刀身が伸びるって、実は凄いこと
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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一瞬で和装に切り替わり、左腰に差している脇差、平凪に左手を添えた。
「俺が出る! そっちは、警戒だけ!」
後ろにいる男子2人、水主東一と日高烈火が答える。
「お、おう!」
「……女子のほう、大丈夫かな?」
俺たちが廊下から続くドアを見ていたら、同じく剣道着のような格好で左腰に小太刀をいつでも抜刀できる態勢のまま、他の女子2人に続いて入ってきた。
バタンッと、閉じられた。
内鍵も回すが、あまりに頼りない。
それでも、西園寺睦実はホッとした。
左手も下ろしつつ、俺のほうを向く。
「この温泉旅館が、お化け屋敷になっている! 今、廊下に出たら、姿は見えないけど、異常な気配と物音ばかりだよ」
女子4人は、睦実の分のクラブバッグも抱えており、ドサッと下ろす。
それを見ながら、判断する。
「俺が廊下に出て、状況を見る! 睦実を中心に、この大部屋にいてくれ!」
「分かった! こっちは気にしないで……」
心配そうな視線とは真逆に、気楽そうな声を出した睦実さん。
片手を振った剣道少女に見送られて、俺はドアを開けてから、一気に廊下へ飛び出した。
殴るようにドアを閉めつつ、古ぼけた内廊下の前後を探る。
真っ暗な廊下は、木造に特有のギシギシとした板張りの音。
中庭に面した窓ガラスから月光が差し込み、幻想的な雰囲気でもある。
(ほうほう……。こりゃ、凄い!)
両手で抜刀する状態で、気配を探る。
黒い人影のようなものが歩いており、明らかに風による振動とは違う響き。
ヘッドフォンでロックでも聞いているのか、ひたすらにヘドバンしているようなリズムだ。
廊下にすみで、誰かが蹲っているような気配。
テレビの砂嵐のような音。
読経のような声が続き、助けを求めるような声に、戦をしているような叫び。
俺に気づいた黒いモヤは、どれも様子を窺っているようだが、遠巻きに去っていく。
(……仕掛けてくる気はない?)
警戒しつつ、大部屋のドアを開けて、中に入ってから閉じた。
白い光に包まれた和室で、息を吐く。
睦実が、ニヤリとした。
「どう?」
「倒すだけなら、問題ないが……。状況を整理しよう!」
俺は、そもそもの疑問を言う。
「配信者のあいつらは、嘘を言っていなかった! なら、俺たちがスヤスヤと寝られた理由は?」
睦実が、即答する。
「御神刀じゃない? 男子と女子の大部屋に、一振りずつあったし」
「……それだ!」
おそらく、それが結界か、化け物を遠ざける効果になった。
「どうするの? 朝まで立て籠もる?」
「状況を把握したい! 配信者の奴らはどうでもいいが、久住はなるべく助けておきたい」
俺の宣言に、止めるような視線。
「あいつがいないと、俺たちの無実を証明する人間がいない! 正直なところ、配信者グループは人数が多すぎるし、久住1人のほうが楽。それに、配信者の奴らは好き勝手に動くだろうから、恩を仇で返されるだけ」
息を吐く音が、重なった。
男子2人の声。
「そうだな……」
「あの人は、助けたい!」
神宮寺希の、思い詰めた声。
「わ、私が、一緒に行きましょうか?」
「……わたくしも、参ります」
藤堂紗良まで、俺を見た。
議論している時間は、ない。
「希と紗良は、俺と来てくれ! 睦実? お前がここにいる全員を守れ! 必要があれば、俺の名前で香奈葉を頼っていい!」
「オッケー! こっちは、何とかする!」
命の危険がある中で、友達とカラオケに行ってくるみたいな返事。
それを聞いた俺は、側室ハーレムの女子2人を見る。
彼女たちは緊張しているが、無言で頷く。
左手を鞘に添えた俺は、大部屋の内鍵を外して、ドアを開けた。
再び廊下へ飛び出しつつ身構えると、やはりお化け屋敷。
入口の前に集まっていた黒い人影のグループが、弾き飛ばされるように散らされ、驚いたように後ずさっていく。
『お゛お゛ぉおっ?』
バタンと閉められたドアに、月光だけの内廊下。
女子2人も、廊下の前後を向いての背中合わせに。
「久住を探すぞ? 寝泊まりしている部屋は、1階のカウンター奥にある事務所の奥だ」
宿泊名簿や経営データが入ったパソコンがあるから、宿泊客がいる間はそちらに泊まると、本人に聞いた。
まだ生きていれば、そこで寝ているか、仕事中だろう。
和装の俺が走り出せば、女子2人もついてくる。
急な傾斜の階段を飛び降りつつ、下に立っていた人影に膝から飛び降りた。
『グハッ! お、おのれ……』
下敷きになった、目だけが出ている忍者もどきが、そのまま気絶する。
残った忍びが、一斉に腰の後ろから飛び出した柄を片手で握り、シャッと抜刀した。
ナイフより長いぐらいの、片手で振り回して突くのに便利な脇差が、五振りほど。
すり足でジリジリと近づいてから、一斉に突く――
俺が抜刀した脇差ほどの刀は、横薙ぎの勢いのまま、瞬時に刀身が伸びる。
半包囲しようとした忍者どもは、反射的に受け止めようとするも、その脇差ごと上下に両断された。
一瞬で刀身を短くしたことで、脇の下から背中側へ突くように切っ先を向けつつ、伸ばした刀身で串刺しに。
振り返らずに、後ろを攻撃した。
『ぐうっ!? み、味方ごと……』
確かな手応えと共に、背後に回り込んでいた忍者が脇差をガシャリと落としつつ、倒れ伏した。
すると、希の声。
「駿矢さん……。もう少しで、私も串刺しになるところでしたが?」
御刀を抜いた彼女は、両手で振りかぶったまま、涙目で訴える。
自分の脇の下から伸びた刀を戻しつつ、振り返った。
「そういうこともある」
「あって欲しくないですっ!」
「後で、埋め合わせをするから」
「……仕方ないですね! 次から、気をつけてください」
希は、笑顔に戻った。
その笑顔が邪悪に見えたのは、気のせいだろう。
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