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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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落ちた星

 


 ‟葛城玲、ドラマ大ヒットで注目されるもその後のスキャンダルで大転落 天国から地獄”

 ‟友に裏切られて傷心のみつき、アメリカでの休息の後活動再開。年末のファッションフェスティバルでモデルとして参加か?”


 初めの頃は嫌がる森本に頼んで新聞や週刊誌を買ってきてもらった。よせばいいのにTVをつけ、スマホを眺め自分を更に痛めつけている。ほとんどやけくそだった。SNSのコメントを見ると吐き気が込み上げてくる。こういう記事やコメントは自分が目を向けなければ何の害もない。しかしすることもなく部屋に閉じこもっていると外界と一切かかわりを無視して生活してくことなど不可能なことだった。


 みつきにふさわしくない、みつきが汚れる、俳優として最低、恥、人間の屑、消えろ、死ね、自分に向けられる憎悪の波に溺れていっそ死んでしまった方が楽になれるんじゃないかと本気で思ってしまう。


 コンビニに行くだけでも誰かに見られて悪口を言われているような気になり、部屋の中にいても誰かにのぞかれて自分のダメな部分を暴かれているような気になるのでカーテンも閉めっぱなしだ。


 意外だったのは警察の事情聴取の時、比較的まともな対応をされたことだった。玲が違法薬物を所持しており体内からも検出されたのにもかかわらず、だ。もちろん薬に関して聞かれたが、身に覚えがない、と答えると意識を失った前後のことなど詳しく聞かれたりした。その後は拘束もさせず家に帰されたのだった。もちろん再度呼び出られることもあるだろうし、何か思い出した時は連絡するように言われたが。


 だからといって玲が普段通り芸能活動に戻れるわけでもなく事務所からは自宅から出ないように言い渡されているのだが。


 こんな状態がいつまで続くのか。


 時間が経過とともに、食欲もなくなり夜も眠れず、眠ったとしても悪夢を見て日に日にやつれていく玲にとうとう、森本からプライベートのスマホを取り上げられてしまった。森本との連絡用の物と定期的に訪れてくれる森本のいるところで家族に連絡をすることができるのみだ。両親は自分を責める言葉は一言も言わずに体だけ心配してくれる。母に泣かれるのが一番つらかった。


 そのままさらに一週間経った。


 玲は自宅のマンションのバルコニーにでて夜景を眺めていた。


 久しぶりに空を見た気がする。星は見えないし明かりが多くて真っ暗ではないけど、何となく心は落ち着く。都会の夜は静かになることは無いけれど、それも遠くだ。


 ようやく一人になれた気がした。

 このまま終わらせてもいいかな…


 玲は疲れ果てていた。どうしてこんなことになったのか、どうして自分がこうしているのか現実味がない。

 このまま自分がいなくなったらきっとすべてが丸く収まって、すぐに何事もなかったかのように忘れられていくんだろう。それでもいい。みつきもモデルとして活動を再開して成功してくだろう。それが自分の望みなんだから後悔はしていない。


 バルコニーに足をかけて上り、腰をかける。バルコニーの反対側には人ひとり立てる程のスペースがあるがその先は真下の芝生から地上五階分の高さがある。

 風が吹いて玲の体がふらりと揺れた。そのまま体を傾けていく。

 その時バタン!とドアが開いて


 ‟玲!”


 みつきが駆け込んできた。後ろに森本がいる。


 ‟な、に、してるの…?”


 思わず振り向いた玲をみつきは蒼白な顔で見つめる。


 ‟みつき…ごめん、もう疲れちゃって。このまま帰ってくれる?”


 愕然としたままみつきが首を振る。こわごわと手を伸ばす。


 “ね、玲、手を”


 “みつき、さよならだよ”


 と言ってみつきに背を向けたが下を見てさすがにひるんで息をのんだ一瞬の隙にどん!とみつきがぶつかってきた。躊躇いもせずに玲の体にしがみついたみつきの体もバルコニーから乗り出す。


 ”みつき!危ない!みつきまで落ちる!”


 玲が慌ててみつきを引きはがそうとするもみつきはさらに腕に力を込める。


 “離さない!離れない!もう二度と!玲が行くなら一緒に行く。いやだいやだいやだ!”


 駄々っ子のように喚きだすみつき。玲もあっけにとられてバルコニーを握りしめたままみつきを見つめた。森本もやってきて玲の体を抱える。


 ”玲君…”


 森本も泣いていた。


 玲はバルコニーを掴んだままその場に膝をついた。一度勢いを失ってしまうと急に恐怖が込み上げてきて力が抜けてしまった。森本とみつきが必死で引っ張り上げようとするが、腰の抜けた玲を抱え上げるのは至難の業だった。そこへ力強い腕が伸びてきて玲はグイっと引っ張り上げられる。無理やりバルコニーを超えてこちら側に降ろされた。ようやく安定した場所で玲はほっと息をついた。


 ”全く、お前らはバカか“


 声のする方を見上げると佐伯が玲を見下ろしていた。呆れた言い様とは裏腹に佐伯の顔も泣きそうだった。


 ”佐伯さん、あなたまでどうして…”


 問いかけるが返事がないまま力強い腕できつく抱きしめられた。



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