ドラマ黄昏時に落ちる星 EP32 最終話
ドラマの最終話です。
薄暗い地下の暗室。死者が墓地に埋葬されるまで収められている部屋だ。ただでさえ寒々しい部屋なのにまだ春先で夕暮れ時には気温が下がり一層寒さが肌に染みる。部屋の外に控えてるミシルの侍従と護衛は部屋から出てこようとしない主を待ちながら途方に暮れていた。
部屋の中には棺が一つ置かれている。本来大罪人であるレイシャーンが棺に丁寧に収められこうして埋葬を待つことはあり得ないのだがレイシャーンの遺体に近づくものを切り殺さんばかりのミシルカの剣幕に特別の措置として安置されていた。
青白い顔、閉じられた両目、冷たい頬。胸元を見てもそこに生命の徴は何も見られない。
ミシルカは冷たく力のない手を自分の頬に当て、話しかけている。
‟リーシャ、お前がそんなに王座を欲しがっていたとは知らなかった。どうして言ってくれなかった。王座などくれてやったのに。お前の心に気が付かなかった私を許してくれ”
‟どうして私を一人にして逝ってしまったんだ。私が憎いのならいっそ私も殺してくれればよかったのに”
返事をくれない相手に繰り言を紡ぐ。涙がとめどもなく流れ握りしめた手を濡らす。
そこにラストリル宰相が入ってきた。
‟来るな!”
ミシルカが低いが鋭い声を出す。
‟何をしに来た。私からレイシャーンを奪わせはしないぞ“
レイシャーンの亡骸に覆いかぶさり差使用を睨みつける。
‟ミシルカ様、もう一昼夜ここにおられると聞きました。両陛下も神官長も心配されております”
‟ほうっておいてくれ。人殺しどもが!私はここにいる。レイシャーンがさみしがる”
‟それではあなた様が体を壊してしまいます”
それでも頑なに動かないミシルカを少しの間見つめてラストリル宰相は言葉をかける。
‟ミシルカ様、レイシャーン様をそろそろ解放して差し上げねば”
‟解放?”
宰相の声は限りなく優しかった。
‟レイシャーン様の立場は複雑だった。能力はあるのに母親の所為で王宮では蔑ろにされていたのは事実です。常にあなた様と比べられ長い間鬱屈を抱えて心に闇を持ってしまったのは致し方ないこと。王座に執着したのもそういったことが原因であったのかもしれませぬ。こんな結果になってしまったのは残念ですが彼はようやく己の心の鎖から解放されたのです”
ミシルカはレイシャーンの穏やかな顔を見る。
‟私はレイシャーン様が国を良くしようと思っていたのは本当だと思います。やり方は間違っていても、その思いは真実であったと。ですからミシルカ殿下、あなた様がその意思を継がなければなりません”
‟意思を継ぐ…”
オウム返しのようにつぶやき、もう一度レイシャーンの顔を見つめる。幼いころから二人で過ごしてきた時間や成長してからは民の生活を良くしようと話し合ったことなどが走馬灯のように思い出される。
また、涙が流れてきた。
‟レイシャーン様はミシルカ様だけは害そうとはしなかった。そこに彼の本心があるのではないでしょうか。あなた様はこのままずっと泣き続けるおつもりですか?”
それでもミシルカは応えなかった。だがしばらく泣いた後顔を上げたミシルカのその瞳には違う光が宿っていた。
レイシャーンの頬に手を添えて言葉をかける。
“レイシャーン、お前は私の魂を半分持って行ってしまった。今すぐにでもお前のもとに行きたいが、そうもいかないようだ。いずれ私が王になったらこの国をお前が望んだ形にしよう。お前と話し合ったことを全てやり遂げて見せる。お前の魂の半分も私の中にあるのだからいつも共にあるのだろう?そして、いつかこの体がお前のもとに行くことができたらお前に話して聞かせる。どんな風に私が生きたかを”
そう言うとレシャーンの額に口づけをし、しばらく名残惜しげに顔を見つめていたが意を決したように立ちあがる。そして顔を上げ部屋を上げたミシルカの顔は宰相を振りかえる。
‟ラストリル宰相、陛下の容態は”
‟良くはありません。レイシャーン様の処刑の後すっかり気落ちしてしまったようで今も伏しておられます”
‟今、最優先事項は何だ”
‟は、ギルアドニアの動きがここ数日で急激に活発になったという情報が入っております。どうやら国内の情報が漏れてしまったようです。こちらの不安定な状況に乗じて侵攻の準備を始めているの可能性が”
‟ならばすぐ将軍を呼べ。それからモレスロントとカーメイにを親書を送る。カーメイは同盟国ではないから援軍は望めないが物資と避難民の受け入れを乞う。カーメイにはグレイド副隊長を送れ。ゾリーク王太子と面識がある故”
‟マセラニー将軍はいつでも出陣できるよう準備を始めております”
宰相は最敬礼を取る。
ロンズディン国王が病床にある今、ミシルカが動かなければいけない。ミシルカは顔を上げて王宮に戻って行った。
それを見送るラストリル宰相に後ろからドートリアニシュ神官長が近づいてくる。
‟ありがとうございます。宰相”
‟なに、あなたに頼まれなくとも、思いは同じでしたよ。ミシルカ様には立ち直っていただき未来の王として立っていただかなくては。あの方はこの国にとってなくてはならないお方”
‟もう大丈夫でしょう、ミシルカ様なら”
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丘の上に一人の貴人が佇む。金色に輝く髪を風になびかせ、紺碧の瞳は遠くを見据えていた。
ロンズディン王国はその後予想していたようにギルアドニアに侵攻され甚大な被害を被ったが何とか敵を退けた。そして数年のちに即位したミシルカはロンズディン王国の復興に尽力し後に賢君と言われるまでになった。ただ彼は生涯妃を娶らず有能な貴族の子を養子として迎え後継者とした。彼が崩御したときの遺言の一番最後に記されていたのは、いつも肌身離さずに着けていた青い石の首飾りを共に埋葬することだったという。
END
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ドラマの主題歌と共にエンドロールが流れる。ドラマ黄昏時に落ちる星は最終回まで高視聴率で終わった。




