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この温泉旅館、何か変……

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

「この後は、どうなります? うさぎ亭に村人が押しかけるんですか? それとも、警察を呼ぶ?」


 俺の質問に、正面で向き合っている老婆が訊ねる。


「うさぎ亭?」


「この村にある、温泉旅館です! 俺たちも泊まっています」


 少し考えた老婆は、頷く。


「今は、そう呼んでおりますか! 近づかないよう、言うておいたのですが……。姫さまがお越しになられたので、この神社も終わり。ところで、あなた様のお名前をお伺いしても?」


 藤堂(ふじどう)紗良(さら)が、代わりに答える。


「わたくしが身を寄せております、氷室(ひむろ)家のお方でございます」


「氷室駿矢(しゅんや)です」


 正座のままで両手をついた老婆が、頭を下げた。


「姫さまをお護りくだされしこと、かたじけなく、言葉もござらぬ(ところ)(そうろう)


 俺が圧倒されていると、紗良のフォロー。


「氷室様にございますれば、そのようなこと、当然とお思い召されておりまする。どうぞ、(おもて)をお上げなされませ」


「ハッ!」


 スッと、上体を起こした老婆。


(姫様みたいだ……)


 そういえば、紗良は自分を大名の娘と言ってたな?


 老婆が、俺を見た。


「結論から申し上げれば、ワシらは何もいたしませぬ……。姫さま! お家に戻りたければ、この神社にお越しくださいませ! たまひ神社は、そのためにあります」


 困惑した紗良が、問いかける。


「そなたは――」

「もう1つ、申し上げたい義がございます! 良いですか? 最後の最後まで、諦めてはなりませぬ! その件で、お耳に入れたいことが」


 老婆が立ち上がり、紗良の耳元で囁く。


「……!?」


 息を吐いた紗良は、動揺した様子で、俺をチラチラと見ている。


 離れた老婆は、元の位置に座り直しつつ、念を押す。


「ワシも、全てを知りませぬ……。ですが、必ず意味がある! もし追い詰められたら、このババを思い出してくだされ」



 ◇



 うさぎ亭へ戻れば、ランチタイムを過ぎたぐらい。


 広い玄関で、ちょうど番頭の久住(くすみ)と出くわした。


「お帰りなさいませ! この村は何もなく、申し訳ございません」


 上機嫌の藤堂紗良が、陽気な声で応じる。


「いえ! たまひ神社で歓迎されました」


 びっくりした表情の久住は、口が半開き。


「たまひ神社……ですか?」


「はい! どのような由来で……」


 紗良は、悩んでいる久住を見て、黙り込んだ。


 我に返った彼は、笑顔を作る。


「ハハハ! 村の支えでは、あったんですけど」


 あった?


 俺は、その言い方に引っかかった。


 いっぽう、久住は、おずおずと尋ねてくる。


「あなた方は、神社で何を?」


「宮司の方と――」

「頂上を目指したついでに、見学しただけです。立入禁止であれば、知らずにすみません」


 紗良が、俺の顔を見た。


 空気を読んで、何も言わず。


 俺たちを見比べた久住は、息を吐く。


「いえ、危険だから近づかないほうが良いというだけで……。ご無事で、何よりです! ところで、お昼はいかがいたしましょうか?」


「まだ残っていれば、お願いできますか? 夕飯の仕込みに入っているでしょうけど……」


 俺の謝罪に、久住は頷く。


「大丈夫です! 2名様で、よろしかったでしょうか? 準備ができましたら、食堂へどうぞ」


 会釈した久住は、立ち去る。


 俺たちも、それぞれの大部屋に戻り、すぐに食堂へ。


 厨房に大勢がいる気配と声の中で、どんぶりに入ったカツ丼と、漬物、味噌汁。


 向かいに座った紗良は、上品に食べていた。

 よっぽど美味しいらしく、面白いほどに表情が変わる。


「氷室さま? 召し上がらないので?」


「食べるよ!」


 遅めの昼食が終わり、いつもの組み合わせで、交代の夕飯。


 氷室ハーレムと名付けられて、もはや定着しつつある。

 ともあれ、ようやく馴染んできた温泉旅館。


 修学旅行のような雰囲気だが、男女が同じ部屋で談笑しつつのカードやボードゲームという、あり得ない光景へ。


 俺の側室と見なされている女子3人と、それ以外の男女という、見えない線のような区分けはあるが……。


 眠くなったら、女子が自分たちの部屋へ帰るだけ。


 翌日の朝に、変化が起きた。



「どーなってんだよ、この宿は!?」


 朝日が眩しい食堂に入ったら、若い男が番頭の久住に怒鳴っていた。


 ネットの配信者の一行が集まっていて、他のやつらも責めるような視線。


 聞いていると、昨日の夜に怪奇現象が起きたそうだ。


「俺たち、寝られなかったんだよ! これで金とるのか!? あんたらも、ちゃんと言ったほうがいいぞ?」


 怒鳴っていた若いイケメンが、俺たちに気づいた。


 ズカズカと歩み寄り、俺に訴える。


「昨日の夜、お前らも眠れなかったろ?」

「……落ち着いてください! 何もなかったと思いますが」


 言いながら、後ろにいるグループを見た。


 男女が混じっている高校生たちは、誰もが首を横に振る。


 上半身を前に戻したら、納得できないイケメンが足踏み。


「んなわけ、ねーだろ!? まさか、こいつに金をもらって――」

「違います! 俺たちは、メシを食いに来たんで! 時間があるのなら、その後に話し合いませんか? 少なくとも、俺は事情を聞きますよ?」


 俺の説得で、ハッとするイケメン。


「わ、わりぃ! そうだな……。1階に団らん用のリビングがあんだろ? そこで待ってるから……。お互いに全員で集まるのはアレだから、俺たちか、多くても4、5人で話そう」


「分かりました。俺が食べ終わったら、すぐに行きます」


 イケメンは、ようやく落ち着いた。


 けれど、久住に謝ることなく、全員分の朝食を要求する。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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