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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP22 ルードヴィックの死

 


 新しい年に入った頃から王太子ルードウィックは少しずつ衰弱していった。国内最高の医師の治療も国内外から集めた効果は薬も高名な呪い師の祈祷も彼の病の進行を止めることは出来なかった。今度大きな発作が起きれば今この時にでも、発作が起きなくとも彼の命が長くないだろうというのが医師たちの見立てだった。長年病魔と闘い続けてきたが彼の体力も精神力も限界にきていた。

 最近は実母である王妃エレノリアは片時もルードヴィックの傍を離れずに付き添っていた。


 それでも苦しい息の下で彼はミシルカやレイシャーンが見舞いに訪れると嬉しそうに微笑み、彼らの話を聞きたがった。


 今日もレイシャーン達の短い訪問が終わった後、寝台の傍に腰を掛け彼に薬を飲ませ髪を梳くエレノリアにルードヴィックはとつとつと話始める。


 ‟ミシルカもレイシャーンもいい子ですね。忙しいだろうにこうして見舞いに来てくれる”


 ‟そうね”


 ‟ああ、私ももう少し健康だったら二人と共に父上をお助けできるのに”


 エレノリアの表情が曇った。


 ‟私は本当は騎士になりたかったんですよ。剣を取って馬に乗り…”


 少しの沈黙。


 ‟自由に駆けてみたかった…レイシャーンのように”


 応えられない母にルードヴィックは問いかける。


 ‟ねぇ、母上。私は哀れですか”


 エレノリアの手がピクっと止まる。


 ‟王太子でありながら何一つ役目を果たすことが出来ない私は哀れですか?”


 ‟ルーディ…”


 ‟父上が私を王太子から降ろさないのは私が哀れだからですか”


 この繰り言はほとんど彼の日課になっていた。特にレイシャーン達の訪問の後に決まって始まる。


 ‟私は自分がみじめですよ、母上。慕ってくれる弟たちが妬ましくて憎い。憎んでしまう自分がみじめだ”


 エレノリアはこぼれそうになる涙を必死でこらえた。これは罰だった。こんな風にこの子を産んでしまった母への罰。だから黙って聞かなければならない。彼が押し殺している感情を吐露できるのは薬を飲んで朦朧とした時だけなのだから。


 ‟レイシャーンが妬ましい。あの生命力にあふれた美しい瞳、笑顔、強靭な体”


 声が低くなる。


 ‟妾の子のくせに。私が持ちえないものを何でも持っている。憎い…憎いのに焦がれてしまう。あの笑顔を見ると胸が高鳴る。同時に殺してやりたいくらい憎くなる”


 呪いのような言葉が紡ぎだされ、枯れ枝のような指が敷布を握りしめる。


 ‟この国は…いつか彼のものになるんだな”


 ‟そのようなことは…”


 エレノリアの答えを聞かずにルードヴィックの目は閉じられた。しゃべり疲れたのだろう。エレノリアは堪えていた涙をそっとハンカチで拭い侍女を呼んだ。そして彼女は自室に戻り、一人で泣くのだ。それも彼女の日課になっていた。




 それから一月もしないうちにルードヴィックは静かに息を引き取った。

 齢二十四歳。神より与えられた時間のほとんどを病との戦いに費やした人生だった。




 王太子の葬儀はしめやかに行われた。父であるロンズディン国王とミシルカ、レイシャーンももちろん悲しんだが、王妃の憔悴ぶりは痛々しく、今度は彼女が倒れてしまうのではないかと危ぶまれる程だった。

 家族にこそ愛されていたけれど公務を行うどころかほとんど人前に姿を現すことがなかった王太子の死に、人々は表面上は喪に服していたが目下の関心は次の王太子に誰がなるかという事だった。


 年上であるが妾腹のレイシャーンか年下の正妃の実子ミシルカか。軍で絶大な人気を誇るレイシャーンと歴史のある貴族から押されているミシルカ。最近はカーメイのお気に入りのレイシャーンとモレスロントの後ろ盾があるミシルカ、という点が加わった。


 そして国王の迷いを表すかのように、いつまでたっても次の王太子の名前は発表されなかったのである。

 その事が一層人々の興味を掻き立て、権力の中枢に近いところにいる者達はどちらの王子に付くべきか様子を窺っていた。そう、何かが、誰かが動き出すのを窺っていたのだった。




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