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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP26 馬番

 

 ‟やめた?”


 グレイドは厩で馬番と男の会話を聞いた翌日、それを問いただそうとまた厩を訪れた。

 しかしなんと馬番は老齢と健康上の理由で辞めてしまっていた。


 昨日の今日で?


 彼は長年馬番を務めていた男だ。日焼けしているせいで皺が多く皆から老人と認識されているが実はそれほど年を取っているわけではない。馬の世話をしてるので体力もある。グレイドも毎日顔を負わせていたが具合が悪いようには見えなかったしそんな話を聞いたこともなかった。それにこのタイミングで辞めたという事が不審に思われた。

 グレイドが馬番の事を聞きまわっていると、ラストリル宰相に呼び出された。自分のような身分の者が宰相に直々に呼び出されるとは何事かと思い、慌てて彼の執務室を訪ねると


 ‟呼び出して済まないな”


 と宰相は穏やかに微笑んで自ら部屋に招き入れグレイドに椅子に掛けるように促す。四十半ばの宰相は代々宰相職を輩出している名門公爵家の出身で、穏やかながらも人を従わせる雰囲気を持つ。この宰相は常々レイシャーンを目の上のたんこぶのように思っていることはグレイドも知っている。その副官である自分も良く思われていないのは想像に難くない。


 一体何の用で?


 つい警戒してしまう。勧められた椅子を丁寧に辞退し、用件を聞くと、


 ‟其方が馬番の事を聞きまわっていると耳にしてな。どういう理由からか聞かせてもらえるか”


 グレイドはなぜ宰相がそんなことを、と訝しく思いながらも厩で聞いた会話の事を正直に話した。

 不審な会話を耳にしたが当のシャーンに話すのもはばかられ、では誰にどう訪ねていいのかわからなかったので、ちょうどよい機会だと思った。


 宰相はうなずき、


 ‟それは貴重な情報だ。真偽のあいまいな噂など混乱のもと。実は私も噂の真相を突き止めようといろいろ探らせていたのだ。全く手掛かりがつかめず途方に暮れていた時其方が馬番の事を聞きまわってると聞いてな。何か有益な情報を知っているのか聞こうと思って読んだわけだ。そうか、それならば奴の故郷へ人をやって奴に話を聞かねばなるまいな。あの者は確かモレスロントの国境付近の村の出身だ。そこに問い合わせれば行き先はすぐにわかるだろう”


 ‟ご苦労だった。後は任せておけ”


 と言われグレイドは、さすがは切れ者の宰相閣下だ、馬番の出身村まで把握しているとは、と感心すると同時にホッと肩の荷が下りた気分になり執務室を辞した。


 ~~~~


 ‟一体何が起こっておるのだ”


 ミシルカに続き今度はレイシャーン。しかも今回はレイシャーンが先の噂を流したというものだ。

 ロンズディン王は自室で頭を抱えていた。


 二人をそれぞれ押している誰かが意図的に噂を流しているのか。次の王太子を決めかねている自分に責任があるように思えた。


 傍には王妃が悲しそうにうつむいている。


 ‟あの二人は本当に仲が良くレイシャーンがミシルカを陥れるなど考えられません。もし、レイシャーンがそのようなことを考えていたとしたらそれはすべて私が至らなかったためです”


 ‟其方は何を申しておるのだ?”


 ‟ミシルカと分け隔てなく育ててきたつもりですが、もしや心に何かを抱えていたのでしょうか。小さいころは王宮内での風当たりは強かったのは事実…”


 ‟レイシャーンがそのようなことを考えるわけないであろう”


 だが王の言葉も耳に入らないようで。ぶつぶつと独り言を続ける王妃を見ながら王はまた頭を抱えた。


 ~~~


 夕闇が迫っている街道を馬番の老人は速足で歩いていた。王都から離れて大分経つ。民家もまばらになってきたがもうしばらく行けば宿を取ろうと思っている次の街に着く。何となく誰かに付けられてるような気がして後ろを気にしながら急いで王都を離れた。人が隠れて居そうな大きな建物が減ってきたせいで少し安心する。


 望んであんな噂を流したわけではなかった。二人の王子の事は小さいころから知っていたしどちらも王族とは思えない程気やすくて優しいお人柄だ。初めはミシルカ様の噂、そしてしばらくしてから違う男が来て今度はレイシャーン様の噂を流せという。一度は出来ないと断った。

 だが身分の高い方の命令だと言われて剣をちらつかせられたら、こんな力の無いおいぼれにどうして否という事が出来よう。渡された金を酒好きの男たちに渡して噂話をすればこっちが頼まなくても勝手に酒場で触れ回ってくれた。

 良心の呵責に耐えられなかってきたから、昨日また金を渡されて早々に王都を離れろと言われて正直ほっとした。


 もう忘れよう。これだけの金があればどこかでひっそりと余生を送れる。


 馬番はそう思いながら懐に手を当ててずっしりとした重みを確認した。その後ろから忍び寄ってくる影があるとも気が付かずに。



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