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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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SPドラマ黄昏時に落ちる星~甦星3 扉の向こうの真実

 


 数日後レイシャーンの体力が回復するのを待ち、ドートリアニシュ神官長は信頼できるものたちを使ってレイシャーンを王宮の外に連れ出し、城下の孤児院の空き部屋に移した。


 そこにはドートリアニシュ神官長、ミシルカ、グレイドがひそかに集まっていた。

 粗末な部屋の小さな寝台でレイシャーンは上体を起こし、寝台の傍の椅子にミシルカが座る。少し離れた椅子には神官長が腰を掛け、グレイドはその傍に立つ。

 レイシャーンの表情はさえなかった。だが、神官長に促されて事のあらましを語り始めた。


 “私はあの日、叔母上とともにカーメイ国境の土砂崩れの救助に向かっていたが、途中で急ぎの伝令が追いかけてきた。それには義母上(王妃)の印のある書簡で、治水工事の視察に向かっているミシルカのもとに刺客が向けられた、というものだった。なぜミシルカが視察に行っているのか、なぜ義母上が刺客の情報を知っているのか、その時は考える余裕はなかった。だがミシルカを救い無事を確認し冷静になると様々な疑惑が浮かんできた”



 刺客の手からミシルカを救出し王城へ戻ったレイシャーンはミシルカの意識が戻ったことをを確認するとその足で王妃の部屋へ向かった。浮かび上がってきた疑問の答えを聞きただすために。嫌な予感が外れていることを願いながらも緊張で吐き気がしそうだった。


 “義母上(ははうえ)、入ってもよろしいですか”


 と声をかける。


 “入りなさい”


 という返事を待ち扉を開ける。

 王妃は椅子に座っていた。ミシルカによく似た美しい王妃はいつものように穏やかな微笑みを浮かべレイシャーンを見上げる。


 “レイシャーン、無事ででしたか。ミシルカは?”


 “幸い大きなケガもなく、川に落ちた後気を失っておりましたが今しがた目を覚ましました”


 “それはよかった。其方のおかげです。よくミシルカを助けてくれました。私も顔を見に行かなくては”


 その言葉に軽くうなずきレイシャーンは一瞬の間の後に王妃に問う。


 “放たれた刺客についてなのですが、義母上、お聞きしたい。なぜ義母上は刺客の事を存じておられたのですか?”


 とたんに王妃の表情がこわばる。


 “今回の視察には元々私が行く予定でした。刺客は私を狙っていたのでしょう。カーメイ国境近くの土砂崩れは予定外の事で視察にはレスター副団長に代わりに行くように頼んであったのです。土壇場でレスターではなくミシカが視察に赴いたことを知る者はほとんどいなかった。時間的に義母上が早馬で伝令をよこしたのはミシルカが出発してそれほど時間は立っていなかったのはず。一体どこからの情報だったのです?”


 王妃は真っ青になりハンカチを握りしめた両手は震えている。


 “それとも刺客を放ったのは、もしや…”


 レイシャーンは言いよどむが、一呼吸おいて続ける。


 “不可解なことが続いていました。急に広まった不穏な噂。当人である私もルカも身に覚えのないことばかり。そして突然やめていった馬番。その後の陛下の暗殺未遂。宿下がりした侍女の事故死。あの者は本当に実家に帰る途中に事故で死んだのですか?”


 ”何の話を…”


 “陛下に毒を盛ったのはルカの侍女なのですか?そして口封じに殺された。違いますか。誰の差し金です。義母上はご存じなのではないですか?”


 王妃はこらえきれなくなったようにレイシャーンの腕を掴む。


 “陛下の殺めるつもりなどなかった。少し具合が悪くなる程度だと言われて”


 ”誰に言われたのです?なぜそのようなことを“


 レイシャーンの問いには答えず王妃は続ける。


 “あの者はモレスロントから連れてきた侍女。ミシルカを王にするためには其方にはどうしても退いてもらわねばならなかった。それを打ち明けたら自ら役目を申し出てくれた”


 ”陛下に毒を盛る役目をですか?”


 “陛下は其方に王位を譲る気でいたから…しかし、王位とは正当な血筋で継がれていくべきもの。ルードウィック亡き後ミシルカが次の王となるべき”


 “そのようなこと初めからわかっております。次の王座はルカのもの。陛下のご意思もそこにあるのはあなたもご存じでしょう”


 “それをあの子が望まなかったから!”


 “え?”


