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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
68/99

ドラマの成功

 

 ‟かんぱーい!”


 グラスをカチンと鳴らしながらその場にいる面々は一気にビールをあおった。今日はドラマが好調なまま最終回を迎えたことを祝しての打ち上げなのでみんな上機嫌だ。


 ‟いやー結構最初から飛ばしてたから後半落ち込むんじゃないかと正直不安だったけど、走り切ったねぇ”


 渡利もにこにこ顔だ。


 ドラマは最高視聴率で最終回を迎えた。ヒットしても必ずしも視聴率に直接反映されるとは限らないこのご時世、数字ではっきり結果が出るの誰にとってもうれしい。これに見逃し配信などを加えると制作側としては万々歳の結果だった。何よりもネットの反響が人気の高さを物語っている。

 モデル出身で雑誌やCMなどで人気上昇中の南条みつきと若手実力派俳優楷ともやがW主演に加え、渡地紘一が監督のドラマだ。注目度は始めから高かったが初めはどうしても主役二人の人気で女性層の視聴者をあてにしていた。だが途中からベテランの脇役達の好演と、みつきのあまりにも真に迫った演技が話題になり視聴者の年齢層の幅が広がっていった。加えて玲とみつきのCMがそれに拍車をかけ無名の俳優葛城玲が話題になった。そして昨日の最終回が今期ドラマの最高視聴率をたたき出したのだった。


 “それにしても、最後の南条君のの霊安室のシーンはよかったよね。泣けるんだけど、ちょっと鳥肌が立つっていうか、怖いっていうか”


 最終回をみた色部さんがうんうん頷きながらのたまう。


 ‟みつきさんの演技評価されてますよね。最初はモデルが演技なんてできるのかって配役に批判気味だった人達も認めてるくらい“


 “私はレイシャーンが毒を飲む前のセリフと表情がよかったなー。かっこよくて悪役の最後なのにドキドキしちゃった。人気あったよね”


 スタッフらも興奮を抑えきれないように口々に感想を言い合う。


 “そんな、ほめないでくださいよー。今回のドラマの成功は渡利さんとみつきさんの力が大きいんだから”


 珍しくともやが酔っている。


 ‟終わっちゃってさみしいわぁ。もっとやりたかった“


 名取も酔っていて呂律があやしい。


 “渡利さん、あの後の続き?第二部ってどうなってるんですかぁ?作家さんはなんて言ってるんですか”


 と渡利に興味深げに聞いてくる。


 “うーん、どうだろうねぇ”


 渡利はいつもの調子でのらりくらりと肯定するでもなし否定するでもなしでグラスを傾ける。


 ‟ぜひ続編やりたいですよね”


 他のスタッフも言う。


 ‟ですよね。続編はあの後のミシルカが王になってからの話とか”


 ‟でもレイシャーンは死んじゃったから難しいんじゃないですかね”


 いろんな意見が飛び交う中、奏一郎は冷静に言う。


 “レイシャーンだって幽霊役とかで出られるかもよ。恋愛ものよりもホラー”


 と立花も茶化すようにともやに言う。


 “立花さん適当に言ってるでしょ”。


 “まあ、しばらく主役二人は当分あちこちで引っ張りだこになりそうだよね”


 みんなうんうん頷く中、あ、葛城君もだね、という誰かのその言葉に奏一郎はピックと反応したが、それに気づいた者はいなかった。

 打ち上げは終了しだいぶ夜も更けてからそれぞれが帰途に就いた。




 玲は自分のマンションにつくとシャワーを浴び、ミネラルウォーターのボトルを冷蔵庫から出して飲みながらソファーにぼん、と体を投げ出すとスマホを手に取った。ほんの数分前にみつきからの着信が入っていた。慌てて折り返し電話するとワンコールでみつきが出る。


 “あ、ごめん寝てました?”


 “ううん、玲こそもう寝ちゃってたのかと思った”


 ‟シャワー浴びてたんで、すみません”


 “そう…”


 ‟…みつきさん?どうかしたんですか?”


 “ドラマ、終わっちゃったね。撮影大変だったけど楽しかったな。もうみんなと会えなくなるのが寂しい”


 ‟そうですね。でも、しばらくはバラエティー番組とかインタビューとか結構予定詰まってるんじゃないですか”


 “他人(ひと)事みたいに。でもこっちはそれより本業のほうが忙しくなりそう。やっとドラマが終わったから榊さんが張り切っちゃって”


 “榊さんはみつきが演技やるの反対なんですか?”


 “強く反対はされなかったけど、どっちかって言うと今回はわがままを聞いてもらった感じかな。この後、モデル業頑張るからって言って”


 “そっか。みつきさんはモデルになるために生まれてきたような人ですからね。ドラマの演技もすごくよかったけど、モデルとしてカメラの前に立つと雰囲気が変わって圧倒される感じでやっぱりすごいなーって”


 みつきはけたけた笑う。


 “モデルやるために生まれてきたって、何言ってんの。ま、確かに俳優業は厳しいかな。このドラマはすごくやりたかったから頑張ったけど、やっぱり本格的にやってる人たちを見てると違うなって思った”


 ‟もう玲と会えなくなるのがさみしい。またご飯とか誘っていい?“


 “もちろん、みつきさんさえよければ”


 “やった!約束だよ。じゃあもう切るね。明日も早いんだった。お休み”


 といってさっさと切ってしまった。玲も通話が切れた後、時間を見て慌ててベッドにもぐりこんだ。




 みつきは通話を切った後そのままスマホの画面をスクロールしてタップする。相手はすぐ出た。


 “お疲れさまです。明日は撮影はないんですか?早く寝ないとお肌によくないですよ。若いからって過信してるとあとで後悔しますよ”


 “余計なお世話。それよりドラマ終わったけど、どう思う?ここまでは特にトラブルはなかった。これから何が起こると思う?”


 とみつき。


 “わかりませんね、こればっかりは。でも近々何か起こると思いますよ。ドラマは好調に終わった。これがきっかけになるとは思いますね。ただ何時、どんなことが起こるかピンポイントではわからない。僕らがやきもきしていいてもしょうがないからしばらくは普通に生活してるしかないでしょう。楷君にも佐伯さんにもアンテナを張っておくように言っておきます”


 “わかった”


 やや不服そうな声音でみつきが答える。


 “焦ってますか?”


 “そんなんじゃない“


 と口調を強めた後、


 ”ごめん、焦ってるんだろうね。今度こそ…今度こそやり遂げたいんだ“


 と拳を自分の額に当てて目を閉じる。


 “わかってます。気持ちは僕も同じですよ。さ、もう休みなさい。何かあったら必ず連絡するから”


 “お休みなさい、渡利さん”


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