玲の選択
今日は警察へ事情聴取に行く日だった。このころには玲の精神は限界に来ていた。警察で何を聞かれるのか、自分はどう答えるのか。警察は自分の言うことを信じてくれるのか。もうどうでもいいと思いながらもうつうつと考え込むことを止められない。
警察署の前で車を降りた玲は愕然とする。たくさんの人、人、人。そしてカメラが一斉に自分の方を向いた。トップアイドルならまだしも自分のスキャンダルがこんなに注目されるとは思っていなかった。それにしても一体どうやって今日の事をかぎつけてきたのだろう。足がすくんで喉がひりついた。心臓がどくどくいっていて吐き気がしてくる。
‟葛城さん!これから警察に行って真実を自白するんですか?”
‟自分の罪を認めるんですか”
‟自分の行動を反省してますか?”
‟南条さんに迷惑をかけたという意識はあるんですか?”
マイクを向けられ質問が飛び交う。
その周りでは(元)ファンの人達だろうか。まるで鳥の大群に囲まれたようにいろんな声が耳に刺さる。フラッシュの光と人々の声と音、大きな渦に巻き込まれるようだ。思わず目をつぶり、耳を塞ぎたくなる。
その時、ひと際鮮明な声が耳に響いてきた。
‟玲!”
声がする方を振り向くと少し離れた場所にみつきが立っていた。ラフな私服に洗いざらしの髪でもみつきは十分に美しく人目を引いている。
みつき、何でここに?
キャー!という女の子たちの悲鳴や男たちの怒声が聞こえてくる。みつきはあっという間に人々に囲まれる。
こんなところに来ちゃダメなのに!
‟みつきさん、葛城さんが心配できたのですか?”
‟やっぱり二人の噂は本当だったのですか?”
ファンの喧騒も一層大きくなりみつきの表情もひるんだようにこわばる。
このままじゃみつきまで…
同時に玲の脳裏に、夢に出てきた麗人がうなだれて涙を流している姿が浮かぶ。
みつきを守らないと…
玲は覚悟を決めた。大きく息を吐く。
‟いい加減にしてください!もうたくさんだ!”
玲は叫んでいた。初めて沈黙を破った玲に報道陣が一斉に注目する。
‟こんな大騒ぎになるなって思ってなかった。もううんざり。俺はただあんたを利用してもうちょっと有名になりたかっただけなのに”
玲の目はまっすぐみつきを見つめている。
葛城玲が壊れた!とそこにいた人々は思ったに違いない。カメラやファンの前でこんな言動をするなんて自殺行為だ。
‟嫌がらせをしても全然通じないし。おかげでこっちはやりすぎちゃってボロが出るし、むしゃくしゃしてちょっと気晴らししたら警察沙汰とかなるし。みんなあんたの所為だ!こんなところまで出てきていったい何なんですか”
“気晴らしして警察沙汰”と言えばドラッグの使用を認めたようなものだ。
みつきは真っ青な顔で玲を凝視している。ピクリとも動かない。
騒ぎを聞きつけて表に出てきた警察官が玲を促して建物の中に入る。
ボディガードを連れてみつきを追いかけてきた榊は報道陣を無視して、呆然としているみつきを車に押し込む。のろのろと進む車を、しばらく人の流れが長い尾を引くようについて行ったが大通りに出るとスピードを上げて走り去った。
この様子はTVで何度も放送され、動画でも拡散された。もう葛城玲は終わった、と誰もが思った。
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佐伯が手配したホテルの一室にいつもの四人が集まっていた。
‟う…ぐふ…う、う”
みつきが泣いている。
それを渡利が困ったような顔で見ている。
‟本当に…必要なことだったの?”
みつきが鼻をかみながら訴える。
‟つらいだろうけど今は耐えてください。これは起こるべくして起こったことだ。玲は一度落ちなければいけない。そして再生することが必要なのです”
‟だからって、あんなふうに追い詰めて。玲のあの苦しそうな顔…”
みつきの顔はぐちゃぐちゃだ。
‟ここからが本当の試練なのです。遅かれ早かれ玲が何らかの形で追い詰められるのは予測出来た。それならば私たちの手でコントロールできる状況で起こったほうが対処しやすいのです。だからあえてあなたにはあの場に行ってもらったんです。それにしても玲はやはり、玲です。あなたのためにとる行動は同じですね”
渡利の声は優しくもあり悲しそうでもあった。
‟大丈夫だ。玲が罠にはめられたのは明らかだ。今全力で事の真相を探らせている。警察にも手をまわしている。後はどんなことをしても玲を引っ張り上げてやるんだ“
佐伯も真剣な顔で言うとともやも頷き両手を握りしめる。
‟後は玲さんが精神的に耐えてくれるのを願うばかりです”




