第四話:あけぼの
マレウスは呆然と周りを見渡した。
情報は全く頭に入ってこず、体を動かす気もない。
”流石に、堪えたな...“
ただ、気だるさだけが残る。幸いここはベッドである。
ベッドにダイビングすると、脇腹が痛みが走る。
それはまるで電気ショックのようであり、寝起きの俺の意識を覚醒させた。
“周りから笑い声が聞こえる”
俺はもう一度寝るか身体を起こすか迷い、最終的に身体を起こすことに決めた。
そして笑い声のする方を向くと、そこには薄く口ひげを生やした黒いローブ姿の男性が椅子に座りながらこちらを指さして爆笑していた。
マレウスは重々しく口を開いた。
「なぜ、笑うのだ?」
しかし男は笑うのをやめなかった。
「い、いやだって...ギャハハハ」
男は椅子を叩きながら更に笑った。
俺はベッドから立ち上がろうとしたが、彼の足が床についた瞬間、マレウスは膝をついた。
「あぁ、どうした?」
男は椅子に座ったまま、涙を拭いて聞いてきた。
そのバカにしたような表情にムカついた俺は必死に立とうとしたが、いくら足に力を入れようとしても入らなかった。
その様子にゼノンはついに椅子から立ち上がり、マレウスの元に高速に近づいた。
マレウスに手を伸ばし、腰と背中をなぞった。
「ん?」
ゼノンは違和感を感じると、近づいたときの倍の速度でマレウスから離れた。その間約3秒である。
「やけに警戒しているようだが、なにかあったか?」
「いやぁ、別に?」
その言葉にマレウスの警戒も高まり、数秒沈黙が続いた。
「アハハハ」
”よく笑う男だ”とマレウスは思った。
しかし、マレウスは笑える状況ではなかった。
なぜなら、マレウスの首には剣が向けられていたからである。
「なぜ、切っ先を向けるのだ?」
マレウスは男に問い質した。
男は依然、笑いながら答える
「いやぁ、貧相な見た目で教育も受けてなさそうなのにこういうときの対処法が100点満点だ。誰から雇われた?」
男はさらに切っ先をマレウスの喉に近づけた。気づけば彼の顔には笑みはなかった。
マレウスにはさっぱりだった。
先程の少女の件と夢で精神がすり減り、考える気力もわかない。元将軍のメンタリティーでなんとか対応している状態だった。
「誰からも雇われておらぬ。私の質問に答えろ。なぜ切っ先を向ける?」
マレウスは落ち着いたようすで答えた。実際にはめんどくさいだけなのだが。
「なぜって、君、人殺したでしょ?」
男はそう聞いてきた。その顔には笑みがある。
マレウスはまるで面接かのように淡々と答える。
「あぁ、殺した」
男は一瞬戸惑ったように見えたが、続ける。
「誰を?」
「黒いローブを被った男だ、そういえばお前に似ていたな」
マレウスは疑うような顔をして男の服装を改めて確認した。
黒いローブに剣から4つの光が出ているシンボルが描かれているネックレスをかけていた。
先ほど殺した男の宝飾全てにあった模様だ。
「お前、ギャングか?」
迫真の表情をしたマレウスの言葉を、男は面食らった顔をして返した。
「いやいや、違う違う!これは教会の正装だって」
「カルトか...」
「違うって!」
「皆そう言うのだ」
マレウスは完全に男を敵として認識した。
「お前らのせいで少女の人生が奪われてしまったんだぞ!」
マレウスは怒鳴ったが、
ゼノンにとっては
”なんのこっちゃ”
である。
”異常者が”
「君、女の子も殺したでしょ?」
ゼノンは優しく微笑んだ。
「いや、殺していない。逆に刺されたのだ」
「殺そうとして抵抗されたんじゃなくて?」
「違う、私であれば致命傷など負わずにふたり同時に殺せる」
「大した自信だ。その体躯では無理な気がするけど?」
男は壁に立てかかっていた大剣を最上段に構え、マレウスの脳天に向かって振り下ろした。
青い刀身に蒼玉がガードにはめ込まれているその剣は重力に従って目標に迫っていく。
”バフンッ”
ゼノンの視界は真っ白に覆われた。肌に柔らかい物体が通り過ぎるのを感じる。
ゼノンは後ろへ下がろうとしたが、剣がその場から動かない。
「ッ!」
それどころか剣は思い切り引っ張られ彼は剣を手放してしまった。
瞬間、白い物体が再び勢いを増した。
10秒ほどたっただろうか?やっと物体の勢いが止まり、視界が開けた。
そして一番はじめに映ったのは先程の子どもが私の首に刃を向けている様子だった。