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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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渡利の思惑

 


 玲は強制的にホテルの一室に連れてこられた。佐伯グループが経営するホテルの一室でここは渡利、みつき、ともやそして佐伯の秘密基地と化していた。別にスィートである必要はないのだが、渡利が部屋のバーを気に入ってるというだけで無駄に広い部屋を借り切っている形になっている。


 ‟渡利さん、いったい何なんですか?俺なんかと一緒にいるところを誰かに見られたら大変ですよ”


 玲とみつきが落ち着いた後二人は佐伯の車でこの部屋に来たが中に渡利とともやもいた。


 玲たちが部屋に入るなり渡利はバーにおいてあるボトルをとりグラスを出してワインを注ぐ。玲に軽く進めるようにグラスを差し出すが玲は首を横に振る。


 ‟玲君と密会してたって?平気平気、僕のことそんな風に追っかけてるファンなんていないよ。むしろいてくれたらうれしいくらいだよ”


 明らかにやつれた玲を見ても泣いた後で目を真っ赤にはらしたみつきを見ても、いつもと変わらない飄々として調子でくだらないことを言いながら渡利はにこにこと返してくる。みつきは玲の腕にしがみつきながら渡利を睨みつけている。渡利の計画で仕方がないとはいえ玲を追い詰め、自殺までしそうになったことに腹を立てているのだ。あと一歩遅かったら取り返しのつかないことになっていた。

 そんなみつきにも気にも留めない様子で


 ”間に会ってよかった“


 とにっこり笑う。


 “どうしてあそこにみつきさんや佐伯さんまで?”


 落ち着きを取り戻した玲は疑問を唱える。


 ”君、僕との連絡用の携帯に出なかったでしょ。ずっと鳴らし続けてたのに。だから何かあったのか、まさか南条さんに会いに行ったりしてないかと思って彼に連絡したんだよ“


 森本が代わりに応えた。


 “こっちは、お前に付けていた見張りからお前がバルコニーに出てるがなんか様子がおかしいって連絡が来た。俺やみつきが間に合わなかったらボディガードが飛び込む予定だった”


 ”見はり…”


 玲は予想外の言葉に反応できずにいる。


 ”君が苦しんでいるのは知っていたからね、思いつめてバカなことをしようとするかもしれないし、それに万が一他の人間から危害を加えられたら大変だからって佐伯社長が手配してくれたんだよ“


 ”どうしてそんなことまで…?”



 “実はね、ドラマの続編の準備はほぼ出来てるんだ”


 と渡利はいきなり話を変えた。


 それよりもこの状況やなぜこの場に呼び出されたのか知り知りたかったのだが。


 玲はドラマの続編の話を持ち出す渡利の意図がつかめず眉を顰める。


 ‟ぼく達の物語はね、あれで終わりじゃないんだよ”


 ワイングラスを軽く揺らした後くいっと一口飲む。


 “ところで玲君。レイシャーンが処刑された後、本当はミシルカと王国はどうなったと思う?”


 困惑する玲の反応を楽しむかのように微笑んで渡利が左手の人差し指を立てる。


 “レイシャーンが処刑された後ミシルカは絶望のあまり死んでしまう。その時にレイシャーンを断罪した宰相と実の両親である両陛下を道づれにしてね。同時にギルアドニア国から攻め込まれロンズディン国は滅ぼされてしまうんだ。残された民はギルアドニアの圧政の下に苦しい生活を強いられるんだよ”


 “え、だってカーメイの援軍が”


 とっさに玲が反応する。


 ”カーメイは来なかった“


 渡利は言い切った。


 “だってダンが…”


 ともやがそれに答えた。


 “ダンは間に合わなかったんです。厳密にいえば処刑に間に合わなかった時点で何もかもお終いだったんです”


 ‟レイシャーンを見殺しにしたロンズディンを誰が助けようなどと思うものか“


 佐伯が低いが怒りを含んだ声で言う。

 物語の続きの話なのに、なぜかいたたまれない雰囲気に玲が話を切り上げようとする。


 “もういいです。とにかく渡利さんが考えたストーリーなんですよね。だったらあなたが好きなようにハッピーエンドにできるはずじゃないですか。大体ドラマだって悪役である裏切り者のレイシャーンの悪事が発覚し制裁を受けて主人公が王位について一応めでたしめでたしで終わってるし。そりゃミシルカはレイシャーンの裏切りに傷ついたかもしれないけどそこから立ち直ってその後国民のために邁進していくってなってたじゃないですか”


 ‟それがねぇ、現実はそうじゃなかったんだなぁ。でも僕としてもそんな終わり方は嫌なんだよね。この結末をひっくり返すにはどうしてもレイシャーンに頑張ってもらわなきゃいけないんだ“


 ‟レイシャーンはもう処刑されてるから出てこられないじゃないですか。切られた首をくっつけるわけにもいかないでしょう“


 俺はなんでこんな議論をしてるんだ、と思いながらも玲はまくし立てた。渡利はそれを無視しながら一人話続ける。


 “それでね、僕も考えたんだ。ちょっと趣向を変えてみようと思ってね。前回のドラマは「公に語られた物語」、次に僕が企画してるのは続編というよりは「語られなかった物語」、とでもいえばいいのかな、つまり真実の物語なんだよ。そこで事実を、真実を明らかにするんだ”


 “…?”


 “ねぇ、玲君。レイシャーンが処刑されるとき神官長がレイシャーンに何かつぶやくだろう?なんて言ったと思う?”


 “祈りの言葉っていう設定じゃなかったですか? カメラ回ってるときは立花さんは何かむにゃむにゃって言ってたけど。それか、諫めの言葉?次に生まれ変わったら道を誤らないように、とか?”


 “いいねぇ、半分当たりだな。生まれ変わったら道を誤らないように、か。それは的を得たセリフだな”


 わたりは、うんうん頷きながら続ける。


 “実際はね、神官長はレイシャーンにこうつぶやくんだ。あなたは本当にこれでいいのですか?ってね”


 玲は渡利を凝視する。


 ‟あの時レイシャーンは選択を間違えたんだよ”


 ‟それは王座を狙って王様を殺そうとして、ミシルを裏切ったから…”


 ”違う違う、レイシャーンの間違いはね、真実を闇に葬るという選択をしたことだったんだ“


 “…”


 “ミシルカのために自分が悪役を演じ切るという選択”


 ドクン!と心臓がはねた。


 “本当にレイシャーンは王に薬を盛ったのか?レイシャーンがミシルカを陥れようと画策した、という噂の出どころはどこだったのか?”


 “何言って…”


 渡利はストールから立ち上がりゆっくりと玲の方に向かってきた。


 “こうは考えられないかい?ミシルカを王にしたい者たちがまずミシルカを貶める噂を流した。そしてその噂はレイシャーンを王位に臨む者たちが流した噂だとまた噂を流したんだ。実際に動いたのはは王妃じゃないかと思う。自分の子供可愛さに欲を持った愚かな女。そしてそれを利用したのが宰相だ”


 そして玲の前に立つ。


 “違うかい?レイシャーン”



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