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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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 マンションまで送るという榊の言葉に甘えて車に乗りこむ。しばらくして榊が


 ‟まずいです”


 とバックミラーを見ながら眉をひそめた。


 ‟後ろから来てる車につけられてるようです。パパラッチだな。私と一緒の所を撮られるとまずい。このままマンションに直行するのは危険です。あいつらはどうやって嗅ぎつけてくるんだ、まったく”


 とらしくなく舌打ちする。

 しかたがないので都内の繁華街に向かってもらい、


 ‟大通りに出たら降ろしてください。適当な店に入って少し時間つぶしてから帰ります”


 ‟こんなことになって本当に申し訳ありませんでした。本当に大丈夫ですか?”


 ‟眼鏡も帽子もマスクも持ってるし、この辺はよく知ってるんで何とかなりますよ”


 以前の榊とは別人のような口調に返って居心地の悪さを感じながら玲は車を停めてもらった。


 榊の車が走り去った後、少し路地に入ったところのクラブに入った。前に来たことがあり、踊りを楽しむ人たちがいる辺りはライトが明るいがそれ以外は店内は薄暗く顔を近づけないとはっきり見えないから比較的安全だ。音楽を聴きながらカウンター席で軽めのカクテルを頼んでちびちびやりながら先ほどの会話を反芻していると


 ‟一杯ごちそうさせて”


 と声をかけられた。


 ‟お兄さん、すごくきれいな顔してるね。スタイルもいいし。あれ?どっかで見たことある顔”


 音楽がうるさいからか顔を近づけてくる。見たことなくて結構、と思いながら、鼻につくフレグランスに顔をしかめ席を立とうとすると


 ‟そんなに怖い顔しないで”


 と軽く腕に手を置かれる。妙に体を密着させてくるのにさらに不快になり、置くかれている手から腕を引く。


 その時相手の左腕にある不思議なタトゥーが目に入った。アニメかなんかで見たことがある魔法陣みたいな模様だ。できるだけ顔を上げないように相手の顔をチラリと見るとたくさんのピアスをつけた化粧の濃い若い女の顔。


 ‟なんかいやなことあったんでしょ。顔が怖いよ。一緒に飲んで憂さ晴らししようよ”


 と言われる。


 ‟そうそう、付き合うからさあ”


 と、今度は反対側から声がする。こちらは派手な金髪に鼻ピアスの男。決して似合っていないわけではないが美醜の問題ではなく性格的に受け付けないの雰囲気だ。


 ‟もう帰るから”


 と言って残りのカクテルを一気にあおって席を立って店を出た。タクシーが捕まる大通りまで少し歩かなければいけない。路地から出るために足を速めようとしたときにいきなり後ろから羽交い絞めにされ、口をふさがれた。抵抗しようと体をよじったが衝撃を頭に感じた。だんだん体に力が入らなくなり視界もぼやけてきた。

 そしてブラックアウト。



 夢を見ているんだとわかる。

 誰か自分の名前を呼びながら泣いている。顔はぼやけているけど、なぜかわかるんだ。その人はとてつもなく美しい。絹糸の様な髪。宝石のような瞳。美しく、愛しくとても大切な。

 知っているはずなのに知らない。知らないはずなのに知ってる。でも、どうして泣いているの?

 ああ、自分の所為なんだ…何もかも。ごめん、でもほかに方法が…なかったんだ。どうしてもお前を守りたかったんだ。




 ‟玲!玲君!”


 呼ばれて目を開ける。頭がガンガンする。まず目に入ったのは森本さんの顔。心配そうな顔にやや安堵の色が浮かぶ。


 ‟よかった。気が付いて。気分はどうだい?”


 どうやら病院のようだ。頭に包帯が巻かれているが頭痛以外は大したことはない。


 ‟どうして、、、?”


 ‟覚えてないのかい?君は路上で倒れていて救急車で運ばれたんだよ”


 ‟目が覚めたんだったら少し話を聞かせてもらえますか?”


 森本の後ろから固い口調の男の声が聞こえてきた。森本の表情もこわばる。


 そこにいるのは…警察の人?


 どうやら日付は変わっているらしい。頭がぼーっとしているが、記憶と辿っていくと、バーを出た後、どういうわけか気を失ってしまったらしい。顔や体にひどくはないが殴られたような傷があり、救急車で運ばれたそうだ。だが、それだけではなかった。病院で脱がされた上着のポケットに非合法のドラッグが入っていたのを所持品を確認した病院の看護婦が見つけた。警察に通報したためその粉末も調べられその為の事情聴取だったのだ。


 驚愕のあまり思考が追い付かず、みつきの父親に呼び出されたことを言うべきか言わないべきか迷っているうちに話が支離滅裂になったことが状況を悪くした。具合が悪いということでいったん聴取は打ち切られたが後日警察に出頭することになった。



 ‟こんなことになって申し訳ありません”


 退院後玲はまっすぐ事務所に来て深々と頭を下げた。


 ‟君のことは信じているけど、君も知っている通りこの業界はイメージ、人気と信用、そういうもので成り立っているんだ。無実であろうと疑惑がかかった時点で君を使うことはできないと、すでに各方面から契約が打ち切られているんだ“


 と、社長に言われた。


 ドラッグの件は一切否定した。バーで誰かにポケットに入れられたに違いないと主張したけれどもちろん証拠はないし、証人もいない。そもそも今、マスコミに目をつけられている状況でなぜ玲があんな時間にあんな所にいたか、と社長に聞かれると説明できない。森本でさえ知らなかったのだから。だが、みつきの父親と会っていたことを話せばその理由を聞かれるから言うわけにはいかなかった。


 何をする気力もないがいずれにしても仕事はできないし、外にも出られず自宅にこもることになった。


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