公衆電話の怪
思いつきの短編です。
頭空っぽで読んでやってください。
俺は真崎寛治。
市立中学に通う何処にでもいるただの中学生だ。
3年の俺は1年の時からオカ研に所属している。俺以外の面子は、幼なじみの福澤透に同じ3年の三崎拓真、2年の養田昌成と1年の上林達也の男子4人に、女子は複数名いるが、殆どが幽霊部員だ。
幼なじみの透は、アイドル並みのイケメンで、成績優秀、スポーツ万能と、なんでオカ研なんかにいるんだろうって感じの学校の有名人だ。
オカ研には透目当てのふわふわな動機の女子が押し寄せてくる。
ただ、うちのオカ研って、わりかしガチなんだよな。
歴史資料館や民族資料館を回って、地域の伝承を調べたり、各地のフォークロアを研究、考察したり、新しいフォークロアの開発、ネットでの拡散を試みたりと、民俗学や歴史、集団心理や文芸などなど、得意分野を活かして、其々にオカルトを探求していて、ふわふわな動機の女子は自然と引いていって、後に残ったのは、元からガチなことを知っていて入った、根っからオタク気質の鮎村さんと高野さんの二人と、透目当てから、気合いで活動についていっているうちに気付けば沼に嵌まってしまった高坂さんと沢谷さんの二人だ。
俺はというと、実のところはオカルトにはそんなに興味は無いんだけど、切実な理由からここにいたりする。
俺は昔っから何故か変な出来事に遭遇しやすく、結構危ない目にもあっていて、その度に幼なじみの透や、今は亡くなっちまったけど、透のお祖父さんによく助けてもらったんだ。
だから、透の誘いもあって、ここにいるって訳。
「学校から、俺ん家へ帰る途中に公園あるだろ。昨日、夕方学校帰りにそこを通ってて、途中で公衆電話ボックスの前を横切ったんだけどさ」
放課後、オカ研の活動場所として学校から指定されている空き教室にはまだ俺と透しかいなかった。んで、俺は昨日あったことを透に話す。
「丁度、そん時に限って誰もいない公園でさ、横の公衆電話が突然鳴ったんだよ。マジでビビった」
「相変わらず、変なことに遭遇するね」
本気で怖かったんだけど、透は笑っていて、少しも怖がらないので少しムカつく。何なら、その笑い方もこう、絵になるって言うのか、気取ってる訳でもなく自然に笑ってるだけなのにカッコ良くて、普段なら、やっぱ俺の親友はカッコええなーと無駄に自慢気な気分になるんだが、今は癪に障る。
「マジで怖かったんだぞっ! 」
思わず、口調が荒くなって、口にしてから後悔する。ムキになるとか恥ずかしくて気まずい。
「ごめんごめん。ただ、公衆電話って、回線を繋いでる電話である以上は一つ一つに番号が振られているんだよ」
そう言われて、まぁ、電話として設置すんなら、確かにそうかと思うけど。
「でも、公衆電話にかけてくるなんてあるか」
「一応、災害時なんかで、他の通信手段が使えなくなった時の緊急用として今でも残されているくらいだから、問題なく回線が繋がっているかチェックするために試験的にかけることもあるみたいだし、間違い電話でたまたま繋がることももしかしたら、あるかもよ」
説明されると、なんだそんなもんかと思ってしまう。そりゃ怖がらないよな。でも、何か悔しい。
「ただ、寛ちゃんの場合、万が一があるから、今度、遭遇しても出ちゃダメだよ」
ぐいっと顔を近付けていう透の真剣な顔に、同じ男なのに、何でか照れる。ホントに無駄に顔が良すぎる。
「おっ、おう」
そんな返しをして、その話は終わったんだ。
~~~
帰り、透とは公園の手前くらいまでは一緒で、公園手前の道を右に行くと透の家で、俺の家は公園の反対側なんで、結構広い公園の外側を迂回するより、真っ直ぐ公園の中を突き抜ける方が早い。
「たまには、もう少し一緒に付き合ってくれない」
透は、遠回りになっても迂回路を選んで、もう少し一緒に帰らないかと聞いてくる。
昨日のことを話した俺に気を使って、それとなく公園を避けるルートを選択できるように、誘導してくれている。全く、性格や、この配慮できるあたりの中身までイケメンなとこは、ホントに神様は依怙贔屓が過ぎるね。
