SPドラマ黄昏時に落ちる星~甦星4 レイシャーンの決断
少し時間が戻る。
レイシャーンが部屋から出て行った直後、ミシルカは目を開けて重くてだるい体を起こした。何か胸騒ぎがする。まだすっきりしない頭を振ってここに至るまでの事を思い出そうと試みる。
そうだ、橋を渡ろうとしたとき後ろから刺客に襲われたんだ。一体誰が何のために。いずれにしてもあれはレイシャーンを狙ったものに違いない。あの偵察はレイシャーンが行く予定だったのだから。そしてなぜか突然レイシャーンが助けに来た。最近立て続けに起こった不審な出来事。父王の暗殺未遂。何がどうつながっているのかわからないが、何より気になるのは先ほど部屋を出ていく時のレイシャーンのこわばった表情。
重い体を無理やり起こして部屋の中を見回す。レイシャーンが人払いをしていたのか、ミシルカが動いても誰も来なかった。よろよろと部屋を出ると、待機していた侍従と護衛が驚いて
‟ミシルカ様、まだ動かれてはなりません。お体が”
‟大丈夫だ。レイシャーンはどこへ行った?”
‟王妃様へところに向かわれたかと”
‟連れていけ”
侍従に支えられ歩き始める。ミシルカは王妃の部屋の前に来ると声もかけずに扉を開けた。
ミシルカの後ろから護衛たちも入ってきたがレイシャーンと王妃を見て驚愕する。彼らが部屋に入った瞬間レイシャーンの刀の切っ先が床に座り込む王妃の首に当てられたのだ。
“よるな!さもないと王妃の命はない”
”リーシャ…”
とレイシャーンに近づいていくミシルカ。目の前の光景が信じられないのではなく信じていないので躊躇なく向かってくる。
‟くっ!”
そのまっすぐなまなざしに耐えられず、自らの迷いを断ち切るようにレイシャーンは大きくは剣を振り切った。
“きゃあ!”
侍女の悲鳴。剣の切っ先から一筋の血がはじけ飛ぶ。
剣を当てられていた王妃の首筋には傷一つなく代わりにカチンと音がして小さな硬質のものが床に落ちる音がした。首筋を押さえて蒼白になっているミシルカの指の間から血がにじみ出てくる。足元に落ちたのは小さな青い石の首飾り。レイシャーンから贈られ、肌身離さずつけていたものだ。
その場にいる全員が息をのむが一番驚いたのはレイシャーン自身だった。
ミシルカを傷つけたことに驚愕したレイシャーンはヒュっと息をのみ剣を取り落とした。そこでようやく我に返った護衛たちがレイシャーンを取り押さえる。
ガチリと音がして呆然としつつもその方にミシルカが目をやると誰かが石を踏みつけて石は砕けていた。騒然としていて踏みつけた本人も気が付かないのだろう。一瞬手を伸ばしかけたが”ミシルカ様、こちらへ!“と肩を引き寄せられその場から引き離される。欠片はさらにいくつもの足に踏みつけられミシルカは拾うこともできず立ち尽くしていた。首元に熱を感じたが痛みよりも目の前で起こっていることがまるで現実に思えなかった。
王妃も助け起こされ護衛に囲まれている。そこにラストリル宰相が数名の大臣やジャルドー伯爵と共に衛兵を率いて現れた。
‟レイシャーン様、やはりあなた様でしたか”
苦し気な表情を浮かべて宰相はレイシャーンに目を向ける。
‟あなた様はそれほど王位が欲しかったのか”
何も答えずにレイシャーンは宰相を見つめ返す。宰相は何を知っている?
“レイシャーン様、あなたは今日なぜミシルカ様が襲われた現場におられたのですか?まるで刺客が現れるのを知っていらしたかのように。そうでなければカーメイへ向かっていたあなた様がこうも早く現場に駆け付けるわけがない”
それは、王妃から伝令を受け取ったから。しかしそれをこの場で言うわけにはいかない。王妃の関与がばれてしまう。
“ここ最近の一連の事件であなた様は疑われていました。だが今日見事ミシルカ様をお助けしたことで汚名挽回をされましたね?ご自分で刺客を放って、ご自分で救出。自作自演とはまさにこのことですな”
“ラストリル宰相、何を言っている?”
ミシルカが眉を顰める。
‟万が一間に合わず、ミシルカ様が殺されても、そのときは残されたあなたが次期国王。やはり世間に広まっていた噂は本当だったのですね。おそらく事故で死んだことにされている侍女もあなた様が手をまわしたに違いない”
“ラストリル宰相。さすがにそこまで結論づけるのは。まだ証拠があるわけでもないのに”
とジャルドー伯爵が口を挟もうとする。
ここにいたってレイシャーンはようやくわかった。
傷心の王妃を唆し王に毒を盛り、刺客を送ったのはすべて宰相が企てたことなのだろう。おそらく宰相もミシルカがレイシャーンの代わりに視察に出たことは知らず、先に知った王妃が慌ててレイシャーンに早馬を送ったということか。幸いレイシャーンは間に合いミシルカは救出された。伝令のことを知るものはその二人とレイシャーンのみ。宰相は自分の手を汚すようなことはしていないのであろう。巧みに王妃を誘導し、万が一ことが発覚した時は自分は言い逃れできるようにしているのではないだろうか。証拠も出てこないだろう。
レイシャーンはそこまで考えて、冷静になった。
それなら一々レイシャーン自身が嘘の話を作りたてる必要はない。私がやったと一言いえば既におぜん立ては整っているわけだ。
そこまで思考をめぐらせると、不意に笑いが込み上げてきた。
“ふふ、、、ふ、はははは!”
急に笑い出したレイシャーンを見て周りの者たちはぎょっとした。
“すべてお見通しか、宰相殿。さすがに切れ者との評判は伊達ではないな”
不敵に笑いながら宰相を見据える。宰相は一瞬レイシャーンの意図を探るように目を細めた。
“手が届きそうで届かない王位に少し焦れてしまってな。あまりいろいろ考えすぎるものではないな。どこかでボロを出してしまったらしい。疑いの目がこの身に向かってしまったので挽回策を考えたのだが”
ミシルカが目を見開く。
レイシャーンが何を言い出すかと警戒していた宰相だったがレイシャーンの言葉に緊張を解く。
”陛下に目をかけられていたことをいいことに身の程知らずの夢を見たか。愚かな。そのものを地下牢に連れて行け。私はこのことを陛下に申し上げその後沙汰を下す“
レイシャーンは後ろ手に拘束されて引き立てられる。
“待って!リー!リー!”
首筋から血が流れるのも構わずレイシャーンに駆け寄ろうとするミシルカは護衛と侍女に抑えられる。ジャルドー伯爵もその傍に歩み寄り、無言でレイシャーンを見送る。
王妃はただ泣き続けていた。




