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封賀秋灯

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 ラブホの薄暗い部屋に投げ込まれた、フラッシュバン。


 それは、1つだけにあらず。


 時間差で、2つ目、3つ目……。


 祭りのようにボンッと炸裂し続け、目を潰すほどの光と轟音をまき散らした。


「Go!」


 頭から爪先まで黒づくめのアサルトスーツを着た隊員が、両手で高精度のサブマシンガンを構えつつ、突入するも――


 立ったままでダランと頭を下げている、セーラー服を着た少女。


 彼女は膝を曲げてバネを作ることもなく、上から吊るされたように飛び上がる。


「撃てっ!」


 指揮官らしき命令の直後に、上へ向けられた銃口からマズルフラッシュと、重なりすぎてバババと聞こえる銃声。


 けれど、反応が遅れたことで、その銃弾の列は少女を捉えられず。


 虚しく、天井に小さな穴をうがつ。


「速いっ!」


 人形のように落ちてきた少女は、右手に持つ刀で1人の隊員を切り裂く。


「ぐっ!?」


 アサルトスーツで防いだものの、落下の衝撃と合わさり、姿勢を崩す隊員。


 他の隊員がカバーに入ったが、これほど密着したうえに多人数の近接戦闘はトレーニングにない。


 低い姿勢で片足を滑らした少女は、刀に操られるように全身で切り上げつつ、防弾バイザーの隙間に差し込んで首を切る。


「ガァアアアッ!」


 絶叫と血の噴水の中で、1人の隊員が拳銃を抜き、腕を折り畳んだ構えで狙うも――


 その時には、同じく首に突き刺し、自身の動きと共に横へ切り裂いた。


「くそっ!」

「……舐めるな!」


 混乱するチームに対して、刀を握っている少女の片腕が後ろへ回転する。


「なっ!」


 完全に不意を突かれた隊員は、サブマシンガンごと両腕を跳ね上げられ、腕が戻った少女に突きで刺される。


 生身の人間では、あり得ない動きだ。


 床を蹴った少女は、内廊下へ出る。


 そこには、銃口を向けている隊員の列。


「撃て! 倒れるまで、撃ち続けろ!」


 今度は、逃げ場のない弾幕。


 けれど、少女はふわりと天井に飛び上がり、雲梯を進んでいるかのように前へヒョイヒョイと接近する。


「天井だ!」


 そちらへ銃口を向ければ、少女は床や壁を蹴りつつの立体移動へ。


 飛び込まれた後には、昆虫を思わせるような動きによる蹂躙のみ。


 警察の特殊災害救助隊は、たった1人の少女に1個小隊を失ったのだ。


「盾だ! 隊列を組んだまま、やつを押し潰せ――」

 ガキィイイン


 飛び上がった少女が上から体ごと斬りつければ、ライフル弾にも耐えられる重装甲の盾が左右にズレた。


 両手で持っていた隊員ごと……。


「なっ!?」

「安倍! 大丈夫か!?」


 横に並んでいた盾の群れは、一気に動揺する。


 両足で着地した少女がコンパクトに刀を横に振るいつつ、その場で回転すれば、残った隊員も上下にズレた。


 再び地を蹴った少女は、ラブホの正面玄関であるエントランスへ走る。


 次に横へ並んでいた隊員は、撃っていいのかどうかで悩む。

 

 まだ、状況を理解できない。


 このままでは、少女の後ろにいるはずの味方を掃射してしまう。


「う、撃つぞ!?」

「……待て! 射線上に、第三小隊がいる! おい、返事をしろ!!」



 ――フラッシュバンが投げ込まれた部屋


 まだ生きている隊員が、倒れている仲間の生死をチェックしていた。


「くそっ! こんなに死んじまった……。絶対にぶっ殺して――」


 後ろから回り込んだ手により、首筋に日本刀の刃が当てられた。


 女子の気配と声。


「動かないで……。伝言をお願い。『カクリヨ神社の巫女が、会いたい』とね? 相手の名前は――」


 気づけば、その隊員は1人で立っていた。


 反射的に腰のホルスターから拳銃を抜きつつ、後ろを振り返る。


 誰もいない……。


 一通りに銃口を向けた隊員は、力なく腕を下ろした。


 血で塗られた部屋に、ブーツで床を蹴る音。


「ちくしょう……。何だってんだ!? ちくしょおおおおおっ!」


 封賀秋灯(ふうがしゅうとう)で陽動した綾千侍(あやせんじ)(さき)は、その混乱に乗じて脱出した。



 ◇



 和装の俺は、夜の街で雑居ビルの屋上にいる綾千侍咲を見た。


 周りの看板や、航空機用のライト、窓からの光に照らされたのは、女子2人。


 ボロボロのセーラー服を着た少女は、まさに人形のような雰囲気だ。

 片手に、血肉がべったりついた刀を持っている。


 穴が開いていることから、銃撃を受けたらしい。


「それが……封賀秋灯か?」


 少し高い場所に立っている俺を見上げた咲は、右手に刀を下げたまま、陰影のある顔で微笑んだ。


「気が変わった? どうせ私も死ぬし、ラブホの料金を払ってもらった……。婚約者の天賀原(あまがはら)さんに怒られるだろうし。いいわよ、それぐらい!」


「あれほど、殺す必要があったか?」


 鼻で笑った咲は、顔をゆがめた。


「カクリヨ神社で、いっぱい死んだ! なら、10人、20人が増えても、たいした違いじゃない……。ついさっき、思い出したわ! あなた、御神刀を持っているわね? 天賀原さんの婚約者もそうだと、聞いた」


 俺の両手が抜刀に入ったことで、少し下で立つ女子2人も身構える。


 咲は、息を吐いた。


 両手で正眼の構えをしつつも、訴える。


「待って! 私は、ある男と話さなければならない! カクリヨ神社でこの封賀秋灯を奪おうとした男と! それまで、時間をちょうだい!」

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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