まぁ、さすがに何時までも怖がっていると思われたくなくて、俺は。
「いやー、遠回り過ぎるし、いつも通り公園突っ切っていくよ」
そう答えた。
「そっか、じゃあ、また明日ね」
そう言って手を振る透の顔が、心配そうに見えて。本当に良い奴だなーなんて手を振り返した。
~~~
公園の中を歩いていく。
広い公園で鬱蒼とした植樹された林から、風で葉や枝が鳴る音が聴こえてくる。
街灯がついて、遊歩道には木々の影が長く伸びている。公園中央の広場、噴水が真ん中にあって囲むようにベンチが並んでいる。
円形に配置されたベンチ、その周りに噴水とベンチを照らすように並ぶ街灯、そして、円形の広場の4つある出入口のひとつ脇に公衆電話ボックスがポツンといる。
反対側から広場に入った俺は噴水を避けるようにベンチの外側を回って、公衆電話ボックスのある方へと歩いていく。
昨日は広場を出る瞬間、公衆電話の横で鳴ったんだ。
透の話を聞いた時は、なんだそんなもんかと思っていたのに、何故か不安な気持ちになってくる。
夕方の赤に染められた噴水とベンチが妙に迫力ある何かに見えて、足早に通りすぎる。
公衆電話ボックスの前に来た。
pullpullpullpullpull……pullpullpullpull
「なっ、鳴った」
公衆電話がまた鳴る。
透の言うのがホントなら、別に怖いことじゃない。
「そうだよ、別に霊とかじゃないって」
そう思った俺は、鳴りやまない公衆電話の横まで来て。バカな考えに憑かれた。
「出ちゃダメとか言ってたけど、実際テストとかなんだろ。出たとこで問題ねーよな。出たらどうなんだろ」
回線の点検のためにかけた筈が関係ない中学生が興味本位で出たら、どう対応すんだろ。万が一間違い電話だったら、もっと面白いかも。
そんな事を考えてたら、俺は公衆電話ボックスの中にいた。
使う機会なんて無かったから初めて入ったけど、中に入ると思ってたより狭い。
俺は受話器に手をかける。
『出ちゃダメ』
透の言葉が過って、一旦、手を引きそうになるけど。
「透も考え過ぎだって、明日の話題は、やっぱり何でも無かったよって、透をからかってやるで決まりだな」
そう呟きながら、俺は勢い良く受話器を取った。
『やっと出た。……ありがとう』
それだけ言って、電話は切れた。
「何だったんだ。今の」
わざわざ、この公衆電話の番号を調べてイタズラ電話してたのか。災害時のための点検とかなら、あんなこと言わないよな。
そんな事を考えていた俺は受話器を置いてから、やっと異変に気付いた。
まだ夕方だった筈の外が真っ暗になっている。
いや、そもそも街灯や星明かりすらなく、本当に真っ暗なんだ。公衆電話ボックスの中のライトだけが煌々と光っていて、その光すら吸い込まれるように外の様子を一切照らしていない。
俺はボックスの出口を開けようとして。
「あっ……開かないっ! 」
閉じ込められた。
そう思った瞬間、俺はスマホを探してポケットを漁る。
「何で圏外なんだよっ」
どうなってるのか、さっぱりだけど、さっきの奴のせいなのは間違いない。
どうしたらいいか。
俺はダメ元で公衆電話の受話器を取った。
「テレフォンカードなんてないし、小銭だってそんなないぞ」
そう言いながらありったけの小銭を出してスマホに登録されている番号にかけまくる。
「駄目だ。出ない」
知らない番号からかかって来ても出ないのは当たり前だよなと思うけど、それでも家族やクラスメート、後輩たちにかけ続ける。
どのくらい、コール音を聞いていたのか。
「透にかけるか」
出ちゃダメって言われたのに、出た挙げ句この様だと、透に頼るのは気が引けたけど、頼れるのはやっぱり透しかいない。
コール音が鳴り続ける。
やっぱり出ないのかな。
そしたら、俺、ここで死ぬのか。
いつの間にか泣き出した俺。
「頼むっ、もう言う通りにするからっ、頼むよ、出てくれ、透」
そんな泣き言を言った時だった。
『もしもし、もしかして寛ちゃんか』
「透っ、そうだ俺だよ。あの公衆電話がなって、出ちゃってさ。そしたら公衆電話の中に閉じ込められた」
