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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星4 オーディション3



 オーディションの参加者はいくつかのグループに分けられた。自己PR面接、アクション、本読みなどグループごとに行われる。


 昼休憩になると各々の友人や同じ事務所の人間が集まる。玲たちも固まってコンビニ弁当を食べ午前中の成果を報告し合う。

 瑠衣人と小林は興奮気味に話し始める。


 ‟今日のオーディションが終わったあとのグループ分けは、だいたい役ごとに分けられるんだよな”


 ‟うん、それぞれの役の候補者が同じグループに入って役についての演技を見られるらしいよ”


 ‟じゃあ、自分が主役のオーディションを受けたいと思っても、グループ分けの後はもう受けられないってこと?”


 ‟そういうことになりますよね。まあ俺なんかは町人とか山賊とか、良くて兵士。エキストラの役でももらえればいいくらいだから”


 もともと、アクションだけが得意な小林はセルフのある役よりも体を動かす役を貰えればいい、と割とリラックスしてるようだ。


 ‟奏さんは、主役のレイシャーン役かな?”


 小林が奏一郎の方を見ると彼ははフッと笑って問いを素通りし玲の方を見る。


 ‟玲は何だろうな?”


 瑠衣人が応える。


 ‟副団長とか?”


 ‟ま、まさか。僕は兵士役でももらえたらラッキーだよ”


 ひらひらと手を振って玲は否定する。そんな玲を横目で見ながら奏一郎は唐揚げをつまみながら言う。


 ‟でもこのオーディションておかしくね?主催者側が一方的に役を振り分けてくるの?こっちからこの役のオーディションを受けたいですって言えないのって”


 ‟そんなことないよ。もし君がレイシャーン役を取りたいなら言ってくれれば機会はあげるよ。この場に来た時点でチャンスは皆無じゃない”


 突然後ろから声がしてみんなぎょっとして振り向くと渡利がそこに立っていた。


 ‟渡利紘一…”


 瑠衣人が、声を漏らす


 ‟おい!”


 小林が瑠衣人の脇をつつく。


 ‟あ、すみません!失礼しました。渡利、監督?”


 ‟いやいや構わないよ。そうだね。君なんかどう?レイシャーン役の演技審査受けてみる?”


 渡利がふいっと玲を見た。


 ‟え?”


 俺?と自分で自分を指さした時、視線を感じて息を飲む。奏一郎が玲を見ていた。


 ‟いやいやいや俺には無理っすよ、そんな大役”


 玲はぶんぶんと顔を左右に振った。


 ‟んなことないだろう。役者なら誰だって一度は主役をやってみたいって思うんじゃない?”


 そう言う渡利に向かって奏一郎は目を輝かせて渡利に確認する。


 ‟本当にいいんですか?演技審査に参加しても”


 ‟まあ、オーディション参加者全員に来られちゃうとさすがに無理かもだけど、数人増えるくらいなら問題ないよ”


 ‟よし!やってみようぜ”


 奏一郎がやる気になって玲と瑠衣人の肩を引き寄せた。



 翌日、また玲たちはオーディション会場に戻って来た。今日はグループごとに短い演技をしていく。

 与えられた演技は、大切な人にとっておきの贈り物をする、というテーマだ。二人ペアになり贈る方と受け取る役を交代で行う。設定は自由。恋人でも親子でも友達でも構わないのだが圧倒的に恋人に指輪やプレゼントを贈る、というパターンが多かった。

 玲は自分の妹に旅行で買ってきたお土産を渡す、という設定でやった。妹役をやってくれた相手がうまく合わせてくれて、せっかく買ってきたアクセサリーを気に入らないと言われてしょげる。


 自分では何とかこなした気がする。




 ‟なかなかよかったじゃないか”


 渡利がにこにこしている。


 ‟地味だな”


 なぜか今日も見学に来ている佐伯が顔をしかめた。


 ‟何だあれは。うまいのかもしれないが普通過ぎるだろ。存在が地味すぎる。面接の録画も見たがつまらなかった。受け答えの内容はともかくアピールしようって気が全然ないじゃないか。まあ、アピールしすぎて鼻につく奴や空回りするやつもどうかと思うが”


 ‟言っといたはずだよ。全然違うって。そもそもリーシャは昔もそういうタイプじゃないよ”


 とみつきが返す。


 ‟まぁ、そうだが”


 佐伯も同意する。

 人を押しのけて前に出ようとしたり、威張ったりそんなことは全然しない。ただ意図せずあふれ出る明るいエネルギーに誰もが引き付けらる。レイシャーンはそんな人物だった。


 ‟でも、僕はあの設定好きだな。お兄ちゃんからのお土産”


 感傷にふけっていると渡利がにこにこして言った。


 ‟だが、あの程度じゃレイシャーン役に抜擢するってわけにもいかないだろう。誰も納得しないぞ”


 ‟確かにそれは無理だよね。レイシャーン役をやれば何か思い出すかもしれないって思ってたんだけどこのままじゃね”


 三人は監督専用の控室でランチを取っている。食事がはかどらないみつきと佐伯をよそに渡利はパクパクと弁当を平らげると席を立った。


 ‟じゃあ、ぼくはちょっと他のスタッフと打ち合わせがあるから。あ、そうそう午後からの南条君との演技テストに来るように葛城君とその仲間たちに声かけておいたからね”


 渡利が思い出したようにいう。


 “え?あれってもう五人くらいに絞られてるんじゃないの?”


 みつきが首をかしげる。


 ‟その辺は監督の職権乱用。それに、その五人だって、ほら、アレだし。だから適当に他の人にも声かけておいたからあと五人くらい人数増えるけど頑張ってね”


 “それって僕が同じシーンを十回もやるってこと?”


 ‟まぁ、これも彼のためだと思って頑張って”


 ‟…”


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