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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP30 断罪

ドラマも佳境に入ってきてます。あと2エピくらいで終了です。このエピソードはドラマ(前世で知られている事実)と真実(レイシャーンのみが知る)との分岐点です。あくまでもレイシャーンは悪人でなければなりません。違和感がないようにつじつまを合わせるのが難しいです。

 

 その時、扉が開きミシルカと護衛たちが部屋に入ってきた。


 ‟リーシャ?”


 レイシャーンと彼の足元に跪く王妃の姿を見て皆驚愕する。

 ミシルカの出現にレイシャーンもたじろぐ。ミシルカはまだ体がふらつくのか護衛に支えられている。


 ‟ルカ、お前なぜ…”


 眠ったのではなかったのか


 ‟お前がつらそうな表情(かお)をしていたから…”


 隙を見せたレイシャーンに宰相は静かに話しかける。


 ‟レイシャーン様、あなたはなぜミシルカ様が襲われた現場におられたのですか?まるで刺客が現れるのを知っていらしたかのように。そうでなければカーメイへ向かっていたあなた様がこうも早く現場に駆け付けるわけがない”


 ‟何?”


 それは王妃から知らせが来て、と言おうとしたが宰相は畳みかける。


 ‟ここ最近の一連の事件であなた様は疑われていました。だから今日見事ミシルカ様をお助けしたことで汚名挽回を図ろうとなされたのか?ご自分で刺客を放って、ご自分で救出。自作自演とはまさにこのことですな”


 レイシャーンは唇をかんだ。これは罠だったのだ。刺客を放ったのは宰相だ。最初は単純にレイシャーンを殺すためだったのだろう。ミシルカが代わりに視察に出たのは誤算だったに違いない。だが彼にとって幸運だったのは焦った王妃がレイシャーンに連絡を取って救出を頼んだことだ。レイシャーンは決してミシルカを見殺しにはできないから自ら救出に向かうはず。事実レイシャーンはそうした。王妃の名で届けられた伝書もあの場に置いてきてしまったのですでに回収されてしまっているだろう。自作自演ということで見事に説明がついてしまっている。


 ‟このキツネおやじめ”


 レイシャーンは宰相を睨みつける。


 ‟何のことですかな?ああ、もう一つお伝えしなければ。調べた結果陛下が毎日飲まれていた茶葉から毒が発見されました。この国では見られない毒で銀にも反応せず、一杯や二杯飲んだところで問題ないが、毎日飲み続けていくと肝の臓に蓄積されて様々な症状を起こす。そのお茶は、レイシャーン様、あなたが陛下に献上されたものですな。東方ではよく知られているらしいですね。この毒を突き止めるのにずいぶん時間がかかってしまいました。侍女を脅して毎日飲ませたのでしょう。かわいそうにその侍女は先日事故で死んでしまった。死人に口なし、ですな”


 ‟…”


 レイシャーンは顔を歪めるが反論しない。


 ‟レイシャーン様…”


 ミナもこちらを見ながらぼろぼろ涙を流している。


 ‟リーシャ…?”


 ミシルカがフラフラと近づいてくる。


 レイシャーンはするりと刀を抜いて


 ‟よるな!さもないと王妃の命はない!”


 そう叫ぶと王妃の首に当てる。


 ‟すべてはお見通しか、宰相殿。さすが切れ者との評判は伊達ではないな”


 不敵に笑いながら宰相を見据える。


 ‟手が届きそうで届かない王位に少し焦れてしまってな。あまりいろいろと策を巡らすものではないな。どこかでボロを出してしまったらしい。疑いの目がこの身に向かってしまったので挽回策を考えたのだが”



 ‟リーシャ!”


 首に当てている刀を王妃の首に更に近づけ、なおも近づいてくるミシルカを威嚇する。


 ‟近づくな!”


 レイシャーンがさっと刀を振り切る。


 ‟きゃあ!”