 “ミシルカは其方のほうが王にふさわしいと陛下に進言したのです”


 “それで陛下に毒を?ルカがそう言ったからといって陛下が簡単に言うことを聞くわけなどあるはずがない。だいたいそんな事をしてどうなるというのです?もし陛下に毒を盛った事が発覚すれば、ルカが知らなかった言ってもただでは済まなくなる。王座どころかよくて幽閉。最悪の場合…”


 “だから、陛下を害する気はなかったのです。ただ毒を盛った事実があれば”


 王妃は頭を抱えた。


 “しかし陛下は毒で倒れてしまった。今更殺す気はなかったといったところで何の言い訳にもならない。そしてその疑惑はなぜか私の方に向いていた”


 “レイシャーン”


 “もしやそれが本当の狙いだったのですか?”


 王妃の両目から涙があふれる。


 “義母上は私がそれほどまでに…”


 レイシャーンの顔が苦痛にゆがむ。

 王妃が涙を流しながら椅子から降りてレイシャーンの足元に跪ずく。


 “レイシャーン、許しておくれ。私はお前が初めて王の子として王城に来た時、お前を憎いとは思わなかった。お前は素直ないい子で、無欲で。でも健やかに育つお前を見ていて、なぜ私のルードウィックは満足に床から出られないような子供なのだろうと思った。王太子でありながら満足に学ぶこともできず馬にも乗れず。それでもお前たちは仲が良かったから”


 亡くなった兄の名前が出て、レイシャーンは困惑する。


 “私は知らなかったのです。あの子があんなに苦しんでいたことを。もう満足に起き上がることもできなくなってからあの子は私にこう言った”


『母上、私は苦しいのです。私はレイシャーンが好きだ。でもあの子に会うのが苦しいのです。毎日見舞ってくれる度に、あの明るい笑顔や健やかな体を見る度に妬ましくてどうしようもなくなる。今まで、神を恨んだことはなかったのに、今は憎い。なぜ私なのだ。なぜ私がこんなに苦しまなくてはいけないだ、と。王太子でありながら、正妃の子でありながら何もかもが愛妾の子であるレイシャーンより劣っている。この弱い体は受け入れた。でもレイシャーンをうらやむこのドロドロとした感情には耐えられない。彼さえ、レイシャーンさえいなければ私はこんなにも醜い自分を嫌ったままで死んでいかなくて済んだのに』


 この王妃の告白はレイシャーンの心を砕いた。喉に石が詰まったような感覚になり、言葉が出てこない。


 ‟お前に非がなくとも、こう思わずにはいられない。お前さえ、お前さえいければルードウィックはあそこまで苦しんで死んでいかなくて済んだものを。あの子が死んだ後、お前が何もかも手に入れるかもしれないと思うといてもたってもいられなかった。せめてあの子の苦しみのほんの少しでもお前に味わってほしかった。どうしても其方に王位を継がせつ訳にはいかないと”


 “義母上…”


 王妃はレイシャーンの足に縋りつくと顔を上げた。


 “だから…”


 レイシャーンも王妃の目を見据える。


 ”どうか、どうか全てを飲んでもらえないか。レイシャーン…”


 レイシャーンは頭を強く殴られたような衝撃を受けた。その言葉の意味は。


 “義母上、あなたは私が邪魔だから陥れようとし、それが発覚しそうになったから罪を被って罪人として死ねと言っている。あなたは…あなたは私を何だと思っているのだ!”


 悲痛なレイシャーンの叫び。胸に刃物を突き立てられたようだ。


 “あなたは、ずっと私をかわいがってくださった。まるで本当の子のように。なのに本心ではそれほど憎かったのですね。愛妾の子である私が”


 “そうではないと、今は言えない。陛下が其方を誰よりもをかわいがりミシルカがそなたを誰よりも慕い、不安になった。このままでは其方が次の王になってしまうと”


 王妃は床にひれ伏す。


 “それだけは許せなかった。わかっています。私が愚かだった。その愚かさに付け込まれてあの男に…其方には私が鬼に見えるでしょう。しかしこうなってしまってはもう後戻りはできない。このままではミシルカが…”


 ミシルカが…


 その言葉の先を予想し、レイシャーンは目を閉じて大きく息を吐く。

 そこに突然扉が開き侍女と護衛たちを連れたミシルカが入ってきた。その一瞬にも満たない間にレイシャーンは覚悟を決めた。


 “母上!リーシャ…?”


 レイシャーンはさっと剣を抜くと王妃の首元にあてた。


 “よるな!さもないと王妃の命はない!”



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