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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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SPドラマ黄昏時に落ちる星~甦星7 ラストリル宰相の独白

 

 ロンズディン王からの緊急の招集がかかった。


 体調を崩し、レイシャーンが処刑されてからは腑抜けになった陛下は最近は自分から動くことはほとんどなかった。予想外の事に嫌な予感が胸をよぎる。最近王宮内は落ち着かない。もちろん、一連の事件とレイシャーンの断罪、処刑で王宮内だけでなく国民の不安は高まっているのはわかる。将軍をはじめとする軍の上層部の謹慎、処罰なども大きな要因になっているがその辺は想定内だ。それ以外に何か自分の身辺が見張られているような居心地の悪さを感じるのだ。そこへこの緊急招集だ。


 ‟もしかしたら私は危うい位置にいるのか…?”


 まあ、まもなくギルアドニアが侵攻して来る。第一波はすぐにでも。あの腹の内が読めないギルアドニア国王の約束など当てにならないことは先刻承知だ。下手をすればどさくさに紛れて殺されるかもしれない。

 達観している自分に気づきふ、と考える。


 ‟私はいったい何をしたかったのだろう?”


 ルードウィック王太子亡き後レイシャーンの王位継承を阻むべく噂を流したり王に毒を盛ったり。自分では直接手を下していないが唆した相手は面白いように自分の思惑通りに動いてくれた。馬番しかり、侍女しかり、あのアナという小娘しかり。あの娘は面白かった。レイシャーンに懸想しているくせにそれと知らずレイシャーンを陥れる計画に加担していたのだから。真実を知った時は蒼白になっていたな。そしてもう一人。最大の手駒エレノア王妃。


 そしてラストリルの思考は二十年以上も前に飛んだ。


 初めて貴女(エレノリア様)を見たのは輿入れのためにモレスロントから到着した日だった。まだ少女のあどけなさを残す王女であったがその美しさに息を飲んだ。輝くような黄金色の髪、吸い寄せられるような碧い瞳。政略結婚であれこのような女性を娶ることが出来るとは陛下は何と幸運なんだろうと身の程知らずにもうらやましく思った。顔も知らぬ他国の年上の国王の元に嫁いできた彼女は不安に瞳を揺るがせながらも精一杯気丈にふるまった。滞りなく婚姻の儀が済み一年と少しして彼女は美しい王太子ルードウィックを産み落とした。彼女の髪と王の面差しを受け継いだ王子だ。有力な隣国の後ろ盾、たぐいまれないる美貌と貴品、王太子の出産。貴女は王妃として非の打ちどころがなかった。王とも仲睦まじく私は貴女(エレノリア様)に憧憬の念を持ちながらもよこしまな思いは無く純粋に幸せを喜んでいた。あの女が現れるまでは。


 アイラン.ムンバートリ。女だてらに副将軍を拝命した粗暴な女騎士。美しいと褒めそやす者達もいたが私にしてみれば東国の血を引く野蛮な女にしか見えなかった。そして事もあろうに陛下はその女にうつつを抜かしたのだ。しかも陛下の情けを受け入れてもおきながら不遜にも後宮に入る気はないとぬかし軍に居続けた。目ざわりではあったが所詮愛妾ごときに何ができるわけでもないしそのうち陛下の気まぐれも落ち着くだろうと油断していた。しかし三歳になった頃ルードウィック王太子が体調を崩され医師たちの見立てでは彼は心の臓の病で長くは生きられない、生きられたとしても普通の日常生活を送ることは難しいとわかった。貴女(エレノリア様)の嘆きは傍で見ていても痛々しい程であった。そして追い打ちをかけたのが彼の女(アイラン)の懐妊。表向きは病気という事だったか簡単に調べはついた。それを王妃に伝えたところ半狂乱になった。


 苦しむのが分かっていてなぜ王妃に伝えたか?それは知るべき事実だったからだ。

 だが私の心の中にはほの暗い思いが初めて生まれた。貴女(エレノリア様)は女だけではなく王のことも憎むのではないか。秘密を共有することでは私を頼ってくれるのではないか、と。私の思惑は当たり、女の懐妊を知らせた日、貴女は初めて私に縋って泣き崩れた。細くたおやかな肢体を初めて抱きしめることが出来た。甘い花のような香しい髪に頬を摺り寄せることが出来たのだ。たった一度。それだけで十分だった。


 ‟エレノリア様、私は貴女の味方です。私だけはずっと“


 口では苦し気に言葉を紡いでも笑みがこぼれるのは止められなかった。

 一応王妃に気を使ったのか身の危険を感じたのか間もなく女は姿を消した。なかなか女の行方は知れず見つけた時には既に出産後で赤ん坊の生死も定かではなかった。そのことが気がかりではあったがその時は女を始末することで危険分子を排除したと思ってた。それが間違いだと気づいたのは十三年後にアイランに生き写しのレイシャーンが王宮に召された時だった。王はこともあろうに彼を抱きしめ“ただ傍に居てくれ”と泣いたのだ。貴女(エレノリア様)の目の前で。


 レイシャーンが王宮に来たからと言ってすぐ排除するようなわけにはいかなかった。疑いは王妃に向いてしまうだろうから。また王妃の様子を見れば表向き彼女はレイシャーンを受け入れているように見えたからだ。レイシャーンはムンバートリ家で育てられていた(灯台下暗し)ため王宮の作法など全くできておらず侍従たちに随分ときつく当たられていたのでその様子を見て私は溜飲を下げていた。また良くも悪くも彼の興味は武芸にあり軍の中に王太子やミシルカ様の脅威にはならないだろうと思っていた。


 しかし彼が成長すると共に私はまたしても油断していたことに気が付いた。カリスマ、というのとは少し違うが人たらしとでも言えばいいのかレイシャーンはとにかく人を引き付ける。軍の中では無論の事街に出れば民に慕われ、王宮内では彼を見下していた貴族たちでさえ魅了されていった。そして彼の傍にはミシルカ様がいつも寄り添っていた。これは由々しきことだった。


 私が事を起こそうと決断したのはルードウィック王太子の病態が悪化し始めたころだ。彼は精神的にも不安定になってきており王妃も心を痛めていた。そして王太子の心を苛んでいた最大の原因がレイシャーンだというではないか。これは私にとって僥倖だ。これを使わない手はない。アナを使い王太子にレイシャーンの活躍を報告させ劣等感を煽る。王太子には自虐的な面があったのか自らレイシャーンの話を聞きたがったのは意外だったが。彼はレイシャーンへの怨詛(えんそ)を吐きながら死んでいき、それを受け継いだ王妃はレイシャーン排除のために積極的に動いてくれた。


 計画通りに事は運びレイシャーンは処刑された。疑問なのはレイシャーンがあっさりと冤罪を受け入れたことだ。まあ、あのお人よしはミシルカのためと言えばそうするとは思っていたが私の脅しも必要なかったほどに抵抗がなかった。こちらが拍子抜けするくらいに。


 さて先ほどの質問に戻ろう。


 ”私は何をしたかったのか“


 レイシャーンは排除した。陛下のミシルカも腑抜けてしまった。ギルアドニアがロンズディンを攻め落とせば私はギルアドニアの属国とはいえロンズディンを統治権を約束されている。同時に王妃も手に入れられる。


 だが、現実味がない。そんなことが本当に出来るのだろうか?



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