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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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それぞれの未来

 

 SPドラマの放送と前後して南条みつきのマネージャーが逮捕された。


 彼は葛城玲の存在がみつきのキャリアの障害になると思い、二人が仲良くなることを苦々しく思っていた。雪永奏一郎や小川ミナによって写真が流出したことを利用して噂を煽って二人を仲たがいさせようとした。それを玲の所為にすると同時に、玲に違法薬物使用の疑惑をかけた。玲が南条隆仁と会ったあの夜、わざと玲を車から降ろし、あらかじめ雇った人間二人に玲の後をつけさせて気を失わせてポケットに薬を忍び込ませたのだ。素人のやったことだから警察が玲の証言に基づき捜査をするとあっという間に証拠や証人は見つかった。榊はひたすら玲がじゃまっだったと繰り返すのみでそこにはみつきに対する強い執着が現れていた。


 この後、みつきの所属する南条プロダクションの社長でありみつきの父親でもある南条隆仁は記者会見で謝罪し、みつきも芸能活動を休止することを発表した。



 ‟みつきは大丈夫なのか?”


 久しぶりにみつきと電話で話すことができた。今はみつきの身辺が騒がしい。玲はみつきが相当落ち込んでいるのではと思い心配したが本人はしっかりしたものだった。


 ‟大丈夫。これは全部想定通りだから”


 ‟でも、モデルの仕事もできなくなって。みつきだってすごく叩かれてるじゃないか”


 ‟モデルの仕事にはそんなに固執してないんだ。父には悪いと思うけど、半分は自業自得だし”


 ‟これからどうするの?”


 ‟大学に戻ろうと思う。日本にいるとさすがに周囲が煩わしいし身の危険を感じるからね。この機会に勉強に集中しようと思ってるんだ“


 ‟…また離れ離れになっちゃうな”


 と、玲の声が沈む。


 “大丈夫。一時(いっとき)だよ。それに今は近い距離にいても会えないでしょ。いっそ国外に出て世間が南条みつきを忘れたころに戻ってきた方がいい。それに玲もこれからしばらくはすごく忙しくなるだろうし”


 ‟休みには帰ってくる?”


 ‟そうだね、それまでほとぼりが冷めていれば“


 まだグチグチ言っている玲に


 ‟ねぇ、玲、これくらい離れるのなんて何でもない。ずーっと待ってたんだよ。大丈夫。待てるよ”


 “ごめん、みつき。みつきが待っててくれた時間の長さが想像できない。もう少しも離れていたくないんだ”


 レイシャーンがいつもミシルカにしていたように抱きしめて髪に触れたい。とうとう玲が泣き出だしてしまった。少し離れただけでこんなに辛いのにどうして忘れていられたんだろう。


