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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP25 反転

 


 ミシルカの精神が限界に近づいた頃、この件はまた違った様相を見せ始めた。新しい噂が流れ始めたのである。今度の噂の内容は、こうである。


 先のうわさが根も葉もないもので、それを流したのがレイシャーンである。ミシルカが王太子になりそうなのでなんとか彼を引きずり落そうとしたのだ。


 この噂は前回と同様に王宮内と城下に急速に広まっていった。王宮内ではレイシャーンの立場はミシルカより悪い。ミシルカの時は声を潜めるようにしていた者たちも今回はもっとあからさまだった。

 皮肉なことにこの状況の変化の所為でミシルカの状態は回復していったのだが、噂の標的が自分からレイシャーンに変わったということで気持ち的には穏やかではいられなかった。ミシルカ自身どうにかして事の真相を探ろうと、引きこもりから一転あちこちに顔を出すようにしていた。


 それにしても人の心持というものは何と移ろいやすいものよ。つい先日まで自分を非難していた者たちが今度はレイシャーンを非難している。レイシャーンは動じていないように振舞っているが内心平静でいられないことはこの身をもって知ってる。


 ミシルカは将軍の執務室に向かった。


 ‟これは殿下、どうなされました”


 偶然そこにはマセラニー将軍とムンバートリ副将軍がいた。


 ‟あ、いや将軍がお忙しいことは承知しているのに邪魔して済まない。ただ、最近の噂についての調査に何か進展があったかどうか、聞きたくて”


 余りはかばかしい結果を得ていないことはわかっている。ただ、レイシャーンを守ってくれる力のある将軍たちに会いに来たかったのだ。


 ‟申し訳ありません。殿下もご存じかと思いますが調査の方はあまり進展はありません”


 ‟そうか、そうだよな”


 ‟幸い軍内では噂を信じている者はおりません。ですからレイシャーンには軍の鍛錬などにつかせております。幸いと言っては何ですがまたカーメイの方から工事についての話し合いの要請が来ているので彼を行かせようと思っているところです”


 ミシルカの意を汲んで、そう説明する副将軍にほっと安心した。


 ~~~


 噂とは不思議なものだ。それ自体は実体がなくあやふやで真偽も定かではない。それなのにじわじわと心を蝕んでいく。遅効性の毒のようだ。いや、遅効性どころか、心の弱い者であればあっという間に気鬱になってしまうだろう。


 自分の事を知らない他人が自分の心を勝手に憶測して話を練り上げていく。馬鹿ばかしいと気にしないようにしていても、いつの間にか自分でも自分が何を欲しているのかわからなくなっていく。


 俺は何が望みなのだ?王位を望んでいるのか?それとも自分を見下してきたやつらを見返すことか?


 俺だってずっと、ミシルカと共に穏やかに生きていけたらそれでいいと思っていたはずなのに。


 それだけが望みだったはずなのに。



~~~



 ある日の夕方、王宮の厩で例の噂をしている者がいた。そこにグレイドが通りかかる。


 ‟レイシャーン様はご自分のお母上の身分が低いことで王宮内では蔑ろにされていた。だからミシルカ様にいい顔をしながらも心の中では嫌っていたんだそうだ”


 と、ぼそぼそと話す声には聞き覚えがある。

 なにを!と怒鳴りこんでやろうと思った瞬間


 ‟そのように、また酒場で話してくれ。前の時と同じようにな。ほれ、これでたっぷり飲め”


 チャリンという効果の音が聞こえてきた。


 ‟へへ、ありがてぇ”


 といういやらしい含み笑いがして、誰かが去っていく音がした。


 グレイドが声の主を捕まえようと出ていこうとしたとき、


 ‟おい!お前何をさぼっている。さっさと馬の準備をしろ!もうすぐ大臣がお出になられるぞ”


 という別の声がして


 ‟ひ、す、すみません”


 という馬番の老人の声が聞こえてきた。

 なおも追いかけようとしたグレイドに今度は別の方から自分に声がかかる。


 ‟グレイド副隊長、こんなところで何を?隊長が探しておられましたぞ”


 王宮内を巡回している兵だ。


 ‟あ、ああ、わかった”


 ちっと、舌打ちしてグレイドは王宮内に戻る。


 あれはグレイドもよく知る馬番の老人だ。長い事勤めていて、馬をよく使うレイシャーンとは仲がいい。それなのになぜレイシャーンにとって悪いうわさを金を払ってまで広めようとしているのか。


 誰に頼まれたのか後で問い詰めようと思っていたグレイドだったがそれが叶うことはなかった。


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