 という侍女の悲鳴があがった。



 刀の切っ先から一筋の血がはじけ飛ぶ。


 刃を当てられていた王妃の首筋には傷一つなく代わりにカチン、と音がして小さな硬質のものが床に落ちる音がした。首筋を押さえて蒼白になっているミシルカの指の間から血がにじみ出てくる。足元に落ちたのは小さな青い石の首飾り。


 その場にいる全員が息をのむが一番驚いたのはレイシャーン自身のようだった。刀を振り切った瞬間ミシルカが更にレイシャーンに近づいたのだ。刀の切っ先がミシルカの薄い皮膚をかすめ、首飾りを切り取ったのだ。


 ミシルカを傷つけたことに驚愕したレイシャーンはヒュっと息を飲み刀を取り落とした。そこでようやく我に返った護衛たちが一斉にレイシャーンにとびかかり取り押さえた。

 ガチリと音がして呆然としつつそちらにミシルカが目をやると誰かが石を踏みつけて石は砕けていた。その場は騒然としていて踏みつけた本人も気が付かないのだろう。ミシルカはそれを拾おうと手を伸ばしかけたが


 ‟ミシルカ様、こちらへ!”


 と肩を引き寄せられその場から引き離される。青い石の欠片はさらにいくつもの足に踏みつけられミシルカは拾うこともできず石のかけらを目で追いながら立ち尽くしていた。首元に熱を感じたがそれよりもこの場で起こっていることがまるで現実に思えなかった。

 王妃も助け起こされ護衛に囲まれている。ろくに抵抗もせず後ろ手に拘束されたレイシャーンを見て


 ‟あなたは、それほどまでに王座が欲しかったのか”


 と、宰相は悲しそうにつぶやいた。床に跪いた状態で押さえつけられながらレイシャーンは宰相を睨みつける。


 ‟全部お前らの所為だろうが!父王の血を引いているからと無理やり王宮に連れてこられたのに母の身分が低かったからと言って私は小さい頃から蔑まれてきた。それでも私は努力してきたんだ。だがどんなに努力してもどんなに能力があっても、この古い腐った王宮では結局は血筋がものをいう。私が蔑ろにされるのはまだ些末なことだ。だがそんな気風が政にもかかわって来る。力のある兵士が能無しな上官の愚かな策で命を落とす。自分たち貴族の利しか考えない大臣の愚策で町では子供たちが飢え、家族の一人がけがや病に倒れればその治療費で一家が野垂れ死にだ。ミシルカのやっていることなど、焼け石に水。己の矜持と血筋ばかりに拘っている年寄りたちは外の世界で何が起こっているのか気づこうともしない。だから!私が変えてやろうと思ったのだ。私にはその力がある。私はこの国のためにずっと努力してきたのだ!”


 激高するレイシャーンにその場にいるものは皆衝撃を受けた。明るく飄々としたレイシャーンは影を潜めまるで別人のように刺すような視線を宰相に向ける。

 それにひるむことなく宰相はキッとレイシャーンを睨み返し


 


‟愚かな。国を治めるのはそんなに単純でもたやすい事でもない。陛下に目をかけられていたことをいいことに思い上がり、身の程知らずの夢を見たか。政とは表面だけを見て行えるものではない。だからこそ正当な後継者が正当な教育を受け王位に就くことが必要なのだ。そんなことも知らずにお前はご厚情も忘れ陛下も王妃も、そしてミシルカ様をも裏切ったのだ”


 と言い放つ。


 ‟そのものを地下牢に連れて行け。私はこのことを陛下に申し上げその後沙汰を下す”


 レイシャーンはもう何も言わずに後ろ手に拘束されて引き立てられる。


 ‟待って!リー!リー!”


 首筋から血が流れるのも構わずレイシャーンに駆け寄ろうとするミシルカは護衛と侍女に抑えられる。レイシャーンはミシルカの方を振り向きもせずに扉の向こうへ消えていった。


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