クローズドサークルで、お化け屋敷に宿泊する
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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うさぎ亭のエントランスにある、応接セット。
正確には、宿泊者がゆっくり過ごすためのスペースだ。
和風のマガジンラックを見ると、地元の新聞や月刊誌。
大型テレビもあるが、今は消されたまま。
座っているイケメンは、語り出す。
「昨日の夜だけどな? ここが、お化け屋敷みたいになってたんだよ……」
向き合うように座っている俺は、確認する。
「何となく、分かりますが……。具体的には?」
ユーマーと名乗ったイケメンが言うには、いたる所から声が聞こえて、気配もある。
テレビが勝手につき、あり得ない番組を放映。
風が吹いたか、見えない誰かが揺らしているように、ガタガタと揺れ続けるインテリアや内装。
俺の横に座っている西園寺睦実が、指摘する。
「嘘とは言わないけど、誰が体験したの?」
「俺を含めて、3人以上だ! 寝ている奴をたたき起こして、ここから外に出ようとしたんだが――」
外が見られる観覧席の窓は開かず、割ることもできない。
俺たちの近くにある正面玄関の引き戸も、同じく。
「自室に戻って、ジッと耐えるだけ! 気づいたら朝日が昇っていて、いつも通り! あんたらは、本当に気づかなかったのか?」
「俺は、気づきませんでした」
「……ボクも」
探るように俺たちを眺めたユーマーが、ため息をつく。
「あんたらが証言してくれないのは、よく分かった!」
「お気の毒だとは思いますが、これ以上は……」
俺の発言に、ユーマーは片手を上げる。
「ああ……。時間を取らせて、悪かった」
――男子の大部屋
全員で集まり、車座になっての会話。
水主東一は、胡坐をかいたまま、両手を上げた
「これじゃ、落ち着けないな!」
「もう、帰る? 僕たち男子はいいけど、女子もいるから……」
心配そうな日高烈火に、俺は考える。
「ひとまず、番頭の久住にバスの時間帯を聞いてくる! 睦実?」
「うん! 男子を含めて、常に2人以上でね?」
ところが――
事態は、思わぬ方向へ。
――事務所
改装したのか、狭いものの、事務デスクなどがある。
関係者だけの空間で、久住が頭を下げた。
「大変申し訳ございません……」
「いえ! 復旧の目途は?」
俺の質問に、久住は首をひねる。
「業者に頼んだようですが……。最低でも、数日はかかると思います」
唯一の脱出路である、山道。
俺たちが乗ってきたバスが走る場所は、土砂崩れによって封鎖。
つまり、閉じ込められた。
「うさぎ亭は、多めに食料を備蓄しています。お食事の提供はできますが……」
どうやら、配信者たちの反応が気になるようだ。
「ユーマーという人は、俺たちを味方につけて苦情を言いたかったようですけど」
「ボクたちは、普通に寝ていたから! ひとまず、断ったよ?」
西園寺睦実が言ったら、久住はホッとする。
「そうですか……。氷室様はお帰りになるそうですが、本日からバスが開通するまでの宿泊費をいただきません。光人月様にも、宿泊費を請求しないことで対応します」
「ここまで来たら、お聞きします! 三食つきの1日3,000円で、採算は取れるんですか?」
俺の質問に、久住は苦笑した。
「儲かっているとは、言えませんね……。ですが、氷室様のように団体客がたまに訪れるため、それなりに! 村興しの1つで、私は村から支援を受けています」
睦実が、頷いた。
「あー! この建物や温泉を維持していく、という意味でも?」
「はい、おっしゃる通りです」
俺は、気になっていたことを尋ねる。
「失礼ですが、あなたは村にいるより、街のほうが似合っていると思います」
寂しそうな表情になった久住は、首肯する。
「私は村から出て、戻りました……。気になっていることがありまして」
俺の顔を見た久住が、思い切って尋ねる。
「氷室さま? あなた方は、防人と存じます。当館に発生している異常を解決していただけないでしょうか? お礼は、お帰りいただくまでの宿泊費を無料にすることを考えています」
「駿矢! 今夜、何が起きているかをチェックしない? どうせ泊まるなら、他人事じゃない」
睦実の指摘に、俺は腕を組む。
「そうだな……。ところで、久住さんは昨夜どうでした? 他の従業員は?」
「私も、気づきませんでした。ヘルプで厨房にいる主婦の方々は、自宅へ帰っています」
「分かりました! 配信者の一行には、俺たちが調査する旨を言っておきます」
「重ね重ね、申し訳ございません! よろしくお願いいたします」
――反対側の2階にある客室
急な階段を上がったら、ちょうどユーマーと出くわした。
「お? 気が変わったか?」
事情を説明すると、ユーマーは笑顔に。
「そりゃあ、いい! で、どうするつもりだ?」
「異常になった温泉旅館を調べます。話は、それからで……」
男子の大部屋に戻り、俺と睦実で全員に説明。
久住の協力で早めに食事を済ませて、夜勤に備えての就寝。
そして、戦慄の夜が訪れた……。
◇
スマホを見ると、深夜1時。
電気をつければ、何事もない大部屋。
ところが、こちらへ合流するはずの女子たちが廊下で小さな悲鳴を上げた。
俺たちが出てみれば、その場で蹲りたくなる、異様な気配で満ちていた。
過去作は、こちらです!
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