行きずりの女子とラブホにいると婚約者に報告
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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いつの間にか、行きずりの女子とラブホの部屋にいる。
女子がシャワーの音を浴びている音を聞きながら、俺は周りを見た。
(早く逃げ出さなければ、明日の朝までに俺は黒い炭素になり果てる)
正気度が下がる、ホラーだ。
男女が楽しく運動会をする部屋で、おせっせ抜きの脱出。
不可能問題を、女子が出てくる前に解決しなければいけない。
(そもそも、ラブホって外出できるのか?)
よく考えたら、謎だ。
スマホで検索してみる……。
(基本的に後払いで、無理か)
ここで数時間は楽しむわけだし、援助するケースもあるだろう。
代わりに、料理のお届けとか、周りの飲食店との提携。
(お互いに初対面だと、片方がシャワーを浴びているうちに金を抜いて逃げることもありそう……)
1人ずつ逃げての、踏み倒し。
そういったケースも踏まえれば、2人そろっての退室に限定――
思い直して、このラブホの名前を探す。
部屋にあったデスクに、ビジネスホテルのようなパンフレット。
スマホで打ち込む。
(あ! ここ、前払いもできる!!)
助かった。
あの女子が翌日の朝まで過ごせるだけの支払いをすれば、俺が帰るだけで済む。
けれど、財布を開ければ、400円ほど。
フーッと息を吐いた俺は、部屋に設置された自販機でジュースを買った。
グイグイと飲みながら、ベッドの端に腰を下ろす。
端末によれば、クレジットカード払いも可能。
「支払い用のクレカ、あるけどさあ……」
その名義は、俺の婚約者がいる天賀原家だ!
このラブホの名前が、支払い履歴に表示されます……。
よく考えたら、この女子は金がないと言っていたし、このカード使うしかないじゃん?
「仕方ない!」
決意を込めて、俺はスマホをさわる。
プルルル
『はい、天賀原なのでー!』
「香奈葉? 俺、名前も知らない女子とラブホにいるんだ。支払いでカード使っていい――」
『遺言は、それでいいのでぇ?』
うーん、怖い!
「落ち着け! 本当に成り行きで……。もう入ってしまったから、その女子を置いてすぐ立ち去りたいけど、前払いをしないと無理っぽいんだわ! 詳しい話は帰ったら――」
「ねえ? 誰と話しているの?」
シャワーから出てきた女子は、バスタオルを体に巻いている。
頭にもタオル。
どうやら、俺が電話をしていることが気になったようだ。
その声が聞こえたようで、香奈葉は溜息をついた。
『彼女と話をさせるのでー』
「分かった」
俺は、通話中のスマホを差し出す。
ビクッとした女子は、恐る恐る、スマホを手にした。
「も、もしもし……。ええ! 私が強引に手を引っ張って……」
憂鬱になった俺は立ち上がり、ラブホに特有の大人のおもちゃの自販機を見つめて、平静を保つ。
(色々あるなあ……)
肩をポンポンされ、振り返ると、俺のスマホが返ってくる。
「終わったか?」
コクリと頷いた女子は、神妙な顔つきでシャワーブースへ戻っていく。
(……まだ通話中か)
バーベルのように重く感じるスマホを、片耳に当て――
『駿矢ー! 駿矢ー!』
香奈葉は、先ほどとは違う、不安でたまらない声音だった。
思わず、小声で話す。
「どうした?」
『……翌日までの支払いをカードで行い、そのラブホから遠ざかるのでー!』
「何で――」
『説明している暇もないのでー!』
ブツッと、電話が切れた。
仕方なく、離れている女子に言う。
「翌日の朝までは、俺のカードで支払うから……。もう帰らないと」
視線をそらした女子は、言い捨てる。
「そう……。私が無理を言ったし、本当に感謝するわ! あとは、自分で何とかする」
「ああ、元気でな?」
急いで、壁の端末にカードをかざしつつの支払い。
忘れ物をしないよう注意しつつ、内廊下へ出る。
バタンッと、防音ドアが閉まった。
薄暗い廊下の先で、ザッザッザッと小走りの足音。
(何だ?)
「警察だ! すぐに退避しろ! すぐにだ!」
俺は、その声から遠ざかるように走り出した。
角にある案内板を見て、避難経路を調べる。
(ここからは……どうするかな? さっきの気配と足音は、1人、2人じゃない。それも、重装備だ)
◇
氷室駿矢が立ち去った部屋で、服を着直した女子は息を吐く。
「まさか、こんな形で天賀原家と話をするなんて……」
取り出したIDには、綾千侍咲とある。
「あの男に会って、本音を聞かないと……。分かってはいるけどね?」
それでも、未練は残っている。
香奈葉の話を聞いた駿矢は、急いで立ち去った。
(どっち?)
物騒なほうであれば、自分と一時的に共闘する。
警察の特殊災害救助隊。
Special Disaster Rescue Team
略して、SDRTが出動している。
(封賀秋灯は……使うべきね! おそらく、1個中隊はいる)
凄みのある笑みを浮かべた咲は、左腰に開いた右手を添えて、何もない空間から御刀を抜く。
爆発したようにドアが一気に開き、すかさず放り込まれる小さな物体。
フラッシュバンだ。
これは一時的に大きな音と光を発し、近くにいる人間を無力化する。
警察の特殊部隊との戦闘が始まった……。
過去作は、こちらです!
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