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第三話:自由の変身

マレウスはその場から立ち、しばらく歩き回った。


「確かこの辺だったはずだが...」


呟きつつ岩壁を触ると、彼の手は岩肌に触れることなく奥に入っていった。


「あったあった」


マレウスはその枝垂れ草をかき分け、中に入っていった。

頭が打つかるほど狭い空間には、外とは別の花が咲いており、真ん中はまるでそこに座れとでも言うようにスペースが空いていた。マレウスは腰を掛ける。しかし、そのスペースは埋まることはなく、もう二人分のスペースが空いていた。


「家族も...いないのだな...」


「また、貴方に会えますように」


妻は熱心な信仰家だった。毎回戦に行くたび、どんなに出発が早くとも玄関まで来ては神に祈りを捧げてくれる。


「せっかく帰ってきたのに、また、母上を悲しませるのですか?」


少年は俺を睨みつけ、そう吐き捨てた。

家を空けている時間が長い俺だが、こいつは俺の代わりに妻を支えてくれている。


「ありがとう、ゼノン」


その瞬間、息子は俺から目線を逸らし、頬を掻いた。

その様子に妻と微笑んで、俺は家を出た。


いつも通り、のはずだった。


”ザンッ”


肩の付け根から血が吹き出す。


「ぐっ」


敵将が俺を視界に捉えたと思っていたその時には、耳の後ろの血管を切り裂いており、俺は気絶した。


気絶から目を覚ました。手足は十字架に縛られており、足元には火が焚かれていた。

そして、顔を上げると観衆と、一際目立つ、弓を構えた男がいた。その矢先は俺の脳天...より少し右にズレていた。


敵将は戦場にいたときと同じくただ一つの光もない。しかし、その視線は俺を貫いている。

そして敵将は矢を離した。それは今まで見たこともない速さで直進し、俺の手にかかっていた縄の中心を貫き、俺の腕を貫通し、後ろの十字架さえも貫通し、後ろの建物の壁を貫通し、


”バツーン”


という音とともに建物内で静止した。

痛みを堪える俺をよそに、敵将は矢を装填し、もう一度俺の右手を狙い、放った。

今度はさっきより更に右、手のひらに矢が刺さり、十字架を貫くことなく、鏃が埋まる。


”こやつには勝てぬ”


そう思わせる一矢だった。次々に矢が放たれる。左手、腿、足首。


そして彼は声高らかに宣言した。


「列強・最強は散った!そして、私こそが最強である!」


と。


”また、貴方に会えますように”


俺は足元の花をつみ、山を登った。そこに私達の家庭があるのだ。

道中で咲いている花も全種類取った。


”これは妻が好きだった花、ぎゅっと抱きしめていたのを見ると何度だって山を降りたくなった。何をしても泣き止まなかった息子もこれを見ると泣き止んだものだ。”


”これらでミサンガを編んだものだ。妻にも、息子にもみんなに誓ったのだ”


___俺が皆の幸せを作る、守ると___


家のドアノブを捻ると、それは簡単に開いた。


右へ少し進むと食卓があった。机の上には花が生けられている。

左を見ると花の絵と妻の趣味の押し花が飾られている。


二階へ上がり、右の部屋に入る。


机と椅子とベッドのみのいたってシンプルな部屋だ。

机の中には祖国の歴史の本や戦術や剣術の本がびっしりと詰められており、それには全てしおりが挟んである。


戦争とは無縁の時代に生きてほしいと願いつつも、戦争はなくならない。

齢13にして息子は酷な現実をせおってしまったのだろうか。


しおりが特に多い本を手に取り、そっとしおり外し、本を開くと、そのページには大量の文章が書き連ねてあった。


___人を殺してはいけない法はない。罰則のみ。寧ろ戦争では英雄になる___

___殺してはいけない理由を問わない世の中→平和?___

___戦争は富、権力、宗教あらゆる”差”から生まれる→”差”をなくし、互いを尊重し合うことが近道?___


そんなことはなかった。いや、部分的ではあったがあっていたのかもしれない。

しかし、俺よりよっぽどよく考え、よくやっている。希望を持ち、戦争とは、平和とは、敵味方問わずよく知り、受容している。


”もう俺は必要ないな”


息子部屋を出て、次に左の部屋に入ると


その部屋には夕日が差していた。


机とベッド、他には彼女の趣味の薬草や化粧道具などが目立つ。


机の上には日記が置かれており、紐の入っていた場所を開いた


___4月7日 今日は家族でしたの花畑にミサンガを作りに行きました。ゼノンも誘ったのですが、「あいつに贈る花はない」と言うもんですから少し喧嘩してしまい、あの子は部屋にこもってしまいました。あの子もあの子なりに考えているはずなのに。二度と貴方のような悲しい人が生まれないように勉強しているはずなのに。

昼にパンを焼いたらやっと降りてきてくれて、一緒に食べました。

そして、一緒に花畑に降りて一緒にミサンガを作りました。息子の分、貴方の分、私の分、そして新たな生命の分。先日医者にかかったら第二子を授かりました。ゼノンには伝えてありますが、貴方に会うまで、忠臣の方にも兵隊さんの方にも秘密にする予定です。

貴方に会える日を願って。そして、平和を願って___


”もう会うことはできないのだな”


妻の部屋を出て、俺はついに自分の部屋に入った。


中には陣コマとそれに陣紙があり、壁には本の数々と、奥には机があった。


窓がなく、圧迫感のある部屋だが、丁寧に掃除された節が在り、とても良い。

机には妻が作ってくれた万年筆が、部屋のドアには息子が描いた俺の似顔絵がある。

壁には落書きの跡が残っていたり、みんなで遊んだ絵札もあった。


どこに視線を向けても幸せの跡ばかりで俺は部屋を出た。


”これを壊してしまったのか”


俺は家を出た。崖までいくと、堂々とそびえ立つ城とその城下が目に入る。


”あの通りは夏になると昼夜問わず火が灯る。古い風習だそうだ。あのそびえ立つ建物は君主の城でいつだってその威厳を表すように建っていた。それを見下ろすことのできる私は鼻が高かった”


「お前をこの国の大将軍に任命する」

「ありがたく」


俺はあそこでこの剣を受け取ったのだ。


「これからも期待しているぞ」


”全部俺が壊したのだ”


俺は逆方面に走り出す。

俺の城が目に入った。


「俺はあの丘で家族と生活するから、この城はお前に預けるぞ」

「えぇ!いきなり過ぎますよ!」

「お前ならできるだろう」


彼はフッと笑って顔を上げた


「ったく、人使いが荒いなぁ」

「皆のもの!この城をその民を全力を持って守り切るぞ!」

「「「オォオォぉぉ」」」


木をくぐり抜け森を出る。そして、最初の花園にたどり着いた。その頃には息も上がっていた。

後ろを振り向くと涙がこぼれた。それと一緒に未練も溢れる。


”もう、誰もいないのだな”


と。

ゼノン机で寝ていると、背後で


”ガサガサ”


と音がする。


目をこすりながら視線を向けると、そこにはベッドで上体を起き上がらせたマレウスがいた。


それを見たゼノンは爆笑した。なぜって?


「お前、顔面崩壊しすぎだって。ギャハハハ」


そこにいたマレウスの顔は汗と鼻水と涙の区別もつかないほど荒れていたからだ。

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