第二話:二転三転
”なぜ?俺は詐欺師から少女を救い出したはずなのに”
目の前の少女は男の死体の前で泣き崩れ、時々俺を憎悪に満ちた目で睨みつけてくる。
「ああ゙ぁ゙ぁあ゙ぁ゙ぅ゙」
少女はうめき声を挙げ、男の身体を叩きながら
「起きて!起きてよぉう...」
と呼びかけていた。
一方、マレウスはおろおろとしており、
”何なのだ?どうやったらこの事態を収束させられるのだ?”
マレウスは少女視点から見ることを忘れてしまっていた。
確かに現実としては、男は詐欺師であって、騙されそうになっていた少女をマレウスが救った形にはなるのだが、少女に与えられた情報のみで現状を整理すると、
①男は墓地にて死者を見事に蘇らせる
↓
②死者が自主的な行動を取ったことで操作系の魔術ではなく、本当に蘇らせたのだと信じる
↓
③死者は男に感謝することなくが抵抗を見せ、男との契約を妨害してくる
↓
④死者が男を殺す
↓
⑤死者蘇生という稀有な魔法の持ち主をもう一回探さなければいけなくなってしまった
というふうになる。
つまりはマレウスは少女目線から見ると、
『姉を復活させられる可能性のある魔術師を殺した憎むべき敵』
という認識になるのだ。
しかし、錯乱した様子の少女を見て、マレウスは取り乱し、
『少女を泣き止ませる』
ということしか頭になかったため、
『少女の誤解を解く』
という正解を導き出すことができなかったのだ。
「なんで、なんでアンタは助けてもらった恩人を殺すの?」
少女は一人でドンドン自分の世界に入ってゆく。ドンドン心を閉ざしていく。
しかし、マレウスは
「どうしたんだ?」
と苦笑いをしながら話しかけるばかりで状況は現状維持...いや、悪化するばかりであった。
「生前は殺人犯だったの?」
少女はそう言いながら、マレウスを虚ろな目で見つめた。
マレウスはその発言を聞いてやっと少女視点からの検証を行い、そして気がついた。
しかし、時はすでに遅かった。
少女は懐からナイフを取り出し、
「ゔぁぁぁああぁゔぁ」
と発狂しながらナイフをマレウスに突き立てた。
”ブチュ”
ナイフは脇腹に突き刺さった。
本来なら死ぬほどの長さのなかった刃物だが、刺さった部分は先程男に体当りされ、骨が粉々に砕け散った部位であり、少女の刃は心臓まで届いてしまっていた。
マレウスは吐血した。意識が落ちてゆく。
”まずい”
マレウスは漠然と危機感は抱きはしたが、死に対する恐怖はまったくといっていいほどなかった。
視界が暗転していく中、彼の目には少女が写っていた。
「......」
少女はマレウスが動かなくなるのを確認すると、少女はマレウスの体からナイフを引き抜き、自らの喉に突き立てた。
それから数分後、ゼノンは大きな音がした方に歩を進めていた。
首をコキンと鳴らして欠伸をする。
「いや〜、やっぱお昼のあとは寝みぃわ」
と言って大きく背伸びをし、目線を降ろした。
「で、これを日雇いの俺がどうしろってんの?」
目の前には男と少女、更に奥には男がもう一人が倒れており、複数の墓石が破壊、そして、墓のうちの一つは棺桶が掘り起こされていた。
「う〜ん、カオス...」
ゼノンは顎に手をやって、苦笑いをしていた。
「でも、この状況...上に言及されたら面倒だしなぁ...」
少し悩むとゼノンは
「埋めちゃうか」
と名案だとでもいうように呟き、とりあえず地面を掘り始めた。
「ったく、なんで墓の警備の日雇いがモグラみたいなことしてんのかねぇ」
とぶつくさ言いつつもモグラのような速さで穴掘りを終わらせていた。
実にこの間約30秒である。
穴掘りを終えるとゼノンは近くにあった少女の身体をひょい軽く持ち上げ、
穴の前に立って、
「うわっ...グロ...」
と面食らいつつも
「まぁ、いっか」
と少女の死体を穴に投げ入れた。
「さぁ、次は...こいつか」
と男の死体に歩み寄り顔を覗き
「こいつもグロいなぁ」
と苦笑いしながら
「でも気にしない気にしなーい☆」
とゴミをポイ捨てするかのように男を穴に放り込んだ。
「ふぅ。最後はこの男か...」
と言って、同様に軽く持ち上げたところで手に違和感に気付いた。
心臓が機能してる。体に温かみが残ってる。
「ん?」
とじーっと”その少年”の顔を見つめ
「生きてんの?こいつ」
と唖然として
「生きてるならここでひと思いに消してやるか...」
と手に火球を装填したものの
「ナイフで刺されてなんでこいつまだ生きてるんだろうなぁ」
とふと呟いた。
「このまま殺すのもなんか勿体ない気がするからいったん事務室に運ぶか」
といい、またもやモグラのような速さで穴を埋め、マレウスを運んだ。
マレウスが目が覚めると、周りに山がそびえ立つ、一面の花畑があった。
それをしばらく見渡して、マレウス震えながら、ポロリと
「なんで、ここに...」
と言葉を溢した。
胡蝶の病夢___