自分でも良くわからないことを言ったと思うし、言い付けを破ったんだから、怒られるかもって思ったんだけど。
『はー、嫌な予感がしたんだよね。やっぱり無理やりでも一緒に帰るべきだったな。待ってて、一度切るけど、すぐにかけ直す。そっちの電話が鳴ったら出るんだ。少し時間がかかるけど、必ず連れ戻してやる』
「待って、切らないでくれよ。嫌だよっ」
『大丈夫だよ。必ず連れ戻してやる。僕がウソついたことあった』
「いや、ないけど……わかった。待ってる」
『うん、じゃあ、またあとでね』
電話が切れると、俺はその場に座り込んだ。
透と話せて安心したのと、本当に助けて貰えるのか不安で。
スマホを取り出してボーッと見つめる。
もう、1時間も経っていた。透と話してから、たった1分経過するだけでも、このまま二度と繋がらないんじゃと不安になる。
それから5分くらいたって、突然電話が鳴った。
「やった透だっ」
俺は嬉しくて飛び上がる勢いで立ち上がって、そのまま受話器を取ろうとして。
「でも、本当に透なのか」
また、奴だったら、そう思ったら中々に受話器を取る勇気が出ない。でも、このまま切れてしまえば、二度と助からない気がして。
「あーっ、もう頼んだっ」
透だと信じて受話器を取った瞬間、俺の前に透がいた。
~~~
僕の親友はちょっと変わった体質をしている。
家が近くて、小さい頃からよく一緒に遊んだ寛ちゃんは、霊なんかに好かれ易い。
その癖、本人は一切霊感が無い0能力者ときている。
まぁ、下手に見えるより、見えない方がトラブルになりにくいから、その方がいいんだけど、あれだけ霊とかに好かれちゃうと、霊が悪さするつもりがなくても、障ってしまうこともあるし、悪意のある者に標的にされることもある。
亡くなった俺のじーちゃんが心配して、あれこれと対策してなかったら、結構危ない時も何度かあって、今は僕がその役目を引き継いでる。
何れは自分で身を守れるように何とかする予定だ。
寛ちゃんは僕のことをイケメンなんて呼んで、自分のことはフツメンだって言ってるけど、寛ちゃんはどっちかと言えば、同学年の中学生に言うのもなんだけど、童顔の可愛い系男子だ。
調子に乗りやすいとこはあるけど、意外と面倒見もいいし、親切で、マメだから、結構女子にもモテてる。なんでか、それを全部、僕目当てだと思い込んでるんだけどね。
そんな寛ちゃんが、またトラブルに巻き込まれた。
鳴り出した公衆電話に出たせいで、ボックスに閉じ込められたって。
オカ研の部室で聞いた時から、嫌な予感がしたんだよね。知らない番号からかかって来た電話に直感で寛ちゃんからだって思った。
寛ちゃんが閉じ込められた空間に、繋がりが出来た僕のスマホから、履歴にある番号へと電話をかける。
じーちゃんが生前遺してくれた護符をスマホに貼り付けて、念入りにマントラを唱えてからだ。
結果は上々、電話が繋がった瞬間、僕の部屋に寛ちゃんが呼び出された。
まだ、取り乱している寛ちゃんを落ち着かせて、取り敢えず泊まっていきなよと、寛ちゃんの家に連絡して、僕の両親にも話す。
憔悴してる寛ちゃんに休みなってベッドで横になって貰って。僕はそのまま残されているじーちゃんの書斎へと行った。
机に置かれた。紙コップの裏に糸を貼り付けた片方だけの糸電話を僕は手に取った。
紙コップを顔の前に持ってくると、自然と糸が宙に浮き、ピンっと真っ直ぐに張る。
『おー、透か。どうしたんじゃ』
そうして、じーちゃんとの会話が始まる。
小さい頃、じーちゃんと糸電話でよく遊んだ僕に。じーちゃんは亡くなる少し前に片方だけになった、この糸電話を渡してきたんだ。
自分の棺にはもう片方を入れてくれって遺言して。
じーちゃんが亡くなって、ギャン泣きしながら、じーちゃんが言ってたって、棺に片っ方だけの糸電話を入れて、荼毘にふされたじーちゃんに、その日は泣きながら糸電話を持ってベッドに潜ってたら、糸電話からじーちゃんの声が聞こえた。
彼岸と此岸を繋ぐアイテム、切られた糸電話。
じーちゃん特製の霊具から、陽気なじーちゃんの声がして。僕は相談を続けた。
