人魚になった天女たちの祭壇
秘密の女子校で、1週間の滞在。
けれど、そこには世界を滅ぼす存在の召喚儀式があって……。
「異能者が普通にいる世界へ転生したら死亡フラグだらけの件」の3巻目は、誰もが疑わしい!?
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薄暗く、全てを壁に囲まれた空間。
それは映像で見た炭鉱を思わせる雰囲気で、同じように人の手で拡張されたような痕跡と補強がある。
後から設置したであろう灯りに照らされた久世果歩は、いつでも左腰から見えない御刀を抜けるように備えつつ、一本道を進んでいく。
アンダーリムの眼鏡は曇りがちで、極度のプレッシャーから自分の顔を拘束しているフレームを鬱陶しく感じる。
「ふうっ!」
覚悟を決めた果歩は、自分が防人であることを再認識すると同時に、このような秘密基地へ入った田村東助を怪しむ。
別の出入口があることを危惧して、言い換えれば、一刻も早く真実を知りたく、走り出した。
御刀による身体強化で、線の細い女子高生とは思えぬ加速。
あっという間に通路を抜けて――
ホールのように広くなった空間で、足を止めた。
靴底が削れていき、両足でブレーキをかける間にも、その光景から目を離せない。
それは、冗談のようだった。
まるでSFか、ゾンビになるウィルスの研究所。
あるいは、怪人を培養している施設だ。
「な……」
目を見張った果歩は、呆然と立ちすくむ。
視線の先には、ちょうど1人が入りそうなカプセルが立ち並ぶ。
巨大なビーカーを思わせる。
ライトアップされたカプセルの中には、果歩にとって見覚えのある制服。
それも、3つだ。
しかし、彼女が急いで駆け寄ることはなく、我を失ったまま。
アクアリウムのように管理され、液体で満たされたカプセル。
その中で溺れているはずの女子たちは、ピクリとも動かず。
水死体を見たことがあるだろうか?
内部の臓器から腐り、発生したガスで膨らむのだ。
それなのに、果歩が見る限り、まだ生きているかのような状態。
聞き覚えのある男の声。
「いや、苦労したよ……。代々の積み重ねとはいえ、深海生物の育成やらを教えてもらい、その設備を導入するのに難儀したらしい」
「田村……東助」
果歩がその正体を言えば、並んでいるカプセルの後ろから、まさに本人が現れた。
「本当の名字は、水瑚だったらしいが……。今じゃ、こんな名字に。うちの先祖は、気が利かないもんだ!」
人の良さそうな顔は、不気味なまでに歪んでいる。
両手を上げて、語り出す。
「これは、死体の腐敗が進みにくい環境!! 平たく言えば、高圧にしたことで疑似的な深海の底で……。どうも、死蝋化とか……。専門用語は難しくて、いけないね?」
今度は、笑顔になった。
腕によりをかけたディナーの紹介のように、明るい声だ。
いっぽう、小さく震え出した果歩。
「なぜ……」
それを見た東助は、両手を前へ突きだし、慌てて言う。
「すまないね、言い方が悪かった! 彼女たちは全員が、伝承の通り、『人魚になった天女』だよ」
「アァアアアアアアッ!」
左腰から見えない刀を抜いた果歩は、一瞬で加速して、東助に斬りかかった。
けれど、感情的になった一撃だけに、大振り。
あっさりと避けた東助も、同じように見えない刀を抜いた。
「なっ!?」
「私は、天女の末裔だ……。防人のように刀を持っていても、不思議はないだろう?」
両手で刀を握り直した、東助。
果歩が斬りかかるも、風鳴学院の先輩がまるで生きているかのように保管されていたことで動揺。
薄暗いホールの下には溝やケーブルで、思うように動けない。
東助には、勝手知ったる場所。
わざわざ下を見ることなく、次のポジションを決め、斬撃につなげていく。
「ここは道場とは違う、よっ!」
「あっ!?」
耳を塞ぎたくなる金属音で、果歩は首筋に刃を突きつけられた。
命のやり取りをしているとは思えない笑顔で、東助が諭す。
「頼むから、これ以上のワガママは止めてくれ……。今度こそ、きちんと子供を成して、再現しなければならな――」
パァンッ!
ビクンと震えた東助は、驚いた顔に。
「お、お前……」
振り返れば、両手でリボルバーを構えた、老齢の男。
刑事の三船卓見だ。
「やっと……。やっと、あんたの尻尾をつかめた」
果歩が立ち上がり、卓見の射線をふさがないよう、回り込んだ。
卓見は銃口を突きつけたまま、視線を動かさず、問いかける。
「ご無事で?」
「え、ええ……。どうして、ここに?」
「あなたを見張っていました! 文句は、後で聞きます」
つまり、囮にしたのだ。
低い、うめき声。
それを発した東助は、銃弾を受けたことでガクリと膝をついた。
「き、貴様……。この人魚が眠る場所に――」
「田村東助! 殺人未遂、銃刀法違反、その他の疑いにより逮捕する! 武器を捨てて投降しろ!!」
銃弾がめり込んだ箇所から、一筋の血が流れている。
けれど、東助は狂ったように笑うだけで、両手を上げる気配はない。
卓見は拳銃のグリップを握り直しつつ、改めて警告する。
「これが最後だ! 武器を捨てろ!!」
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