初めに
「俺が最強だ」
目の前には沢山の民衆がいた。
何を誓ってきたのだろうか?自身がいる限り我らの国が潰えることはないと私は言った。
しかし、今はどうであろうか?目の前には敵対国の民衆が集まり、私に唾や、石を投げている。
祖国存亡の戦に負け、戦犯とされて磔になってから3日。俺は唯一の誓いと責任と期待さえ守れない男となってしまった。
すまない、民衆よ。すまない、国王よ。すまない、我が妻よ。息子よ。世界よ。運命よ。
あぁ、神よ。俺は役目を果たせなかった。いくらでもぶつがいい、蹴るがいい、殴るがいい。
俺は、
「裏切り者だ」
俺は希望でなければいけなかった。俺は負けてはいけなかった。俺は最強でなければいけなかった。
あぁ、神よ、もしも俺にもう一度チャンスをくれるのなら、くれるのなら…
更にその5日後、大量失血と飢餓によって、男、マレウスは没したのであった。
これで俺の人生は終わった、と思っていた。
しかし、俺は二度と無いはずの目覚めを経験していた。
「何なのだ?ここは?」
上体を起こすと周りには濃い霧のかかった空間が繰り広げられ、ところどころに薄く光る小さな光球が浮かんでいた。
困惑し、周りを見渡すと一つの光球が近づいてくるのに気がついた。普段なら警戒していたが、その時はなぜか全身の力が抜け、その緑色の光球に見とれていた。
ついに手を伸ばせば触れられる距離にまで光球は接近し、止まった。停止の際にわずかに感じた空気の流れで俺はハッと我に帰り、バックステップでその光球から離れた。
”おらdなdのぞなぎみk、おやぬれぎn”
瞬間、光球は輝きを増し、俺を包みこんだ。
マレウスが光球に飲み込まれてから数瞬後、その女性は霧に紛れながらその場所を訪れていた。
”ベチャ”
という音が彼女の近くで響き渡る。黒い泥は重力に従って地面に崩れ落ちて広がっていた。
彼女はその風景を捉えると
”ツッー”
とメトロノームのように一定のペースで広がった黒い泥の縁をなぞっていった。そして1時間ほどたったであろうか。
端と端を結び終えるとポケットからフラスコを取り出し、彼女は黒い泥の真上にフラスコの口を向けた。すると、その口に液体は吸い取られ、湖ほどもあった泥は数瞬の内に小さなフラスコの中に収まり、彼女は中に何かを入れてコルクでフラスコに栓をした。
そして、また彼女は霧に紛れると、今度はだだっ広い田園風景のような場所を歩いていた。そして1001と番号の振られた一角に止まると、フラスコの栓を抜き、そこに黒い泥を流し込んだ。
「まだまだ足んないでしょ」
男は彼女の肩に顎を乗せ、煽るようにそう言った。
彼女はため息を付きながら
「えぇ、そうね」
と言った。
「やっぱり、やっちゃった方が良かったんじゃない?」
彼は誘うようにそういった。彼女は間髪をあけずに
「いいえ」
と答え、さらに
「これが、私の選んだ道だから」
と続けた。
男は、離れていく彼女を見守りつつ、
「それは狂気の道だね。」
と言って微笑んだ。それはほくそ笑んでいるのではなく、ある種の諦めの表情であった。
そして彼女の姿が見えなくなると、彼はそこに視線を落とし、目を見開いた。
「このコ、何か違うね」
ルーペを取り出し、その場所を覗き込むと、彼は固唾を飲んで
「これは驚いた...!」
と呟いた。