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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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南条隆仁

 

 そしてまた数日たった。

 玲は自宅で何もせずボーっとしていた。スマホはテーブルの上で電源オフの状態になっている。みつきへのSNSの炎上は一転して玲に襲い掛かってきた。事務所からはチェックしないように言われている。

 みつきとはもう二週間も会っていない。連絡すら取れない状態だ。両方の事務所に接触を禁止されているからだ。それどころか自分は満足に外にも出られない状況でいい加減気が滅入ってしまっている。退屈でTVをつけようか迷っていると


 ピンポーン


 インターホンの音がしてびくっとする。まさかマスコミに嗅ぎつけられた?


 恐る恐るカメラをのぞいてみるとなんとそこにいるのはみつきのマネージャーの榊だった。急いでロック解除して上がってきてもらった。


 ‟すみません、葛城さん突然お邪魔して。電話したのですが電源が切られていて…森本さんに連絡しても会わせてもらえないと思いまして。特にプライベートなことですので事務所を通すのもどうかと”


 “プライベート?”


 ”実は葛城さんに会っていただきたい方がおります。誰にも内密で“


 こんな状況で勝手に判断して森本さんに内緒で誰かに会うなんて得策ではないと思ったが相手の名前を聞いて驚いた。そして承諾してしまった。不安も大きいが何よりもその人物が自分にとってはないがしろにはできない相手だからだった。



~~~


 “すまないね、葛城君、こんな風に呼び出してしまって”


 その相手は南条隆仁、みつるの父親であり所属事務所の社長でもあった。

 隠れ家的な上品な料理屋の個室に通され、向かい合って座る。南条隆仁の斜め後ろには榊が控えている。


 “まったく今の世の中というのは怖いね。ネットで誰かが言い出したくだらない一言が瞬く間に広がって一人の人間の人生をめちゃくちゃにしてしまいかねないんだから”


 南条隆仁は自分のグラスを傾ける。榊が玲のグラスにもビールを注ごうとするが玲は手でそれを断る。

 南条隆仁はあまりみつきに似ていない、男らしい端正な顔つきの男性だった。やり手と聞いているが表情も口調も穏やかだ。


 やっぱりその話か。それしかないだろうしな。でも、社長が直々に出張ってきた意図は…?


 “SNSでお互いを叩きあうのはもう日常茶飯事で、この前などは君たちのファン同士が乱闘騒ぎにまでなったようじゃないか。けが人まで出て”


 “はあ、ご迷惑をおかけしてます”


 と言うものこの状況が理解できない。


 南条はしばらくそんなトラブルを列挙していたが


 “最近はみつきもナーバスになっていてね。仕事にも支障をきたしているんだ”


 という言葉にどきりとした。


 “みつきさんはどうしていますか?だいじょうぶなんですか?その、精神的にまいってるんですか”


 榊が苦い顔をする。愚問だ、と言うように。

 少し間をおいて南条がまた話し出す。


 “君にはいろいろと話したいことがあるが、先ず君に誤らなければならない。この騒ぎがここまで大きくなった一因は我々にあるかもしれないのだ”


 “は?”


 そこから榊が引き取る。


 “葛城さんも覚えていられるかと思いますが、ドラマが終了した頃、ある噂が立ち始めましたね”


 ああ、みつきと恋愛関係にあるとかいう…


 玲は黙ってうなずいた。


 “そう。芸能人としては共演者と噂になることは珍しくもない。そして根も葉もない噂ならドラマが終われば自然と消えていく。君も今まで何度も経験しているだろう”


 今どきは男同士でもそんな噂が立つんだから驚きだけどね、と付け足した。


 “いえ、僕はそんなに売れてませんからそんなに噂されたりとかは無かったです”


 “いや、謙遜はいい。君の人気のほどはよく知っているよ”


 褒められているようで落とされている。

 いやみだ。


 “だが、今回の騒ぎは大きくなりすぎてみつきの日常生活やほかの仕事にも影響が出始めてしまった。君のファンたちがあからさまにみつきの活動を妨害し始めたりネットで悪口を広広げたというじゃないか。いや、君を責めてるわけじゃない。君にもどうしようもないことなんだろうから。しかし特定できる雑誌や新聞社ならある程度圧力をかければ何とかなったかもしれないが、このSNSというやつは全く厄介だ”


 わかります。とてもよくわかります。


 “君には役者としての実力がある。結局役者は実力さえあれば大概の子とは乗り越えられる”


 それには同意しかねるが、問題は、何でここで持ち上げる?


 “だが、みつきは違う。モデルと言うのは結局イメージが一番大事なんだ。そしてあの子は人気はあっても世間知らずの子供だ”


 とグラスをグイっと空ける。


 “だから私は親としてバカな行動に出てしまったのだ。榊を使ってネットにある書き込みをさせた。その…”


 それは、またほんとにバカなことを。


 “本当に小さな書き込みだったんです。ファンに納得させるように二人は恋仲なんかじゃなよ、という程度の”


 榊が言い訳のように付け足す。


 本当に?


 “二人は実はそんなに仲良くないよ、と…”


 本当にその程度?


 “…何度かそういく書き込みをしてましたがなかなか効果が出なくて。そのうち内容がだんだんエスカレートしてきて二人の仲は最悪、しかも葛城玲は南条みつきに嫌がらせしてる、と”


 隆仁が言い終わる前に


 “申し訳ありません!どうにかしてみつきを守りたかったんです”


 と、榊がひれ伏す。


 “こちらがもう、この辺にしておこうと思った時には噂は独り歩きをしていてしかもあっという間に炎上してしまって収拾がつかなくなっていたんです”


 “頼む!葛城君この通りだ”


 と社長まで頭を下げる。


 ゴメンナサイじゃないの?頼むとは?


 何も言えずに引き気味に二人を見据えていると…


 “君のほうですべて肯定してくれないか。みつきを貶めようとしていたのは事実だと。いや、あえて肯定しなくても、謝罪をしてくれればいい”


 ああ、そういうことか。

 ようやく納得がいった。しかし肯定しないでも、謝罪してくれってどう違うんだろう?

 体から力が抜けて胃の辺りから不快なものが込み上げてきた。だが怒りはない。

 お願いの内容があまりなことに、かえって感情が付いてこれていない。


 “私たちがしたことが世間に知れればあの子のキャリアは一たまりもないだろう。みつきは事務所の看板でもあるんだ。もしみつきにスキャンダルが起これば事務所も大打撃を受ける”


 そのあと延々と続く懇願―演説。いや葛城玲だってそちらほど大きくないけど一応事務所というものに所属してるんですけど。


 見当違いのお願いにバカにするなとじわじわと怒りがわいてきたが、みつきのことを言われると無下には断れなかった。

 バカなことだとわかっているのに。みつきが苦しむ姿を見たくないと思ってしまう。

 ああ、俺が認めてしまえばみつきが傷つくことなく、すべて丸く収まるのか…


 “すみませんが少し考えさせてくれませんか。こちらにとっても簡単な話ではないんで”


 あからさまに拒絶されない事に安心したのか隆仁は表情を緩める。


 ”君には実力がある。ほとぼりが冷めて君が復帰するときには必ず全力でサポートさせてもらう“


 実力があってもスキャンダルで消えていった俳優たちたくさんいるんです。大体いつほとぼりが冷めるのかもわからないし、そのころにはこんな二流俳優の葛城玲の事なんて気にも留めなくなってるんじゃないか?


 あふれ出そうになる自分の言い分を胸に押し込めて南条と別れた。



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