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刀身が伸びるって、実は凄いこと

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 一瞬で和装に切り替わり、左腰に差している脇差、平凪(ひらなぎ)に左手を添えた。


「俺が出る! そっちは、警戒だけ!」


 後ろにいる男子2人、水主(みずし)東一(とういち)日高(ひだか)烈火(れっか)が答える。


「お、おう!」

「……女子のほう、大丈夫かな?」


 俺たちが廊下から続くドアを見ていたら、同じく剣道着のような格好で左腰に小太刀(こだち)をいつでも抜刀できる態勢のまま、他の女子2人に続いて入ってきた。


 バタンッと、閉じられた。


 内鍵も回すが、あまりに頼りない。


 それでも、西園寺(さいおんじ)睦実(むつみ)はホッとした。


 左手も下ろしつつ、俺のほうを向く。


「この温泉旅館が、お化け屋敷になっている! 今、廊下に出たら、姿は見えないけど、異常な気配と物音ばかりだよ」


 女子4人は、睦実の分のクラブバッグも抱えており、ドサッと下ろす。


 それを見ながら、判断する。


「俺が廊下に出て、状況を見る! 睦実を中心に、この大部屋にいてくれ!」


「分かった! こっちは気にしないで……」


 心配そうな視線とは真逆に、気楽そうな声を出した睦実さん。


 片手を振った剣道少女に見送られて、俺はドアを開けてから、一気に廊下へ飛び出した。


 殴るようにドアを閉めつつ、古ぼけた内廊下の前後を探る。


 真っ暗な廊下は、木造に特有のギシギシとした板張りの音。


 中庭に面した窓ガラスから月光が差し込み、幻想的な雰囲気でもある。


(ほうほう……。こりゃ、凄い!)


 両手で抜刀する状態で、気配を探る。


 黒い人影のようなものが歩いており、明らかに風による振動とは違う響き。


 ヘッドフォンでロックでも聞いているのか、ひたすらにヘドバンしているようなリズムだ。


 廊下にすみで、誰かが蹲っているような気配。


 テレビの砂嵐のような音。

 読経のような声が続き、助けを求めるような声に、戦をしているような叫び。


 俺に気づいた黒いモヤは、どれも様子を窺っているようだが、遠巻きに去っていく。


(……仕掛けてくる気はない?)


 警戒しつつ、大部屋のドアを開けて、中に入ってから閉じた。


 白い光に包まれた和室で、息を吐く。


 睦実が、ニヤリとした。


「どう?」


「倒すだけなら、問題ないが……。状況を整理しよう!」


 俺は、そもそもの疑問を言う。


「配信者のあいつらは、嘘を言っていなかった! なら、俺たちがスヤスヤと寝られた理由は?」


 睦実が、即答する。


「御神刀じゃない? 男子と女子の大部屋に、一振りずつあったし」

「……それだ!」


 おそらく、それが結界か、化け物を遠ざける効果になった。


「どうするの? 朝まで立て籠もる?」


「状況を把握したい! 配信者の奴らはどうでもいいが、久住(くすみ)はなるべく助けておきたい」


 俺の宣言に、止めるような視線。


「あいつがいないと、俺たちの無実を証明する人間がいない! 正直なところ、配信者グループは人数が多すぎるし、久住1人のほうが楽。それに、配信者の奴らは好き勝手に動くだろうから、恩を仇で返されるだけ」


 息を吐く音が、重なった。


 男子2人の声。


「そうだな……」

「あの人は、助けたい!」


 神宮寺(じんぐうじ)(のぞみ)の、思い詰めた声。


「わ、私が、一緒に行きましょうか?」

「……わたくしも、参ります」


 藤堂(ふじどう)紗良(さら)まで、俺を見た。


 議論している時間は、ない。


「希と紗良は、俺と来てくれ! 睦実? お前がここにいる全員を守れ! 必要があれば、俺の名前で香奈葉(かなは)を頼っていい!」


「オッケー! こっちは、何とかする!」


 命の危険がある中で、友達とカラオケに行ってくるみたいな返事。


 それを聞いた俺は、側室ハーレムの女子2人を見る。


 彼女たちは緊張しているが、無言で頷く。


 左手を鞘に添えた俺は、大部屋の内鍵を外して、ドアを開けた。

 再び廊下へ飛び出しつつ身構えると、やはりお化け屋敷。


 入口の前に集まっていた黒い人影のグループが、弾き飛ばされるように散らされ、驚いたように後ずさっていく。


『お゛お゛ぉおっ?』


 バタンと閉められたドアに、月光だけの内廊下。


 女子2人も、廊下の前後を向いての背中合わせに。


「久住を探すぞ? 寝泊まりしている部屋は、1階のカウンター奥にある事務所の奥だ」


 宿泊名簿や経営データが入ったパソコンがあるから、宿泊客がいる間はそちらに泊まると、本人に聞いた。


 まだ生きていれば、そこで寝ているか、仕事中だろう。


 和装の俺が走り出せば、女子2人もついてくる。


 急な傾斜の階段を飛び降りつつ、下に立っていた人影に膝から飛び降りた。


『グハッ! お、おのれ……』


 下敷きになった、目だけが出ている忍者もどきが、そのまま気絶する。


 残った忍びが、一斉に腰の後ろから飛び出した柄を片手で握り、シャッと抜刀した。


 ナイフより長いぐらいの、片手で振り回して突くのに便利な脇差が、五振りほど。


 すり足でジリジリと近づいてから、一斉に突く――


 俺が抜刀した脇差ほどの刀は、横薙ぎの勢いのまま、瞬時に刀身が伸びる。


 半包囲しようとした忍者どもは、反射的に受け止めようとするも、その脇差ごと上下に両断された。


 一瞬で刀身を短くしたことで、脇の下から背中側へ突くように切っ先を向けつつ、伸ばした刀身で串刺しに。


 振り返らずに、後ろを攻撃した。


『ぐうっ!? み、味方ごと……』


 確かな手応えと共に、背後に回り込んでいた忍者が脇差をガシャリと落としつつ、倒れ伏した。


 すると、希の声。


「駿矢さん……。もう少しで、私も串刺しになるところでしたが?」


 御刀(おかたな)を抜いた彼女は、両手で振りかぶったまま、涙目で訴える。


 自分の脇の下から伸びた刀を戻しつつ、振り返った。


「そういうこともある」

「あって欲しくないですっ!」


「後で、埋め合わせをするから」

「……仕方ないですね! 次から、気をつけてください」


 希は、笑顔に戻った。


 その笑顔が邪悪に見えたのは、気のせいだろう。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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