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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP23 噂1

 

 王太子の死からしばらくした頃、王宮内におかしな空気が流れていた。あちこちでひそひそ話し声が聞こえてくる。それなのにミシルカが姿を現すとそれがピタッと止まる。さすがにミシルカも気まずい雰囲気を感じながらも問いただすことができずにいた。


 ある日、朝の執務を終えて部屋に戻ると、お茶を入れてくれた侍女が恐る恐るミシルカに声をかける。


 ‟あの…ミシルカ様、また城下に行かれるのですか”


 ‟?時間が空けば今日明日にでも行こうと思っているけど、なぜ?”


 ‟実はあの、今日下女に聞いたのですが、城下で変な噂が広まっているようで”


 ‟うわさ?どんな噂?”


 最近の宮中に流れるおかしな空気の事が頭をよぎる。


 ‟ミシルカ様の噂なのです。もちろん根も葉もないものなのです。ミシルカ様を知らないものたちが面白がって噂をしているだけなのだと思いますが…”


 ‟だからどんな噂だ”


 はっきり言わない侍女にミシルカが少し苛立って問いただす。


 ‟…例えば、ミシルカ様はもうすぐ王太子になるので贅沢を始めたとか。人気を取るために慈善活動を行っていたけど立太子が決まったからそのお金は自分の贅沢のために使っているとか”


 ‟なんでそんな!大体王太子が誰になるかなんてまだ決まってない”


 予想もしていなかった侍女の返答に驚く。


 ‟後は、その…レイシャーン様と仲が悪くて、ミシルカ様がレイシャーン様を虐げているとか”


 ‟根も葉もないことだ!”


 と声を荒げる。


 “ひ!申し訳ありません!でも、その様な噂が市中に流れているのです。ですから外出は控えられた方がよろしいかと”


 侍女は身をすくめるが、話せと言ったのは自分だ。カッと頭に血が上ったが、冷静になるように深呼吸をする。


 だが一体何なんでそんな噂が。誰が?


 侍女たちに頼んで王宮内での噂を集めてもらうと、やはり、レイシャーンとの仲たがい、ミシルカの贅沢癖(お忍びで城下で遊んでるとか)いう身に覚えのないことばかりだった。


 ‟その噂は私も聞いた”


 その夜、城下の見回りから戻ってきたレイシャーンが孤児院で聞いてきたことを伝えた。孤児院の子供たちや修道士たちが街でそんな噂を耳にしているらしい。


 ‟エリスがぷりぷり怒っていたぞ。当然城下の民のほとんどはお前のことを知らない。外見が美しいという評判だけを知る者は、お前が服や装飾品、舞踏会に金を使っていると言われれば信じるのだろう。しかし、不思議なのが、なぜ今急にこんな噂が広まったかだ”


 ミシルカもレイシャーンも考え込んでしまった。


 ~~~


 ‟ミシルカ様、これから城下へ行かれるのですか?”


 侍従が眉を顰める。


 ‟ああ、いつも通り孤児院と療養所の様子を見てくるだけだ”


 ‟今はおやめになったほうがよろしいのでは?”


 侍従は噂のことを心配しているのだろう。


 ‟大丈夫だ、心配するな”


 ミシルカは何気ない素振りで侍従に言って馬車の準備をさせた。




 ‟天使様はゼイタクをしているの?”


 ‟…” 


 いつものようにまとわりついてくる子供たちが遠巻きに見つめている。その中の小さいのがいきなりミシルカに質問する。固まってしまったミシルカにもう少し大きなジョナという子が問いかける。


 ‟ミシルカ様は王宮に帰ればいい服を着て、おいしいものを食べて、欲しいものは何でも買えて、だからお金をたくさん使うんだって。だから俺らに所には食べ物を買う金は来ないんだって、本当なのか?”


 ‟ジョナ!やめろ!”


 エリスが慌てて駆け寄って来た。言葉をなくしてしまったミシルカに頭を下げ、


 ‟申し訳ありません、ミシルカ様。こら、お前もんだ謝るんだ”


 とジョナの頭を無理やり下げさせる。しかしジョナは不服そうな顔をしてミシルカをにらみつける。


 ‟だって、街の奴らがミシルカ様が寄付で集めたお金で贅沢をしなければ俺らはこんなにひもじい思いをしなくてもいいはずだって言ってたんだ”


 ‟ジョナ!”


 ジョナを叩きそうになるエリスをミシルカは止めた。


 ‟いや、いい”


 ‟ミシルカ様、こちらへ”


 と、エリスと共にやってきた修道女がミシルカを事務室に誘導する。ミシルカは青い顔をして黙って従った。


 ‟ミシルカ様、本当に申し訳ありません。ジョナには後でよく言いて聞かせます。ただご存じかと思いますが、最近どうしたわけか街のあちこちでそういう話を耳するのは本当です。だから子らも街で遊んでいる他の子から聞いてくるようで。エリスのように聡い子ならば相手にしないのですが何分小さい子らは噂をすぐ鵜呑みにしてしまって”


 ‟いや、大丈夫だ。噂など、そのうち収まるだろう。子供たちに悪気がないのはわかっている。しかし、反論できないのが情けなくてな”


 もちろん王族として暮らしているミシルカは着る物も食べる物も孤児たちとは比べるべくもないのだ。贅沢をしていないとどうして言えよう。


 ‟ミシルカ様、その様にお考えになってはいけません。もともと王族にお生まれの方と市中の民を比べること自体が間違っているのですから。それにミシルカ様は他のどの高貴なお方より子らのためにお仕事をしてくださっています”


 修道女は必死に訴えるがミシルカの耳には入ってこなかった。


 ミシルカはそのあとの療養所でも同じような思いをした。さすがに大人たちは面と向かってミシルカに何かを言うようなことはなかったが、ちらちらとミシルカを見て目が合うと気まずそうに眼をそらしたり、ひそひそと話し合ったりするのが聞こえてきた。


 王宮に帰ってきたミシルカは浮かない顔をしたままいつもより早く自室にこもってしまった。


 ‟その噂は俺も聞いた”


その日城下の見回りをして帰ってきたレイシャーンが町人や孤児院で聞いてきたことを伝えた。


 ‟エリスがぷりぷり怒っていたぞ。当然城下の者のほとんどはお前の事を知らない。美しいという評判だけを聞けばお前が服や装飾品、宴などに金を使っていると言われれば信じるのだろう。不思議なのはなぜ今こんなに急にこんな噂が広まったか、だ”


 レイシャーンが最近市中の見回りをしてると、いつも気安く声をかけてくる街のおやじたちが(レイシャーンとミシルカの関係を知らずに)レイシャーンから何か聞き出そうとしたり、噂話に巻き込んだりしようとしてきた。大人たちの噂話は子供のそれよりももっと下世話で不快になるものだった。レイシャーンはどうにか噂の出どころを突き止めようとしたが徒労に終わった。

 イライラと噂をしている者たちを睨みつけるも、いちいち訂正したり咎めたりすることもできず、日に日に元気がなくなるミシルカをなすすべもなく見守るしかなかった。



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