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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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遠い過去の記憶

 

 玲はごくりとつばを飲み込むが何も答えない。渡利は玲の顔を見ながら続ける。


 ‟レイシャーンはおそらく事実に気づいていた。宰相の企ても、王妃の関与も。でも証拠もないし何よりもう状況は収まりつかないくらいひどくなっていた。実際陛下に毒まで盛られたんだからミシルカが何も知らなかったとしてもただでは済まない。このままではミシルカはおろか国そのものがスキャンダルで揺れ動く。その隙をギルアドニアが見逃すわけがなく、そんな事態になれば取り返しがつかなくなる。できるだけ早く被害を少なく事態を収め、さらにミシルカを救うためにはすべての咎を自分で被るしかない、レイシャーンはそう思ったんだよ”


 ‟…ふうん”


 ‟これが僕らの推測なんだけど本当のところはレイシャーンしかわからない。君はどう思う?”


 ‟…さあ。俺はレイシャーンじゃないから。渡利さんがそう考えるならそうなんでしょう”


 佐伯がくくくっと笑う。


 ‟何を笑ってるんですか“


 玲が初めて不快気に佐伯を見る。


 ‟だってお前、まだ気が付いてないのか?”


 ‟え?”


 ‟そうとう動揺してるんですね、玲君。君はいくつかうっかり発言をしたよ“


 渡利の言葉に動揺を見せる。


 ‟…“


 ‟ドラマしか知らないお前がどうしてレイシャーンの処刑方法が斬首だったって知ってる?”


 佐伯が言うと玲は顔をこわばらわせた。


 ‟隊長はダンにカーメイに援軍を要請する密書を預けたんですよ。それを知っているのは当事者であるレイシャーンとダン、そして受け取ったゾリーク王太子のみ。そしてドラマでレイシャーンはそんな密書は送ってないんですよ“


 ともやが眉を下げて言う。

 玲は唇を噛むがそれでも答えない。


 “さて玲君、君の疑問に答えよう。なぜ僕らはここにいいるか。なぜ君をここに連れて来たか。なぜ君に見張りをつけてこれ以上の危害が加えられないようにしたか。なぜ僕がこんな話をしているのか。それは全て君を守るため、そしてやり直してもらうためだ。僕たちはもう二度と君をみすみす死なせはしない、そう誓った。三百年以上も前の誓いを果たすためにここにいるんだ”


 ‟…あなたは“


 玲が渡利を見上げて震える唇から小さく声を漏らした。


 ‟あなたは、誰なんですか”


 渡利は一瞬目を閉じた後、玲の足元に跪いて頭を下げた。彼の纏う雰囲気が変わる。


 ‟私は…この場にいる中で最も罪深いものです。神に仕える身でありながら、それを理由に政に関わらず、真実に薄々感づいていながら見て見ぬふりをした。私は無実のあなたを見殺しにしたのです“


 ‟ドートリアニシュ神官長“


 ‟その結果ギルアドニアに付け入る隙を与えてしまいました”


 その隣にともやが来て片膝をついた。


 ‟隊長、あなたの密命を受けながら処刑を止めることが出来なかった。だからゾリーク王太子も援軍を送ってくださらなかったのだと思うと…でも、でもせめてあなたの最後に立ち会うことが出来ていればこんなにも悔いは残らなかったのかもしれません。いや、あの時視察に私が出向くべきだった。仮に刺客に殺されたとしてもその方がよかった。あなたが亡くなってから私は後悔ばかりだった“


 ともやの両目からは涙が溢れている。


 “ダン…”


 玲はその肩にそっと手を伸ばす。


 ‟俺は助命など乞うてはいなかった。最初から間に合うはずなどなかったのだから。だが、それがお前をこんなにも苦しめたのだとしたら、それは俺の罪だな”


 その口調は葛城玲のものではなく、ともやははっと顔を上げる。端正は顔は涙でぐしゃぐしゃになる。


 ‟ゾリーク王太子が援軍を送っても恐らくはギルアドニアの侵攻には間に合わなかっただろう。だが、きっと王太子は焼きだされたロンズディンの難民を多く保護してくれたであろう”


 玲はそう言って佐伯を見た。


 ‟そうではありませんか、王太子殿下“


 ともやはこらえきれずにむせび泣いた。玲の右隣に座っていた佐伯は玲の頭をクシャッとなでた。佐伯はニヤリと笑う。


 “当たり前だろうが。俺はそこらの小国の考えなしの王子たちとは違う。無駄に自国の兵を戦に行かせはしない。守れなかったお前の国の民は俺が生涯をかけて出来る限り救済してきた。例えロンズディンという国が亡くなった後でもな”


 ”ありがとう、ありがとうございます“


 玲は頭を下げた。その後ゆっくり渡利を見る。


 ”渡利さん、と呼んでもいいですよね。あの、さっき言ってましたよね。ミシルカが両陛下を道連れにしたって“


 口調は葛城玲のものに戻っている。玲の言葉を聞いてミシルカの体がこわばった。


 ‟それは…”


 本当なんですかか、という言葉を玲が続けられずにいるとようやくみつきが口を開いた。


 ‟お前が捕縛されてから処刑されるまでたったの二日だ。まるで悪夢を見ているようだった。ろくに調べもせず、いたぶるだけいたぶり私の目の前でお前の首を切った。刑の執行を早急に推し進めたのが宰相だ。執行の合図をしたのは父王だ。そしてお前を陥れたのは母だ。処刑されるお前を見てあざけり石を投げたのはロンズディンの民だ。一体何を信じろと、何を救えと言うのだ?私の中の愛も情も粉々に砕けてしまったんだ、あの青い石のように“


 玲は驚きの目でみつきを見る。


 ‟だから全てを憎み殺した。私はお前との約束を守れなかった。軽蔑するか?”


 怯えを含んだみつきの目を見返し玲はゆっくりと頭を横に振った。


 ‟全ては私の罪だ。済まない、ルカ“




 しばらくの沈黙の後


 ‟いつから記憶が戻っていたんだい?”


 渡利が聞くと、玲は首をかしげる。


 ‟はっきり何時(いつ’)とは覚えてません…ドラマのオーディションに来た頃からたまにフラッシュバックのように映像が頭を過ることがあったんですが。それを記憶だと認識したのは橋の上での撮影の辺り、ですかね“


 ‟てことは僕の計画は上手く働いていたんだね“


 渡利は得意げに親指を立てた。



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