「え? 皆さまは、氷室さまの大奥では?」
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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山奥の温泉旅館である、うさぎ亭。
地元民が温泉に入りに来るため、合鍵の管理すら怪しい。
連続殺人事件が起きる高校生たちが宿泊に来ないだけ、有情である。
隣り合った部屋に泊まる女子グループと、男子の部屋に集合。
車座になって畳の上に座り、今後を話し合う。
「貴重品は、各自で肌身離さず! 大きな荷物は部屋に鍵をかけて、後は割り切るか?」
「おう!」
「……そんなところかな?」
俺の発言に、男子は頷き、女子は首をひねる。
西園寺睦実が代表して、提案する。
「ボクらは、替えの下着がある。大きな荷物をフリーにしたくないんだよ! 部屋の鍵も見るからに安っぽいし、この調子じゃ合鍵を作られてそう」
腕組みした水主東一が、首肯する。
「どう見ても、鍵交換をしてないよな……」
「何なら、鍵屋がグルまであり得る!」
日高烈火が、茶々を入れた。
脱線しているので、話を戻す。
「本職じゃなく、手先が器用な奴がやってそうだしな? 女子グループは、温泉に入る時に荷物を運んでくれ! それか、俺たちの誰かが残っている部屋でまとめての管理」
女子が、それぞれに悩み出す。
(俺たちが弄らない保証もないし……)
そう思っていたら、睦実が頷いた。
「分かった! じゃ、どう過ごすか決めよう?」
「そもそも、ここって遊ぶ場所があるのか?」
俺の問いかけに、周りがスマホを弄り出す。
「んー? うさぎ亭の案内によれば、神社があるぐらい……」
「荷物が心配で、遠出する気分になりません」
「ここで温泉に入って、ダラダラ過ごせば?」
「……だね! ここでも鍛錬とは、言わない?」
俺のほうを見た烈火に、答える。
「言わない! 三食昼寝付きだし、スマホもかろうじて通じる。ゆっくりしようか?」
賛成の声が、バラバラに返ってくるも――
「氷室さま? 出過ぎた真似と承知しておりますが……。わたくしは、せっかくなので神社へ参拝したく存じます」
もじもじする藤堂紗良を見た。
(当時は、寺社へ行くぐらいが娯楽か……)
納得した俺は、紗良に答える。
「じゃ、行ってきなよ――」
「駿矢? 護衛が必要だし、付き添ってあげて」
睦実が、フォローした。
正座の紗良は、睦実に向き直る。
「正室にご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「……えーとね? ボクは、正妻じゃないんだ」
気まずそうに告げた、睦実。
(俺も、気まずい……)
一部の女子からのジト目と苦笑、男子の呆れた視線。
頭を上げた紗良は、構わずに微笑む。
「側室の方ですね? ご正室は、いずこに?」
「ハアッ……。香奈葉は、京都にいるよ」
「左様でございますか……。わたくしもお会いできれば、良いのですが」
微妙な顔になった睦実は、首を横に振る。
「あまり、お勧めしない」
「……高貴な御方となれば、お会いするのは難しいでしょう」
悲壮な覚悟になった、紗良。
(高貴というか、京都以外は滅んでもいいっていう、ヤベー奴だが)
睦実の視線で、仕方なく告げる。
「そのうち連絡するから……。今は、忘れてくれ」
「畏まりました、氷室さま」
頭を畳につけた紗良に返事をされ、周りの視線が俺に突き刺さる。
パンッと手を叩いた神宮寺希が、提案する。
「温泉に入りませんか?」
男子が、気を遣う。
「そっちが先でいいよ!」
「俺たちは、ゆっくりしたい」
「宿の主人にも、話を聞きたいし……」
すると、頭を上げた紗良は、微笑んだ。
「では、氷室さまも――」
「俺は後にするって」
首をかしげた紗良は、睦実に手を引っ張られ、出て行った。
◇
うさぎ亭の主人である久住に聞けば、村長へお願いして、連休中の銭湯扱いをやめてもらったそうだ。
「実は、お客様の他にもご予約をいただきまして……。女性もおりますゆえ、いつ誰が入ってくるか不明では落ち着けないでしょう?」
話している神宮寺希が、返事をする。
「ありがとうございます! これから温泉に入ろうと思っていて、楽しみです」
「露天風呂ですが、十分な目隠しがございます。もう高齢者ばかりの村で、なし崩しに混浴となっており……。女性専用の時間帯を設けて、ご利用いただくつもりでした。連絡が遅くなり、本当に申し訳ございません! 異常がありましたら、すぐにお聞きください」
頭を深く下げた久住に、希が訊ねる。
「分かりました! ところで、他のお客とは?」
元の姿勢になった久住が、ハキハキと答える。
「団体のご一行です……。この村を撮影するらしく、その件でも村長に報告しました! ネットの動画としてアップするようですが、私はあまり詳しくないので」
――露天風呂
念のために、脱衣所から風呂まで見て回る。
「……大丈夫かな?」
西園寺睦実の一言で、女子は安堵した。
念のために、脱いだ服を入れた大きな荷物を濡れない場所へ固めておく。
リネン類とソープは、備え付け。
いざ温泉に入れば、普段と違う雰囲気でリラックス。
「あー、生き返るぅ」
「……外だと、開放感があります」
その時に、藤堂紗良が周りに尋ねる。
「みなさまと氷室様のお家を盛り上げていければと、存じます。側室の序列は、どのようになっていますか?」
びっくりした山浦月帆と霜島由里奈が、慌てて否定する。
「勘弁して……」
「ちちち、違うよ!?」
不思議と、神宮寺希は反論せず。
「いいお湯ですね……」
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