 みつきは何度も大丈夫、と繰り返して電話を切った。

 そしてそのまま玲に会わずに一人日本を発った。



 ~~~



 みつきが日本を離れてから一年が過ぎた。


 バーのカウンター席に座りグラスを傾けながら渡利がぽつりと言う。


 ‟呼び出してゴメンね。あいからず忙しそうだね”


 ‟渡利さんほどじゃないですよ”


 ‟その後記憶は全部戻った?”


 ‟まあ大体は。初めの頃はフラッシュバックのように思い出す感じだったけど今はもっとゆっくりかな。ああ、そう言えばそうだったなって。で、どんな内容でもすんなり受け入れられるんです。腑に落ちるというか”


 そういって玲はふと、気になっていたことを思い出す。


 ‟ところで渡利さん、ずっと聞きたかったんですけど、どうやってみんな一緒の時に転生できたんですか”


 ‟これが結構単純で皆神様にお願いしたらしいよ。佐伯社長は脅したらしいけどね“


 “脅した?神様を?”


 ‟怖いもの知らずというか。らしいよねぇ“


 ”本当だ“


 玲ははははっと笑った。知り合った頃の佐伯はとても礼儀正しかったのにいつの間にかすっかり不遜なゾリーク王太子に戻っていた。


 ‟基本的に動物は転生するものなんだね。だから正確には転生させてもらったんじゃなくて僕と、みつき、そして玲の魂を同じ時代に同じ場所に転生できるようにしてもらったって言ったほうがいいのかな。ま、三人一緒にパッケージツアーに入れてもらったっていう感じ?”


 ‟へぇー。他にも転生してきた人っているんですかね”


 ‟どうだろうね、正直よくわからないな。それっぽい人はいるけど。ただいつの時代、いつの世界に行っても僕とミシルカの役回りだけがはっきりしていて記憶もある。それは、僕たちが一緒に死んだからだと思うんだけど“


 “この前佐伯社長が言ってましたよね。玲が変わらなければみつきは永遠に転生を繰り返し傷つき続けるって。あの言葉かなり心に響いたんですけど、でも本当はみつきより渡利さんが解放されたい、って思ってたんじゃないですか?だって強引に巻き込まれたようなもんでしょ”


 “そりゃあね”


 渡利がふうと息を吐く。


 “神様が出した条件が、事が成就するまで僕たちは転生を繰り返さなければいけない、ということだったんだ。なのにヘタレの君が毎度毎度ぐずぐずしていて上手くいかなくて…。今の時代に来るまでの苦労はもう筆舌には尽くせないほどだったんだよ…いろんな意味で”


 ‟すみません…”


 “でも、ミシルカの強さには頭が下がるよ。何度うまく行かなくても。どんなに泣いても決してあきらめなかった”


 うんうんと、うなずきながら渡利はグラスを傾ける。


 “でもさ、レイシャーンはミシルカの事を何でも知ってると思っていたかもしれないけど、実はそうでもないと思うな。あの優し気な顔の下には熱くて激しい性格、執着?独占欲?が隠されてたなんて誰も想像できないだろうね。表向きは真実を隠していた神官長が悲嘆にくれるミシルカの姿を見て罪悪感に耐えられず、協力することになってるんだけど、本当はね、ミシルカに脅されたんだよ。協力しなければ殺すってね”


 大きく目を瞬かせて玲は渡利を見つめる。


 “首元に剣を突き付けられたら事なかれ主義の神官長でもさすがにねぇ”


 “まさか”


 “それで、僕は協力せざるを得なかったわけ。承諾しても結局いっしょに死ぬ羽目になっちゃったんだけど”


 渡利の話を聞きながら玲は考える。

 みつきの性格やあの優し気な風貌を思い浮かべるととても渡利さんが言うような性格には思えない。

 玲が想像を巡らそうとしたところで、渡利の声にまた意識を寄せる。


 “いやいや、激しいを通り越して狂気と言い換えたほうがいいかもしれないな。連ドラの最後で服毒死をしたレイシャーンの体をかき抱きながら悲嘆にくれる独白のシーンがあるでしょ。あれ、本当は血まみれの首なんだよ”


 “…?”


 “レイシャーンは斬首だったから”


 “ああ、そうだった”


 “それをそのままドラマで使おうかとも思ったんだけど、ドラマではほら、死んでなかったことにしなきゃいけなかったから服毒にかえたの。ロミオとジュリエットみたいに。オリジナルをそのまま使ったら、なかなか衝撃的なシーンになったと思うよ。サロメみたいにね”


 いや、深夜時間帯ならともかく普通のテレビドラマでそこまでするのは画像としてどうなんでしょう。


 “あーでもこれでやっと解放される。これからは君が全て受け止めていくんだよ。ミシルカの執着と狂気を。大体すべて君の責任なんだからね。君があんなことをしなければミシルカの隠された本質はきっと永遠に表には出てこなかったんだから”


 “でも、脅されたなんて言ったけど、結局冷酷な人間にはなり切れずにルカに協力してくれたんでしょう。感謝してますよ”


 グラスに残っていた液体をグイっと飲み干す。カラン、と氷が音を立てた。立ち上がって上着を背もたれにかけてあった上着をとる。


 “あれ?もう帰るの?えー?なんだよ、顔、にやけてるよ”


 “野暮用があるんで。お先に失礼します”


 ひらひらと手を振る渡利に会釈をして店のドアに足を向けた。


‟よろしく言っといて”


 と言う声が追いかけてきた。


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