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21話 旧友

「南田さん、凄く似合ってるよ!」

「うんうん!でも、急にどうしたの?せっかく綺麗な髪だったのに」


 注目の的になった南田さん。

 休み時間になると人気者の陽菜と一緒にクラスメイト達に取り囲まれている。


「以前もショートだったから……なんとなく戻してみようと思って」


 昨日まで南田さんは、しっかり者の学級委員としてクラスメイトから信頼された立ち位置にいたが今日は一人に女の子として耳目を集めている。


 昼休みになっても彼女の話題が絶えることはなく、俺の隣の席で弁当を広げている陽菜と南田さんの周りには大勢のクラスメイトが同席して食事をしている。


 すぐ傍でそんな騒がしい環境になっていることに耐えられない俺は、弁当を持って教室を出た。


 ▽▼▽▼


 長い昼休みは、ぼっちにとっては不必要な時間である。

 俺は弁当を持って旧校舎裏にあるベンチに向かう。

 ほとんど人の出入りがないその場所に昨年はよく訪れていた。


「久しぶりに来るな……ん?」


 ベンチに近づいた時、そこには先客がいることに気が付いた。


(俺のとっておきの場所だったのに……)


 少し残念に思いながら、仕方なくその場所を後にして教室へ引き返すことにした。


「待てよ、結斗」

「え?」


(なんで、名前呼び?)


 ベンチに座っていたその男子生徒は俺に声を掛けてきた。

 俺は、その生徒に見覚えがあった。

 確か名前は……。


「えっと、東出(ひがしで)君?」

「東出……?あ、ああ。話すの久しぶりだな。弁当食べに来たんだろ?隣座れよ」


 東出 壮太(ひがしで そうた)

 俺のクラスメイトで言い方は悪いが……彼はクラスで少し浮いている。

 目つきが悪く、偏差値が高いこの学校では珍しい不良少年のようなオーラを纏っている。


「あ、うん。じゃあ、隣失礼するよ」


 俺は少し緊張しながら彼の隣に腰かけた。


「東出君は、良くここに来るのか?」

「最近はな。教室やかましいし」

「まあ、日陰者の俺たちにはきついよな」

「まったくその通りだ」


 彼は思っていたよりも話しやすく、不思議と気が合うような気がした。


「前から聞きたかったんだが……何でお前そんふうになった?」

「ん?なにが?」

「中学の時のお前は優等生で、まあ……クラスメイトで言うと西条に近いような人間だっただろう?」

「俺が……?っていうか、何で俺の中学の時を東出君が知ってるんだ?」

「はあ?何言ってんだ?俺とお前、同じ中学だろうが!頭でも打ったか?」

「へ……?あー、そうだった……よな」


 その時、確かに彼のことが俺の脳裏をよぎったがモヤがかかってハッキリと思い出せない。


「この学校に俺たちの中学から進学した奴は、数人しかいないのに……ったく、冷たい奴だな」

「はは……いや、ごめん。最近物忘れが酷くて……ね」


 俺たちは弁当を食べながら雑談を続けた。


「そういえば、お前に言いたい事があったんだ」

「言いたい事?」


 彼は、箸をおいて真剣な顔つきで口を開いた。


「お前、西条と仲良いよな?教室でよく話してるし」

「ああ。そうかもな」

「その……なんだ、西条には気をつけろ」

「え?な、なんで急に……」

「詳しくは言えないが、あの女はお前や周囲が思っているような優等生じゃない」


 俺は彼の言葉を聞いて固まってしまった。

 まるで、陽菜の本性を知っているかのように聞こえてくる。


「まあ、確かに忠告はしたぞ」

「あ、ああ。心に留めておくよ」

「あと、もう一つ……お前、生徒会に入らないか?」

「え?また急だな。確か、東出君は生徒会に所属してるんだよな?」


 彼は、こう見えても優秀で定期試験の成績はいつも上位。おまけに生徒会のメンバーでもある。


「最近、新制生徒会がスタートしただろう?それで新生徒会長に優秀な人材を集めろって言われてるんだよ」

「いや、遠慮しておくよ。俺はそんな事する柄じゃないし。優秀でもないしな」

「お前……本当にどうしたんだ?中学の途中ぐらいから変だぞ。俺はお前ほど優秀な奴もなかなかいないと思ってるんだけどな」

「それは、買い被りだよ」

「いや、俺だけじゃなくて……新生徒会長もそう言ってるからお前を誘ってるんだけど」

「そういえば、新しい生徒会長の名前って……」


「おい、壮太!探したぞ!」


 俺たちの会話をかき消す大きな声が聞こえた。

 こちらに近づいてきたその人物は、東出君と同じ目尻が上がった悪い目つきで俺を凝視してくる。

 俺はその人と目が合ったとき、この二人のことを思い出した。


「おい、愚弟。勧誘は、しっかりしたか?」

「今やってるところだ。バカ姉貴」

「誰がバカだ?孤独で寂しい弟よ」

「勘違いするな。俺は孤独じゃなくて孤高なんだ」

「ふっ。まあいい」


 中学の時……俺はこの二人とよく会話をしたし、様々な学校行事の運営も二人三脚で頑張ってきた。

 どうして、この二人のことをすっかり忘れていたのか不思議なぐらいだった。


「久しぶりだな、結斗」

「ああ……久しぶり、沙智」


 東出 沙智(ひがしでさち)