「寛ちゃんがまた巻き込まれた。成り代わりだと思うけど、一度あっちに連れてかれて、一応引き戻したんだけど、多分、元凶がこっちに来ちゃったままなんだ」
『それは不味いな、ちゃんと対策はしたんか』
「うん、身代わりをしてるから、ターゲットは僕に刷り変わってるはず、そろそろ来ると思うんだけど、じーちゃん、成敗してくれない。僕じゃ、まだ力不足でさ」
『任しとけ』
じーちゃんとの通話を切る。
それと同時に書斎の入り口あたりに空間の歪みが現れる。
空間の裂け目から出てきたのは寛ちゃんだ。
いや、寛ちゃんそっくりに変化した元凶、「公衆電話の怪」とでも呼べばいいか。
「オマエハ、ダレダ、コノ、カラダノ、モチヌシハ、ドコダ」
寛ちゃんそっくりな声で辿々しく話す「公衆電話の怪」。
「答える訳無いだろ。僕の親友と成り代わろうとしてる化け物なんかにさ。空間牢獄に閉じ込められた犯罪者の癖に脱獄に僕の親友を選んだことを後悔するんだね」
「ナゼ、タダノ、ニンゲンガ、」
「知ってるかって、僕のじーちゃんを教えてあげるよ。福澤衛、真姓は御霊院衛だ。知ってるだろ、霊界の執行人、一人で司法権と刑の執行権を持つ、霊界裁判所の最高権力者さ」
「ゴ、ゴリョウイン、ダト」
そう言って、出てきた裂け目に戻ろうとした化け物だったけど、残念だけど、タイムアップ。
『孫の友達に手を出すとはな』
あらゆる世界に干渉できるじーちゃんの手が裂け目からニュッと出てくると、掴まれた寛ちゃん擬きは一瞬で消えてなくなっちゃった。
「じーちゃんには、まだ敵わないなー」
そんな呑気な感想で、「公衆電話の怪」はあっさりと片付いた。
~~~
朝起きると、いつもと違和感に、あー、透の部屋に泊まったんだったと思い出す。
起き上がると、透は勉強机に座っていて。
「あっ、起きたんだ。多分、朝ごはん用意してあるから、一緒に降りて食べよ」
「透、昨日はありがとう、でも昨日のアレ、何だったんだろ」
俺は、またあの空間に引きずり込まれるかもって不安で、透に訊く。
「んー、成り代わりの一種かな。空間牢獄に閉じ込められて、脱獄するためにこっちとの接点を作ろうとして、たまたまあの公衆電話にチャンネルを開けたんだと思う。寛ちゃんはそういうのに惹かれ易いから、巻き込まれたんだね。ダイジョブだよ、じーちゃんが絶対出れないとこに送ってくれたから」
「いつも思うんだけど、透と透のじーちゃんってナニモノ? 」
毎回助けて貰うけど、本当に謎でしか無いんだよな。今もさらっと、死んでるはずの透のお祖父さんが何とかしたとか言ってるし。むしろ、そっちのが何か怖くて、さっきまでの不安が薄れてくよ。
「んっ、それはナイショ」
人差し指を立てて口の前でシーッてしながら言う親友に、なんかあざといなーと思いながら感謝したんだった。
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「申し訳ありません。少し外の世界に出たかっただけなんです。ちょっと楽しんだら、ちゃんと元に戻すつもりだったんです」
目の前では、寛治くんに成り代わろうとしてたバカが焼き土下座しとるが。
「お前らのちょっとは人間の尺度じゃ、ほぼ一生なんじゃよ。気が済む頃には、寛治くんは死んどったわ。存在を消されんかっただけ有難いと思って、第3区次元牢獄で反省するんじゃな」
「第3区って、重犯罪者専用じゃないですか。たかたが子供ひとり成り代わろうとしただけで」
喰ってかかるバカに頭が痛くなるが。
「なら、二度と復活できんくらいに存在そのものを粉々にしてやろうか」
そう、凄んでやれば大人しく刑を受け入れた。
全く、孫を巻き込んだ時点で誰が何と言おうと極刑一択のところを温情を加えてやっとると言うのに。
さて、下界じゃ孫たちは楽しそうに過ごしとる。
「まぁ、何だかんだと寛治くんも鈍いが、透もにぶちんなんじゃよなー。学校の腐った女子生徒のオモチャになっとるって知ったら、流石の透も怖がるじゃろうかの」
仲良く絡み合いながら、健全な親友どうしの交流を深める孫たちに合掌しながら、今日もわしの1日が始まるんじゃ。
感想お待ちしてますщ(´Д`щ)カモ-ン