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黄昏時に落ちる星  作者: 有間ジロ―
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ドラマ黄昏時に落ちる星 EP21 見据える未来



 ‟陛下も王妃のおられる前であの話を持ち出すとは…”


 と苦い顔をする副将軍にマセラニー将軍が答える。


 ‟陛下にとっては悪い話ではないのだろう。もしカーメイと縁組ができればつながりが強くなる。なんといってもあの国は強い。同盟のために縁組は願ってもない話だ”


 ‟しかし、陛下はレイシャーンを出す気は毛頭ないであろう。だからと言ってもしカーメイの王族が王宮内に入ってきたら王妃はモレスロントの王族、面白い話ではないだろう”


 二人の会話を聞きながらレイシャーンは小さくため息をついたが何も言わなかった。


 近年西に位置するギルアドニアとの緊張は高まっている。以前一悶着あったドミトリ王子が政治に介入するようになり一層関係は悪くなった。軍自面では決して強くはないロンズデインは、もしギルアドニアから攻め込まれれば危うい。今のところはかろうじてお互いを牽制しあってどうにか均衡を保っているところだ。


 現ロンズデイン王の王妃エレノリアは北に位置しているモレスロントの前王の姪にあたりそういう意味では一番近い関係にある。

 ロンズディンの東に位置するカーメイは大陸の中では一番武力的には強い。前王の時代まで大陸一強いと言われる騎馬兵隊を使い戦争に明け暮れ大陸の東側に領土を広げてきた。そのため現カーメイ王は今のところ自国の整備や産業などを充実させることに重きを置ていてあまり他国への干渉はしてこない。賢王といわれており武人でありながら政治力にも優れ自国の民にも慕われている。王太子であるゾリーク王子もその性格を受け継ぎ自由で型にはまらず広い視野を持ち、それでいて思慮深い面も持っている。その二人がレイシャーンを大変気に入っており、カーメイ国王の数いる子供たちのどれとでもいいから結婚させたいと言ってきているのだ。今のところ冗談めいた口調で正式な申し込みではないが、ロンズディン王としてはカーメイと縁組ができれば武力面で大きな後ろ盾ができるので乗り気なのだ。

 しかし歴史の長い貴族の力が強いモレスロントはカーメイを蛮国と嫌う傾向にある。モレスロントから嫁いできた王妃がロンズディンとカーメイとの婚姻を歓迎しないのは容易に想像できるし、それをロンズディン王宮内の大臣をはじめとする貴族たちは擁護している。軍部で人気のあるレイシャーンの勢力が高まることを良しとしてないないのだ。こうした勢力争い、後継者争いは本人たちが意図していないところで常にくすぶっているのだった。




 カーメイ訪問の報告を受けた後ラストリル宰相と王は執務室に来ていた。


 ‟今回のカーメイ訪問は意義があったようだな”


 ‟はい、国境付近の道の整備もほかの国よりも進んでいるため、商隊の行き来も多くなっておりますし、街道沿いの街もずいぶん活気が出てきております。税関の規模の拡大と建物の増築は必須事項です。あちらも前向きで労働力の提供などに積極的です。武力国家だけあってさすがに機動力に優れておりますな。動きが早い”


 ‟それにしてもあちらがレイシャーンをカーメイ王の子の一人と娶せたいというのはどの程度本気なのかの。今のところ、ギルドニアに表面上大きな動きは見られないが、どうも怪しい情報がちらほら入ってきておるからな。今のうちにカーメイとの関係を深めておきたいのだが”


 ‟さあ、それは何とも。正式にはまだ何も言ってきてはおりませぬゆえ。しかしあまりあからさまにカーメイとの関係を強めると逆に他国に警戒心を与えてしまうのでは”


 と宰相はやや声を落とす。


 ‟そこは慎重にせねばないるまいが…まあ、余としてもレイシャーンを簡単にくれてやる気はない。向こうから嫁が来てくれるのであれば歓迎するのだが”


 それ以上はっきりとした返事を返さない宰相に気にも留めず王は機嫌よく独り話し続けていた。



 湯あみをしてくつろいだレイシャーンの傍にミシルカが葡萄酒を持ってきた。侍女が杯やつまみを卓上に置くのを待ち、下がらせる。


 ‟父上は随分リーシャとカーメイの縁組に乗り気なようだな”


 ミシルカは杯をレイシャーンに渡しながら皮肉気に言う。


 ‟戯言に決まっている”


 杯を受け取ったレイシャーンは長椅子に座って口をつける。ミシルカの言葉には取り合わない。


 ‟どうだか。ゾリーク王太子がリーシャを本気で手元に置きたいのだろう”


 ミシルカの声には棘がある。


 ‟どうした、ルカ,機嫌が悪いな”


 ‟別に。リーシャはカーメイでは大人気だそうではないか。カーメイに行けば窮屈なロンズディンにいるよりずっとのびのびと暮らせるだろうな”


 棘のある言い方を止めないミシルカにレイシャーンも眉を顰める。


 ‟しつこいぞ、ルカ。何の話をしているんだ”


 ‟カーメイではお前をたいそう欲しがっていると聞いた。それが無理でもカーメイ王の子供を送りつけてきてお前と娶せ縁続きになりたがっていると皆が言っている”


 疲れているからか、いいかげんレイシャーンもイラっときた。


 ‟戯言だと言っただろう!お前の方こそ、ジャルドー伯爵がお前と自分の子を娶せようと躍起になっていると内大臣が親切に教えてくれたぞ。お前の縁談話の方がよほど現実的ではないか”


 ミシルカが黙り込む。


 ‟その話、本当なのか?”


 反論して来ないミシルカにレイシャーンが一気に不機嫌になる。


 ‟…私は承諾していない”


 ミシルカ小さい声で答える。


 ‟その話、進んでいるのか?”


 気まずい沈黙が流れる。しばらくして、レイシャーンがため息をつく。


 ‟なあルカ、覚えているか。丘の上で誓い合ったことを。心配するな。何ものも俺のお前への信頼は揺るがない。婚姻でさえも。お前は王位継承権を持っているし、もう結婚してもおかしくない年だ。ジャルドー伯爵のお子ならば申し分ないだろう”


 そう言うと、はっと顔を上げるミシルカの方を見ずに、レイシャーンは葡萄酒を一気に飲み干して立ち上がり扉に向かう。


 ‟さすがに今日は疲れた。強行軍だったからな。もう休む”


 ミシルカはレイシャーンの言葉にフルフルと首を振り、


 ‟嫌だ…リーシャ。私は婚姻など望んでいない!”


 と言って立ち上がりレイシャーンの背中にしがみつく。


 ‟私はこのままでいたい。ずっとこのまま共にいたいだけなのだ”


 レイシャーンの背中に額をつけて震える声で訴える。レイシャーンは体を返し、ミシルカを強く抱きしめる。


 ‟俺の…望みもそれだけだ”


 そうつぶやいたレイシャーンのほの暗い瞳を抱きしめられていたミシルカは見ることは無かった。

 どちらもそれ以上の言葉は紡ぐことが出来ず互いの温もりだけに縋りながら立ち尽くしていた。


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