 壮太の双子の姉で、最近新しく就任したカリスマ生徒会長だ。


 ▼▽▼▽


「おい、結斗!姉貴のことは名前で呼んで、俺は苗字呼びかよ!?」

「い!?ごめん、壮太……久しぶりに話したから、そうなったのかも、な」

「細かいことを言うな、愚弟が」

「うるさいわ!いつも俺を、こき使いやがって!」

「非難される覚えはないぞ。むしろ、行き場の無い弟に役割を与えている私に感謝すべきだろう?」


 そういえば、いつもこうやって言い争っていたな。懐かしい。


「本当に久しぶりだな、結斗。高校に入ってからは初めて話すな」

「あ、ああ。俺が言うのもおかしいけど、二人とももっと早く話しかけてくれたら良かったのに……」


 二人は少し顔を見合わせてから、沙智が言葉を発した。


「話しかけたいのは山々だったのだがな……実は美玖に敬遠させられていてな」

「え?美玖が何で?」

「詳しくは教えてくれなかったが……結斗が家庭の事情で大変だから、そっとしておいてあげてほしいと言われててな」


 そうか……美玖は俺の記憶が曖昧になっている事を知っているから、混乱を避けるために配慮してくれていたんだな。


「それで、壮太から聞いたと思うが。ぜひ生徒会に入ってくれ。歓迎するぞ」

「い、いや。正直興味ないっていうか、面倒というか……遠慮しておくよ」

「変わったな、結斗……昔はもっとハングリー精神も持ち合わせていただろうに」

「おい姉貴!断ってるんだら、もういいだろうが!結斗が困ってるだろう」

「そうだな……しかし、私は諦めんぞ。まだ時間はある。結斗、もう少し良く考えておいてくれ」

「あ……ああ。わかった」


 ここで予鈴が鳴り響き、俺たちは弁当を片づけて急いで教室へ向かった。


「じゃあな、二人とも。愚弟、しっかし勉強しろよ」

「うっさいわ!早く自分の教室戻れ!」


 沙智はニコニコしながら俺たちに手を振って隣の教室へ戻っていった。

 俺も教室に入ろうとしたのだが、壮太が俺の肩を掴んで制止してくる。


「なあ、結斗。これからは教室で話しかけてもいいか?」

「え?ああ。俺は全然問題ないよ。なんで?」

「いや。姉貴も言ってたけど……北野に真剣な顔でお前のことを、そっとしてあげてほしいって言われてたから、さ」

「ああ、それなら多分大丈夫だよ。気を使わせて悪いな……」

「あと結斗。繰り返すが、西条には気を許すな。わかったな?」

「いっ!?う、うん」


 俺たちは教室に戻るとさっきまでの騒がしさは収まっており、陽菜と南田さんは二人だけで楽しそうに会話をしている。


「あ、笠井君。戻られましたか……どちらに行かれていたのですか?」

「あー、ちょっと中庭でお昼ご飯を食べてて」


 西条モードの陽菜を見て、さっきの壮太の言葉を思い出す。

 もしかして、陽菜と壮太って何か接点があるのか?


「か、笠井君!あ、あの……今日笠井君のお家に遊びに行ってもいいかな?」

「え?うん。俺は全然良いよ」


 南田さんの急な申し出を聞いて、陽菜に視線を送ると軽く頷き返してくる。

 どうやら陽菜も承諾済みのようだ。


 放課後。俺と陽菜、南田さんは学校の自転車置き場に来ているのだが……。


「あの、流石に自転車の三人乗りはできないよ」

「そうだよね。じゃあ、私はバスで笠井君のお家付近まで行こうかな」

「波留、そんなことしなくてもいいぞ。私が自転車を運転して波留が後ろに乗ればいいんだ」

「おい陽菜!それだったら俺はどうやって帰ればいいんだ!?」

「結斗は走れ……ずっと運動不足だろう?」

「この炎天下で、よくそんなことを言えるな!」


「結ちゃん、私も一緒に帰ってもいい?」


 俺たちの会話が聞こえたのか、自転車置き場にやって来た美玖が話に交ざってくる。


「おい北野。お前は、お呼びじゃない。早く一人で帰れ」


 相変わらず陽菜は、美玖に対して高圧的な態度である。


「南田さん。お話しするの初めてかな。北野美玖です。結ちゃんとは幼馴染なの。よろしくね」

「あ、うん。よろしく北野さん」

「おいこら!北野!無視してんじゃねーよ!」


 美玖も陽菜に対して、負けじと意地を張っているように見える。


「おい、結斗!こんな奴放っておいて早く帰ろうぜ」


 俺の腕にしがみついてくる陽菜の力が強い。


「陽菜、暑いから離れろって」

「はあ?私たちは熱い関係のはずだろう?」


 もう陽菜が何を言っているのか、最近わからないことがある。


「西条、優等生の仮面が外れているぞ。私の結斗から速やかに離れろ」

「いや、結斗は姉貴のものじゃないだろうが」


 今度は、沙智と壮太が俺たちのもとへ近づいてくる。


「げっ!?東出……何の用だよ?生徒会の勧誘はとっくの前に断っただろうが!」


 陽菜は優等生を取り繕うことなく、沙智に言葉をぶつけている。


「もう、お前などに興味はない。私が今勧誘しているのは結斗だけだ」


 猛暑日を記録したこの日。

 自転車置き場に集まった俺たちの空間は、それ以上の熱気に包まれている気がした。

今回も文字数が多くなってしまったのですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。

皆様のブックマークと☆ポイント評価はモチベーションになり、大変励みになっております。

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読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。

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