損、器物破損、放火、奴隷保持の疑いでお前を逮捕する」
目の前には誰かもわからぬほど焼け焦げた死体が転がっており、部屋には血が大量にへばりついている。
「フフフフフ、フハハハハハハ」
図ったな、ゼノン。何の罪か知らんが俺になすりつけるとは。
この世界に来てからの当面の目標ができたな。
ゼノン、お前を地の果てまで追いかけて殺す。
「ほら、手を出せ」
フィルは手を後ろに回した。鎧を着た兵士が手枷をはめる。しかし、その手から手枷は落ちた。
「お前、ガリガリすぎだろ、皮膚もめくれてるし。そりゃ御主人様や世の中を恨むよな」
男はそんなことを呟きながらサイズを下げて手枷をはめる。しかし、一つもはまることはなかった。
「はぁ」
と男は溜息を吐くと、腰の袋から先端に色のついた石がはまっている杖を取り出し、俺に向けた。
”バインド”
その瞬間、杖の先端が発光し、紫色に光るロープがフィルの手を縛ったが、その光は消えてしまった。
「は?」
「どうした?早く縛れ」
ほらほらとフィルは腕を差し出したが、もはや縛る手段は何も残ってはいない。
「はぁ、そのままにしとけ」
瞬間男は剣を抜き、最上段に構えた。
”まぁ、そうなるか。というか既視感が...”
今までと同じく兵士は剣を振り下ろした。
しかし、決定的に違ったのは、フィルは無抵抗だった。
いや、寧ろ腕を差し出していた。
鋭い風を切る音が鳴る。
すぐにその剣はその腕を切り飛ばすと思われたが、その剣はフィルの腕に傷さえつけられず、剣は腕にめり込んだ。
「おい、どうしたんだよ!?」
仲間の兵士が叫ぶ。
しかし、時すでに遅し。フィルはすでに鎧に掌底を叩き込んでいた。それはおおよそやせ細った体躯から放たれるものではなかった。
二人は部屋の壁にものすごい勢いでぶつかり、破壊して外に放り出された。
すると、家はギシギシと音を立て、次の瞬間には崩れた。
「な...なんだなんだだんだ!?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
「キャアァァァア」
取り調べの兵士5名、家の地下にいた奴隷13名が死傷した大変な事件である。