ドラマ黄昏時に落ちる星 EP31 レイシャーンの処刑
広間の真ん中にレイシャーンは引き立てられてきた。両手首を頑丈な縄できつく縛られ王と王妃の正面の少し離れた場所に跪かせられる。ここ数日の牢生活でやつれており、顔についた殴られたらしい痣や切れた唇が痛々しい。それでも汚れのないシンプルなシャツにトラウザーズを身に着けているのは温情なのか、それとも両陛下の御前に出るための最低限の身繕いなのか。
王はまだ病み上がりで椅子に座っているのがやっと、という状態だ。知らされた衝撃的な事実は王の心身の健康を更に損なうものでしかなかった。
部屋の中には宰相ラストリルと主だった大臣たちが列しており、まわりは近衛騎士が固めている。将軍、副将軍も蒼白な顔で控えている。
王妃の隣にはもう一つ椅子があったがそこに座るべき人物の姿はなかった。レイシャーンが投獄されて以来ミシルカは気が動転しており薬で鎮静され自室で休んでいることが多い。
ラストリル宰相が進み出てレイシャーンの罪状を述べる。険しい顔でそれを王は聞いていた。王妃は真っ青な顔で両手を握りしめている。
レイシャーンは無表情で読み上げられる罪状を聞いていた。
王妃の居室でのラストリル宰相とレイシャーンの会話を数名の大臣が聞いていたことでレイシャーンが自白したとみなされた。宰相はそれを見込んで大臣たちを連れてきたのだろう。それ以上の捜査を行わせないためだ。
政権争いに善悪は無い。いかに相手を出し抜くか、勝つか負けるだ。正攻法でなくとも勝てばそれまでに巡らした策略は表に出ない。ラストリル宰相とて清廉潔白ではない。現にレイシャーンに刺客を仕掛けておきながらそれをレイシャーンんの所為にした。もしレイシャーンが助けに行かずミシルカが殺されていたらどうしたのか、聞いてみたいところだ。
だが、今となってはそんなことはどうでもいい。今の俺に出来ることは潔く退場することだ。そうすれば後はミシルカが王太子になり、この国と民を導いていくだろう。結局俺はミシルカが幸せならばそれでいいと思う。
‟レイシャーン.ムンバートリ、何か申し開きをすることはあるか”
と形ばかりに問いかける。そこで初めてロンズディン国王が口を開いた。
‟レイシャーンよ。宰相が申したことは真なのか?余はお前が弑逆を企てるとがどうしても思えぬ”
信じたくない、申し開きをして欲しい、という気持ちが表れていた。だが、レイシャーンははニヤリと笑う。
‟私は自分が王にふさわしいと思ったからその為に邪魔になるものを排除しようと思ったまで。後悔などしていないが、些細な手違いから計画が露見してしまったのだけが悔しいな”
‟其方…なんということを”
王が怒りのあまり、ぶるぶると震えている。その王に宰相は近づいてご決断を、と小声でささやく。
“申し開きをしない潔さだけは認めよう。お前は仮にも王族の端くれ。最大の温情を持って公開処刑にはしない。ここで与えられる裁きの杯を飲み干すがよい”
弑逆は大罪である。通常なら公開処刑であるが、ロンズディンの国情を密かに窺っているギルアドニアに国内の争いを知らせないようにするためだろう。
宰相の合図で盆にのせた杯が運ばれてきた。毒だ。部屋の隅に控えていたドートリアニシュ神官長が進み出て
‟私が”
と、杯を受け取る。
その時、部屋の扉が音を立てて開くと、ミシルカが走りこんできた。それを護衛に止められている。
‟リーシャ!”
びくっと肩を震わせてレイシャーンは声の主を見る。一瞬その表情が歪んだかに見えたが、すぐにふてぶてしい表情をつくり
‟ルカ、私よりも優れた王にな慣れるものならなってみるがいい。なれるものならば、な”
‟何という事を…”
周りにいたものはこの言葉に呆れや怒りの表情を浮かべた。
‟もうたくさんだ”
といって王が合図の手を上げる。
ドートリアニシュ神官長は、すっとレイシャーンのもとに歩み寄ると耳元で何かささやく。それに静かに頷くととレイシャーンは戒めを解かれた手で杯を受け取り、それを高く掲げる。芝居がかった礼をすると
‟それでは皆様方、この国の未来、地獄で見物させていただきます。さらば!”
というやいなや、一気に毒杯をあおった。
‟止めろ!リーシャ!私を置いてゆくな!”
ミシルカは再び必死でもがく。
ゴトリ、と杯が床に落ちてころがり苦悶の表情を浮かべたレイシャーンが崩れ落ちた。
‟リーシャ!うわああああ!”
身を裂くようなミシルカの悲鳴が響く。
王妃が口を手で押さえ己の悲鳴を飲み込む。ロンズディン王も顔をこわばらせ顔を両手で覆った。
ドートリアニシュ神官長がレイシャーンの呼吸と脈を確かめ、ゆっくりと立ち上がると王と宰相に顔を向けて頷く。
すべては終わったのだった。




