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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
94/99

SPドラマ放送終了後

 ‟終わった~”


 玲ははぁーっと大きなため息をついた。ドラマの放送が終わり視聴者の反応が良かったことに安堵した。精一杯演技した。共演者たちも他のスタッフも玲が予想していたよりも快く迎え入れてくれた。奏一郎や小川ミナの顔が見えなかったことに少し胸が痛んだが演技に集中することが出来たと思う。それでもやっぱり評価は気になるものだ。


 スペシャルドラマの反響はすごかった。レイシャーン役はぎりぎりまで発表されなかったが、それが葛城玲でありなぜか楷ともやがダン.グレイド役をやったのだ。初めはそのことに驚きながらドラマを見て、その後もう一度きちんと観なおす、という二度観をした視聴者が多かったらしい。メディアや一部のファンの間では葛城玲がレイシャーンを演じたこと、楷ともやがレイシャーン役を降りてグレイド役をやるという前代未聞の配役の変更に不満や疑問を表したが、それに対してともやはインタビューでこう答えた。


 ‟スペシャルドラマのオファーを頂いたときスケジュール的にレイシャーン役は無理だと渡利監督に相談したんです。僕としてはドラマの作成に参加できないことは残念でした。だからで撮影時間が少ないダン.グレイド役をオファーされたときはすごくうれしかったです”


 ‟葛城玲君がレイシャーン役を演じたことについてどう思うか?わだかまりの様なものは全くないですね。彼とは撮影中に役作りについてよく話し合いましたよ。お互いにアドバイスし合ったり”


 ともやはにこにこと話す。


 ‟それにダンをやってみて、僕には凄く合ってるなーと。役者としてこういう言い方はどうかと思うんですが、とてもやりやすくて演技してる感じじゃなかったんですよ。すごく楽しかった”


 南条みつきは冷たくあしらう。


 ‟ともや君と葛城君のレイシャーンを比べてどう思うかって?違うとしか言いようがないんじゃない?違う役者がやってるんだから。どちらがいいかなんて個人の好みもあるし比べる意味ある?葛城君のレイシャーンにケチをつけたくてこんな質問してくるなら時間の無駄だよ。ドラマ観た?そしたらわかるよ”


 葛城玲はまた時の人となった。自身のスキャンダルがドラマそのままの様だということと自身に降りかかった災難を乗り越えたことなどが人々の関心を得た。おそらく今後の仕事への復帰に問題はないだろう。



 ~~~~



 薄暗い路地を入った所にある建物の入り口からエレベーターで三階に行き、措定された部屋番号のドアを開けるとそこに自分を呼び出した人物が先に来ていた。できればもう会いたくない人物だった。その黒いスーツを着た男を見るなり榊は口を開く。


 ‟一体何の用ですか、急に呼び出すなんて。約束の金ならもう払いましたよね。もう会わない約束ですが”


 男はふらりと榊に一歩近づく。榊よりも優に頭一つ分背が高く体格もいい。何よりもその醸し出す威圧感に圧倒され榊は後ずさる。


 ‟ところがそういうわけにもいかなくなったんでねえ。誰かさんが下手してくれたおかげでこっちにまで警察の手が伸びてきそうなんだ。そんなことになったら今度はこっちの身が危なくなる”


 ‟そ、そんなこと私に言われても…”


 ‟あんたに渡した薬が警察の手に渡ってそこから足が付きそうなんだよ!”


 男はガン!と近くにあったデスクをけとばす。

 榊は、ひっ!と首をすくめ


 ‟じゃ、じゃあどうしたら”


 ‟あんたがこれを別のところから手に入れたって警察に証言してくれればいい。指示通りに答えればうちの組のルートはそこから外れているからうまく収まる”


 ‟わ、私が?だめだ、私が警察に捕まってしまう”


 ‟今更何言っているの”


 と、別の声がする。その声に榊はぎょっとする。


 ‟み、みつき。なんでここに?”


 ‟あなたが玲を陥れるためにいろいろ仕組んだ事なんでとっくにわかってた。けど上手く事を収めるためにはいろいろ準備が必要だったから今まで知らんぷりしてただけ。こちらの組の方との繋がりがわかったから協力を頼んだの”


 榊を見るみつきの目はこれ以上ないほど冷たかった。


 ‟何でこんな事をしたかなんて聞かない。どうでもいいこと。問題は玲がひどい目にあったって事とそれを仕組んだのがあなただって事”


 ‟みつき…私はみつきのためを思って。葛城玲はだめだ。お前の傍に居てはいけない人間なんだ。あいつと会ってからお前は変わってしまった”


 みつきの顔がピクリとひきつる。


 ‟私がずっとお前を育てて来ただろう。みつきはずっといい子だった。モデルとして世界にも出ていけるようになった。それなのに…あいつがいるとお前の足を引っ張る。お前はあいつとは違うんだ、みつき、わかるだろう?”


 榊は縋るような目でみつきに訴えかける。それをスーツの男はニヤニヤと眺めている。

 みつきは、一瞬片手で顔を押さえた後、榊を睨みつける。


 ‟虫唾が走る。あなたの言い訳など聞きたくないと言ったでしょう。あなたは昔から私のためと言いながらやってることはいつも自分のためだ”


 ‟みつき…私はお前のために…”


 ‟だまれ!”


 とうとうみつきが切れた。怒鳴り散らしたいのを必死で抑え深呼吸する。


 ‟一つだけ、私とあなたには共通点がある。自分の目的のためなら手段を択ばないというところ。私はあなたのことを犯罪者だとか、悪人だとか非難つもりなない。ただ敵とみなすだけ。玲を傷つけるもの、私と玲を引き離そうとするもの、すべて敵だ。そしてそれを排除するためならば私は手段を択ばない”


 激高されるより、冷ややかな笑みさえ浮かべたその美しい顔をみて榊は床に膝をついた。


 ‟この人の言うとおりにして。どのみちあなたに逃げ場はない。近藤さんの組を巻き添えにすれば、たとえ逃げたって獄中にいたってあなたに与えられるのは凄惨な報復だけ”


 ちらっと、近藤と呼ばれた男の方を見ると彼も頷く。

 榊に選択はなかった。近藤の合図で部屋に入ってきた男に腕を引っ張られ連れ去られる時もみつきの方を懇願するように何度も振り返っていたがみつきはもう一瞥もしなかった。


 ‟いやいや、あんた、顔に似合わず怖いね”


 と、近藤は煙草に火をつけながらつぶやく。


 ‟協力してくれてありがとう”


 みつきはにっこりと笑う。


 ‟あんな素人にあそこまで脅しをかけなくてもよかった気がするが”


 ちらりとみつき見やる。


 ‟ま、あんなのが捕まったってこっちは痛くもかゆくもないんだけどな”


 ‟私は情報収集が得意なんですよ。もしお望みならば本気であの男を殺したくなるような情報を差し上げてもいいですけど。私にとってはそれでもかまわないんですが”


 ‟いやお互いのためにそれはやめとこうぜ。あんただってせっかく大事な人を助けたんだ。自分の身は大切にした方がいいよ”


 と言って手をひらひらさせながら部屋から出て行った。


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