この温泉旅館、何か変……
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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「この後は、どうなります? うさぎ亭に村人が押しかけるんですか? それとも、警察を呼ぶ?」
俺の質問に、正面で向き合っている老婆が訊ねる。
「うさぎ亭?」
「この村にある、温泉旅館です! 俺たちも泊まっています」
少し考えた老婆は、頷く。
「今は、そう呼んでおりますか! 近づかないよう、言うておいたのですが……。姫さまがお越しになられたので、この神社も終わり。ところで、あなた様のお名前をお伺いしても?」
藤堂紗良が、代わりに答える。
「わたくしが身を寄せております、氷室家のお方でございます」
「氷室駿矢です」
正座のままで両手をついた老婆が、頭を下げた。
「姫さまをお護りくだされしこと、かたじけなく、言葉もござらぬ所に候」
俺が圧倒されていると、紗良のフォロー。
「氷室様にございますれば、そのようなこと、当然とお思い召されておりまする。どうぞ、面をお上げなされませ」
「ハッ!」
スッと、上体を起こした老婆。
(姫様みたいだ……)
そういえば、紗良は自分を大名の娘と言ってたな?
老婆が、俺を見た。
「結論から申し上げれば、ワシらは何もいたしませぬ……。姫さま! お家に戻りたければ、この神社にお越しくださいませ! たまひ神社は、そのためにあります」
困惑した紗良が、問いかける。
「そなたは――」
「もう1つ、申し上げたい義がございます! 良いですか? 最後の最後まで、諦めてはなりませぬ! その件で、お耳に入れたいことが」
老婆が立ち上がり、紗良の耳元で囁く。
「……!?」
息を吐いた紗良は、動揺した様子で、俺をチラチラと見ている。
離れた老婆は、元の位置に座り直しつつ、念を押す。
「ワシも、全てを知りませぬ……。ですが、必ず意味がある! もし追い詰められたら、このババを思い出してくだされ」
◇
うさぎ亭へ戻れば、ランチタイムを過ぎたぐらい。
広い玄関で、ちょうど番頭の久住と出くわした。
「お帰りなさいませ! この村は何もなく、申し訳ございません」
上機嫌の藤堂紗良が、陽気な声で応じる。
「いえ! たまひ神社で歓迎されました」
びっくりした表情の久住は、口が半開き。
「たまひ神社……ですか?」
「はい! どのような由来で……」
紗良は、悩んでいる久住を見て、黙り込んだ。
我に返った彼は、笑顔を作る。
「ハハハ! 村の支えでは、あったんですけど」
あった?
俺は、その言い方に引っかかった。
いっぽう、久住は、おずおずと尋ねてくる。
「あなた方は、神社で何を?」
「宮司の方と――」
「頂上を目指したついでに、見学しただけです。立入禁止であれば、知らずにすみません」
紗良が、俺の顔を見た。
空気を読んで、何も言わず。
俺たちを見比べた久住は、息を吐く。
「いえ、危険だから近づかないほうが良いというだけで……。ご無事で、何よりです! ところで、お昼はいかがいたしましょうか?」
「まだ残っていれば、お願いできますか? 夕飯の仕込みに入っているでしょうけど……」
俺の謝罪に、久住は頷く。
「大丈夫です! 2名様で、よろしかったでしょうか? 準備ができましたら、食堂へどうぞ」
会釈した久住は、立ち去る。
俺たちも、それぞれの大部屋に戻り、すぐに食堂へ。
厨房に大勢がいる気配と声の中で、どんぶりに入ったカツ丼と、漬物、味噌汁。
向かいに座った紗良は、上品に食べていた。
よっぽど美味しいらしく、面白いほどに表情が変わる。
「氷室さま? 召し上がらないので?」
「食べるよ!」
遅めの昼食が終わり、いつもの組み合わせで、交代の夕飯。
氷室ハーレムと名付けられて、もはや定着しつつある。
ともあれ、ようやく馴染んできた温泉旅館。
修学旅行のような雰囲気だが、男女が同じ部屋で談笑しつつのカードやボードゲームという、あり得ない光景へ。
俺の側室と見なされている女子3人と、それ以外の男女という、見えない線のような区分けはあるが……。
眠くなったら、女子が自分たちの部屋へ帰るだけ。
翌日の朝に、変化が起きた。
「どーなってんだよ、この宿は!?」
朝日が眩しい食堂に入ったら、若い男が番頭の久住に怒鳴っていた。
ネットの配信者の一行が集まっていて、他のやつらも責めるような視線。
聞いていると、昨日の夜に怪奇現象が起きたそうだ。
「俺たち、寝られなかったんだよ! これで金とるのか!? あんたらも、ちゃんと言ったほうがいいぞ?」
怒鳴っていた若いイケメンが、俺たちに気づいた。
ズカズカと歩み寄り、俺に訴える。
「昨日の夜、お前らも眠れなかったろ?」
「……落ち着いてください! 何もなかったと思いますが」
言いながら、後ろにいるグループを見た。
男女が混じっている高校生たちは、誰もが首を横に振る。
上半身を前に戻したら、納得できないイケメンが足踏み。
「んなわけ、ねーだろ!? まさか、こいつに金をもらって――」
「違います! 俺たちは、メシを食いに来たんで! 時間があるのなら、その後に話し合いませんか? 少なくとも、俺は事情を聞きますよ?」
俺の説得で、ハッとするイケメン。
「わ、わりぃ! そうだな……。1階に団らん用のリビングがあんだろ? そこで待ってるから……。お互いに全員で集まるのはアレだから、俺たちか、多くても4、5人で話そう」
「分かりました。俺が食べ終わったら、すぐに行きます」
イケメンは、ようやく落ち着いた。
けれど、久住に謝ることなく、全員分の朝食を要求する。
過去作は、こちらです!
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