朝昼夕がついて1日3,000円は安すぎる!
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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封建時代からタイムスリップしてきたと思われる、お姫様。
藤堂紗良を迎えて、1週間ほど。
剣術部のやつらは、紗良があまりにお堅いことで辟易したようだ。
(いつ、刃傷沙汰になるやら……)
自分の命よりも家の名誉で動いていた時代。
現代の感覚では、無自覚にそのスイッチを踏んでしまうため、ずっと見張っていた西園寺睦実は疲労困憊。
海辺に打ち上げられたサメのような姿に、俺は温泉旅館へ誘った。
ちょうど、連休。
紗良といつものグループも、同行している。
元の時代へ帰ることを前提に、紗良にあまり刺激を与えないことを重視。
その結果、俺たちには退屈な、辺鄙な田舎町となったのだ。
古い乗合バスの窓から外を見れば、ガタガタと揺れる席から一面の緑。
(日が暮れたら、真っ暗になりそうだ……)
東京の住宅地とは全く違う、緑の牢獄だ。
しかし、何もないことで諦観する俺たちとは異なり、紗良は楽しそうだ。
「このような遊山は、初めてでございます!」
「そうか……」
見ると、睦実さんは神宮寺希と並んで座っている。
他の席には、男子2人、女子2人。
何気に、男女のバランスがいい。
(天女伝説の村を思い出す……)
事件を解決したはずが、水の底に沈んだ。
しかし、東京の繁華街にお姫さまを連れて行った日には、元の時代に帰ってからのギャップに耐えられない恐れもある。
適当に話していたら、村のバス停に到着した。
主な乗客である老人たちが、ヨタヨタと降りていく。
その後で、後ろ座席に集まっていた俺たちの番。
足を動かせば、ジャリジャリという音。
「ここからは……あっちのほうか!」
俺が言えば、水主東一も同意する。
「ああ! うさぎ亭って、すごい名前だな?」
「外見は、昔ながらの旅館のようだったが……」
ここで、日高烈火も加わる。
「朝昼夕の食事がついて1日3,000円は、安すぎない?」
東一が、おどける。
「まあな! 本当に大丈夫か、駿矢?」
「たぶん……。料理がショボすぎたら、売店で温泉饅頭を買おう」
俺のフォローとも言えない返答に、乾いた笑いをする2人。
駄弁っている間にも歩いており、俺たちの後ろで女子たちの話し声。
やがて、“うさぎ亭” という木の看板が見えてきた。
立ち止まったグループの中で、見上げている東一が呟く。
「思っていたよりも、立派だな?」
時代を感じる、木造の二階建て。
しかし、部屋は横に広いようで、男子と女子に分かれての滞在も快適そうだ。
「お待ちしておりました! 私は、うさぎ亭の番頭である久住と申します。わざわざ遠いところからお越しいただき、誠にありがとうございます」
出てきたのは、20代半ばの優男。
旅館のスタッフと思える和装をしており、腰が低い。
「予約した氷室です」
「承っております! さっそく、お部屋にご案内しますが……。お荷物をお運びしますね?」
けれど、他にスタッフはいないようだ。
「女子のほうをお願いします」
「……お気遣い、ありがとう存じます」
ペコリと頭を下げた久住は、女子グループへ。
人を使うことに慣れている紗良が、あっさりと渡す。
それ以外は、適当な理由をつけて、持ったまま。
「こちらへ、どうぞ……」
広い玄関口に、宿泊名簿を書くためのカウンター。
靴を脱いで、靴箱へ――
「大変申し訳ございませんが、履き物はこちらの袋でお部屋へお持ちいただけますか? この旅館は地元の銭湯になっているうえ、私1人なので、なるべく貴重品の管理をお願いします」
頭を下げた久住に、俺たちの横を通り過ぎた爺さんが声をかける。
「入るよー!」
募金箱のような箱のスリットで、チャリンと小銭が落ちる音。
どうやら、入湯料のようだ。
「ごゆっくり!」
振り返った久住が声をかければ、ひらひらと手を振った爺さんが、慣れた様子で、積まれているバスタオル、ハンドタオルを1つずつ持っていく。
続いて、数人の高齢者。
同じような会話が続き、申し訳なさそうな久住の説明。
「このように、人の出入りが激しいので……。食事の仕込みなどで不在なら、地元の人は勝手に入って帰ります」
なるほど。
どちらかと言えば、民宿だな?
宿帳に名前などを書いた後で、久住に案内された。
男子と女子で、隣接する部屋2つ。
修学旅行じゃないから、わざわざ離す必要はない。
「お食事は朝昼晩で、1階の食堂で提供いたします。夕飯は午後6時から出しますが、早めに召し上がっていただけると幸いです」
「分かりました! ありがとうございます」
俺に続いて、他のメンバーも礼を言う。
会釈した久住が、別れを告げる。
「では、ごゆっくりどうぞ……」
ドアに鍵はあるが、本当に気休め。
部屋そのものは、わりと立派だ。
2階には和風のバルコニーがあり、座って景色を眺められる。
「うーん? セキュリティボックスがないね?」
「温泉に入る時は、どうするんだよ?」
男子2人の会話に、ツッコミを入れる。
「さっきの様子じゃ、金庫があっても信用できんぞ? どうせ、管理者用のマスターキーか開く方法があるだろうし」
呆れつつも頷いた、烈火。
「だね! 部屋で誰かが見張るか、いっそ温泉でもビニールに入れて貴重品を持ち歩くか」
ため息をついた東一も、首肯する。
「地元に悪いやつがいても、他のやつらが庇うだろうし。小銭稼ぎのコソ泥が出入りしているかもな?」
歓迎されてのディスりだが、これだけ管理がザルでは、言われても仕方ない話。
十分に警戒して盗まれないほうが、お互いのため。
過去作は、こちらです!
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