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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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SPドラマ黄昏時に落ちる星~甦星1 処刑の後

物語も終盤です。スペシャルドラマのタイトルの”甦星”の読み方なのですが、そのままだと”そせい”なんですよね。なんだか響きがピンとこなかったので”さいせい”と読ませたいと思います。

 

 窓から夕陽が入ってくる。ドートリアニシュ神官長は自室で一人葡萄酒を傾けていた。表情は穏やかだがその胸の内にはいろんな思いが渦巻いていた。

 これから自分がやろうとしていること。迷いはないが覚悟はいる。今までのらりくらりと面倒ごとを避けて生きてきたが今度は自分の進退をかけての計画だ。やらねば、やり抜かねばならいだろう。真っすぐな心を持ったまま失われかけている希望を救うために。それをしなければこの国に未来はないのだから。


 ‟さて、そろそろ行きますか”


 立ち上がった神官長の手には小さな小瓶が握られていた。



 薄暗い部屋に寝台が一つ置かれて一人の若者が横たわっている。青白い顔、閉じられた両目、冷たい頬。そのどれもに生命の徴は何も見られない。


 その傍に跪く人物が一人。力のない手を持ち上げて自分の頬に当て、話しかけている。


 ‟リーシャ、お前がそんなに王座を欲しがっていたとは知らなかった。どうして言ってくれなかった。王座などくれてやったのに。お前の思いに気が付かなかった。許してくれ”


 涙がとめどもなく流れ握りしめた手を濡らす。


 そこにがラストリル宰相が入ってくる。


 ‟ミシルカ様”


 ‟来るな!”


 振り返りもせずミシルカが低いが鋭い声を出す。ミシルカに歩み寄ろうとしてその場で留まる。


 ‟もう、それ以上リーシャに近づくな”


 ‟ミシルカ様、もう一昼夜ここにおられると聞きました。両陛下も神官長も心配されております”


 ‟ほうっておいてくれ”


 ミシルカは首を振る。


 ‟そういうわけにはまいりません。あなた様が体を壊してしまいます”


 ‟私がそのようなことを気にするとでも?リーシャはもういないのに”


 ‟…ミシルカ様、レイシャーン様をそろそろ解放して差し上げねば”


 ‟解放?”


 そこで初めてミシルカは宰相を振り返る。髪は乱れ顔色が悪く、一体何の話をしているんだ、というように睨みつける双眸だけが暗く強い光を放っている。まるで幽鬼のようだ。


 ‟レイシャーン様の立場は複雑でした。表面上は明るく過ごしておられましたが、お母上の事もあり心に闇を持ってしまったのは致し方ないこと。王座に執着したのもそういったことが原因であったのかもしれなせぬ。ただ私はレイシャーン様が国を良くしようと思っていたのは本当だと思います。やり方は間違っていても、その思いは真実であったと。ですからミシルカ様、あなた様がその意思を継がなければなりません”


 ‟意思を継ぐ…”


 オウム返しのようにつぶやき、もう一度レイシャーンの顔を見つめる。幼いころから二人で過ごしてきた時間や、将来は民の生活をよくするために共にがんばろうと話し合ったことなどが走馬灯のように思い出される。


 ‟いまレイシャーン様は全てのしがらみから解放されたのです。あなた様が見送って差し上げなければ”


 また、涙が流れてきた。


 ‟そうなのか、レイシャーン。お前はそれを望むのか…?”


 目を閉じたレイシャーンは何も答えない。ただその顔は存外穏やかだ。その顔をしばらく眺めていたが、そうやく心を決めたように、


 ‟わかった”


 とレシャーンの額に口づけをし


 ‟また、明日会いに来る”


 と言って、立ちあがり部屋を出て行った。


 王宮に戻る後姿を見送るラストリル宰相に後ろからドートリアニシュ神官長が近づいてくる。


 ‟ありがとうございます。宰相”


 ‟なに、あなたに頼まれなくとも、思いは同じでしたよ。ミシルカ様には立ち直っていただき未来の王として立っていただかなくては”


 ‟もう大丈夫でしょう、ミシルカ様なら”


 立ち去るラストリル宰相に深々と礼をした神官長はレイシャーンが納められている部屋に入り扉を閉める。


 ‟やれやれ、やっとミシルカ様を追い出すことができた。これ以上ここに居座られては計画が台無しだ”


 そうつぶやくと袂から小さな小瓶を取り出した。



 翌朝、半狂乱になったミシルカが神官長のもとに来た。


 ‟どこだ!”


 ‟おはようございます、ミシルカ様。朝から騒がしいですな”


 すました顔でドートリアニシュ神官長はミシルカにあいさつした。


 ‟とぼけるな、いったいレシャーンをどこへやった!”


 朝一番に霊安室を訪れたミシルカの目に映ったのは空っぽの寝台だった。

 今にもつかみかかろうとするミシルカを避けて神官長はため息をつく。


 ‟いい加減になされませ、ミシルカ様。どこへと言われましても、亡くなられた方はそれ相応の処置をして弔わねばなりませぬ。あのままにしておけるわけがないでしょう”


 ‟な…”


 ミシルカは言葉もなく立ちすくむ。


 “レイシャーン様は王族として埋葬するわけにはまいりませぬ。私がしかるべきところへ葬らせていただきました”


 今度こそミシルカの顔は絶望した。眠るように横たわるレイシャーンを見ているうちはまだ心のどこかでその死を信じていなかった。だが、それすら失った今、レイシャーンは永遠に手の届かないところへ行ってしまったのだ。


 ‟ミシルカ様!”


 全てを拒絶するようにミシルカは意識を手放した。



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